シーン7:説明不能
ツイチョウは、少しだけ姿勢を正した。
それでも所作は軽いままだ。
「基準表は、こちらです」
机の引き出しから、薄い板状の書類を取り出す。
数値と記号が整然と並び、色分けされた評価帯が示されている。
「同等装備の平均値」
「過去十年の戦闘記録」
「死亡率と損耗率の相関」
指先が、滑るように項目をなぞる。
「この帯を超えた場合、過剰と判断されます」
卓也は黙って聞く。
「事例もあります」
「こちらは三年前の冒険者団です」
別の書類。
戦果と同時に、調整前後の数値が並んでいる。
「当時、装備が重すぎました」
「争いが増え、被害が拡大した」
ツイチョウは、穏やかに頷く。
「ですから、軽くしたのです」
続いて、棚の上段から一枚の布告を下ろす。
黒い印章が押されている。
「魔王令です」
「“過剰なる力は、領を乱す”」
読み上げる声に、迷いはない。
だが、卓也は視線を上げ、短く問う。
「誰が、最初に決めたんですか」
ツイチョウの指が止まる。
「この数値を」
「この帯を」
「“重すぎる”と判断したのは」
沈黙。
ツイチョウは、もう一度基準表を見る。
どこにも、名前はない。
過去事例を示しても、
魔王令を引用しても、
基準そのものの起点は示されない。
「……継承されてきたものです」
言葉は出たが、説明ではなかった。
「なぜ、この数値なんですか」
卓也の声は、変わらない。
ツイチョウは、初めて視線を上げられなかった。
善意で積み上げられた制度は、
いつの間にか、理由を失っていた。
誰が決めたのか。
なぜそうなのか。
軽くする理由は語れても、
その“重さ”を測った者の存在だけが、
どこにも見当たらなかった。




