シーン5:違和感
卓也は、壁に立てかけられていた剣を手に取った。
持ち上げた瞬間、眉がわずかに動く。
思ったより、ずっと軽い。
刃は確かに鋼だ。
冷たさも、硬さもある。
だが、腕に伝わるはずの重みがない。
試しに、軽く振る。
空気を切る音はする。
けれど、手応えが追いついてこない。
――数値は、ある。
卓也は直感的にそう思った。
重量も、攻撃力も、耐久度も。
帳簿の上では、きちんと存在している。
だが、実感がない。
剣が、自分の力の延長になっていない。
ただ「許可された範囲の重さ」を持っているだけだ。
卓也は柄を握り直す。
握力に問題はない。
筋力も落ちていない。
それでも、剣は軽い。
「……財産、か」
小さく呟く。
この世界では、力は身体に属していない。
装備も、体力も、技能も。
すべてが一度、数値に変換され、
管理可能な“財産”として並べられる。
そして必要に応じて、削られる。
卓也は剣を元の場所に戻した。
金属が当たる音も、やはり軽い。
重さがないということは、責任もない。
選択の結果も、個人には返ってこない。
そういう仕組みなのだと、
卓也は静かに理解し始めていた。




