シーン3:実装
制度盤が、静かに回転した。
紙をめくる音はない。
魔力の奔流も起きない。
ただ、巨大な魔導書類台の中央に、新しい語が刻まれていく。
「納期限」
それは命令ではなく、注釈に近い文字だった。
だが、刻まれた瞬間、世界の挙動が変わった。
遠景。
市街地の掲示板に、薄い光が走る。
これまで税目と税率だけが並んでいた欄に、見慣れない行が追加される。
日付。
数字。
区切り。
それを見て、誰かが声を上げることはなかった。
騒ぎも、歓声もない。
だが、人々の視線が、そこで止まった。
帳簿の世界では、もっと静かな異変が起きていた。
増え続けていた数字が、ある行で止まる。
加算の魔導式が、完了の符号を返す。
止まるという現象そのものが、これまで存在しなかった。
税は積み重なり続けるものだった。
払っても、払わなくても、次が来る。
終わりは想定されていない。
だが今、初めて「ここまで」という線が引かれた。
市民は理解していない。
制度として、まだ飲み込めていない。
それでも。
掲示板を見上げたまま、立ち去らない者がいた。
帳簿の前で、指を止める職員がいた。
誰も何も言わない。
ただ、世界の中に――
止まる瞬間が、生まれた。




