シーン5 一律税率の思想説明
フクシは椅子に腰を下ろし、卓也にも座るよう手で示した。
動きはゆっくりで、急かす気配はない。
「所得の差はですね、争いを生むんです」
語り口は穏やかだった。
誰かを説得するというより、共有しようとしている。
「多い人が多く払うと、損をした気になります」
「自分だけが、余計に持っていかれていると」
フクシは軽く肩をすくめる。
「逆に、少ない人が少なく払うと――」
「今度は、負い目を感じます」
言葉を選ぶように、一拍置く。
「助けられている」
「迷惑をかけている」
そう思わせてしまうこと自体が、問題なのだと。
「でも」
フクシは、卓也の方を見た。
「同じなら、そのどちらもありません」
指先で、机を軽く叩く。
音は、均等に響く。
「損も、負い目もない」
「ただ、みんなが同じように払う」
「不公平だと感じる余地が、なくなるんです」
それは理屈だった。
だが、冷たい理屈ではない。
「差をなくせば、不安が消えます」
「不安が消えれば、争いも起きません」
フクシは微笑む。
「これは、優しさなんですよ」
胸を張るわけでもなく、
誇らしげでもない。
当たり前のことを語るように、
彼は一律税率を“善意”として提示していた。




