55/76
シーン11 制度の小さな変化
フクシ・コウセイは、深く息を吸ったあと、顔を上げなかった。
宣言は、しない。
改革を語る声も、理念を掲げる言葉も、ここにはない。
彼はただ、帳簿の端をめくり、隣にいた書記へ短く告げた。
「……一律税率。再検討に入れてください」
それだけだった。
書記は一瞬だけ目を見開き、すぐにうなずく。
慣れた手つきで、帳簿の構成を変えていく。
新しい項目が、静かに追加された。
――減免。
見慣れない欄。
だが、異物としては扱われない。
そこには、まだ数字がない。
理由も、基準も、記されていない。
空欄のまま。
フクシは、その空白を見つめた。
「……使われないかもしれませんね」
独り言のように、そう言った。
卓也は、その言葉を否定しない。
肯定もしない。
ただ、その空欄が「存在している」ことを確認する。
同じ数字が並んでいた帳簿に、
初めて、違いを受け入れる余白が生まれた。
まだ、何も変わっていない。
だが、変えられる場所ができた。
小さく、音もなく。




