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『納付書を握りしめたまま異世界に転生した男は、期限までに帰ってこれるのか』  作者: 南蛇井


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シーン10:小さな確認

冒険者の一人が、静かに前へ出た。

周囲の視線を集めるでもなく、ただ確認するように剣を構える。


一振り。


刃が空を切り、

次の瞬間、腕と肩に確かな反動が返ってくる。


――ある。


手応えが、きちんとある。


冒険者はもう一度、短く振る。

今度は力を抑え、重心の位置を確かめる。


深く息を吐いた。


歓声は上がらない。

誰も跳ねない。

喜びを表に出す者もいない。


ただ、誰かがぽつりと呟く。


「……戻ってますね」


それだけで、十分だった。


卓也はその様子を、少し離れた場所から見ていた。

剣の重さ。

腕に返る負荷。

使えば疲れるという当たり前。


――財産は、数値じゃない。


数字に置き換えれば管理はできる。

平均も、調整も、平準化も可能になる。


だが、

実感のない力は、

使われない。


守るために、軽くした。

争わせないために、削った。


そうして、

守ったつもりになっていた。


だが、

本当に失われていたのは、

“使う感覚”だった。


剣を振る意味。

力を扱う責任。


それらは、

重さと一緒にしか戻ってこない。


卓也は、無意識に右手を握った。

そこに、かつて納付書を握っていた感触を、ふと思い出す。


――第5話へ

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