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『納付書を握りしめたまま異世界に転生した男は、期限までに帰ってこれるのか』  作者: 南蛇井


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シーン2:ザイゼルの判断

制度盤の前に、魔王ザイゼルは立っていた。


見下ろしているのは、帳簿でも条文でもない。

一枚の、異質な紙だ。


現世の自動車税納付書。

この世界の魔導文書と並べると、あまりにも簡素で、頼りなく見える。

だが、制度盤はそれを拒まなかった。

紙は中央に置かれ、淡く光を受けている。


ザイゼルは、しばらく何も言わなかった。


指先が、制度盤の縁に触れる。

力は込められていない。

それでも、場の空気はわずかに引き締まった。


「終わりがある」


低い声が、円形の評議場に落ちる。


「それは、恐ろしい概念だ」


誰も反論しない。

それが、彼の本心だと理解しているからだ。


終わりがあるということは、油断を生む。

終わったと思った瞬間、人は警戒を解く。

秩序は、常に維持されている時にしか、意味を持たない。


終わりは、再発の余地だ。

再び富は偏り、武は集まり、争いは芽吹く。


ザイゼルは、そのすべてを知っていた。

実際に見てきた。

終わらせなかったからこそ、守れた平和がある。


沈黙が落ちる。


制度盤の光が、ゆっくりと明滅する。

待っているのは、結論だ。


やがて、ザイゼルは続けた。


「……だが、必要だ」


その言葉は、重くも高らかでもない。

ただ、確定だった。


「終わらない秩序は、責任を奪う」

そう言わずとも、場にいる全員が理解した。


ザイゼルは、視線を上げる。

制度盤の向こうにいる卓也を見るでもなく、見ないでもない位置に。


この世界は、変わる。

それは敗北ではない。


新しい仕様の承認だった。

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