シーン8:解除
ツイチョウは、しばらく黙ったまま立っていた。
考えている、というより――重さを測っているようだった。
指先が、基準表の端に触れる。
そのまま、離れる。
「……定義が、曖昧ですね」
声は小さい。
独り言に近い。
誰かに向けた宣言ではなかった。
ツイチョウは、机の横に置かれていた小さな鈴を、そっと鳴らす。
澄んだ音が一つ、室内に落ちる。
「第三税目官管轄分」
「装備・体力・技能に関する一時預かりを――」
一拍、置く。
「一時、解除します」
それだけだった。
大仰な手続きはない。
布告も、演説もない。
だが、空気が変わる。
卓也の身体に、じわりと重さが戻る。
足裏が床を踏む感覚が、はっきりする。
胸の奥で、呼吸が深くなる。
体力が、数字ではなく“自分のもの”として返ってくる。
棚の剣が、低く鳴った。
金属は、今度は確かに重い音を立てている。
スキルの感覚も戻る。
無理に抑え込まれていた力が、静かに目を覚ます。
ツイチョウは、それを見て、表情を変えなかった。
安堵も、後悔もない。
ただ、事務的に帳簿に一行、線を引く。
「暫定措置です」
「混乱を避けるため」
言い訳のようでいて、理由になっていない。
卓也は剣を取り、今度はしっかりと握った。
腕に、確かな負荷が乗る。
重い。
だが、それは不快な重さではなかった。
選び、扱い、振るう責任が、
きちんと自分に戻ってきた重さだった。




