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シーン10
クシ・コウセイは、帳簿に視線を落としたまま、ぽつりと呟いた。
「同じであることが、守ることだと……そう、信じていました」
声は穏やかだったが、確信は含まれていない。
確認するような、独り言だった。
卓也は何も言わない。
帳簿には、整然と数字が並んでいる。
高い収入の者も、ぎりぎりで生きる者も、
そして、収入のない者でさえ――同じ数字。
同じ税率。
同じ金額。
フクシは、指先でその列をなぞる。
「……揃っていれば、不安は生まれないと」
そこで、手が止まった。
数字は、同じだ。
だが、その下にあるものは、同じではない。
誰かにとっては、少しの負担。
別の誰かにとっては、生活そのもの。
「重さが……違う」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。
部屋は明るいまま。
椅子の高さも、机の位置も、何ひとつ変わらない。
けれど、
“同じであること”が、静かに揺らぎ始めていた。




