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シーン9 応能負担という言葉
卓也は、椅子の背にもたれなかった。
身振りも使わない。
ただ、事務的に言葉を置いていく。
「別の考え方があります」
フクシ・コウセイの視線が戻る。
「応能負担、という仕組みです」
初めて聞く単語のはずなのに、
卓也は説明を急がない。
「払える人が、多く払う」
「払えない人は、少なく払うか、免除される」
間を置く。
「不公平に見えますが、目的は平準化じゃありません」
「生活を、続けられるようにするための配慮です」
演説にはならなかった。
是非も語らない。
ただ、制度が“ある”という事実を示しただけだった。
フクシは、初めて言葉に詰まった。
笑顔が、わずかに遅れる。
「……それでは、差が出ます」
その一言に、彼の思想がにじむ。
卓也は否定しない。
肯定もしない。
帳簿の同じ数字を、指で軽くなぞった。




