62/76
シーン5:自動車税納付書
卓也は、何も言わなかった。
反論は、思いつかなかったわけではない。
だが、口にする理由が見つからなかった。
ザイゼルの語った過去は、事実だ。
結果も、否定しようがない。
戦争は止まった。
死者は減った。
それは、成功だ。
卓也は視線を落とし、床の石目を見る。
整えられすぎて、ひび一つない。
間違ってはいない。
やり方も、考え方も。
ただ――
それしか、知らない。
卓也は、そう思った。
卓也は、ゆっくりと手を懐に入れた。
取り出したのは、一枚の紙だった。
折れ目が付き、角は丸くなり、ところどころに擦れた跡がある。
現世の――自動車税の納付書。
卓也は、それを言葉も添えず、前に進める。
魔王の執務机の上に、そっと置いた。
かすかな音がした。
紙が、石の机に触れる音。
この部屋では、やけに大きく響いた。
ザイゼルの視線が、その紙に落ちる。
文字を追うでもなく、触れるでもなく。
ただ、見る。
すぐには、手を伸ばさなかった。




