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『納付書を握りしめたまま異世界に転生した男は、期限までに帰ってこれるのか』  作者: 南蛇井


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シーン12 街の変化(静かな余波

夕方。


《生活均衡区》の通りに、薄い橙色の光が落ちるころ。

店じまいを急ぐ足音が、今日は少しだけ、ゆっくりだった。


パン屋の前で、二人の客が立ち止まる。


「今日は、売れ行きがいいみたいですね」


そう言われた店主は、一瞬考えてから、肩をすくめた。


「……うちは、少し余裕があります」


言い切りではない。

誇るでもない。


その言葉を聞いた隣の客が、小さく笑う。


「それなら、よかったです。うちは今日は、ちょっと厳しくて」


助けを求める声ではない。

嘆きでもない。


ただ、状況を言葉にしただけだった。


通りの別の店先でも、似たような会話が生まれている。


「今月は、なんとかなりそうですか」

「ええ、今日は、たまたま」


誰も計算しない。

誰も差を測らない。


それでも、口に出すようになった。


今までなら、言う必要がなかった言葉。

同じ額を払い、同じ顔をしていれば、済んでいたから。


だが今は、違う。


帳簿に増えた、まだ空白の一行が、

人の口を、ほんの少し軽くした。


革命は起きていない。

助け合いの制度も、まだない。


それでも。


この街で初めて、

「余裕がある」と

「厳しい」が、同じ夕方に、同じ通りで語られた。


それだけの変化。


だが、均されていた街に、

わずかな凹凸が生まれた瞬間だった。

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