シーン4:善意の説明
ツイチョウは机の上に、薄い書類を一枚置いた。
紙は白く、文字は少ない。
「高く評価された財産は、どうしても狙われます」
声は変わらない。
諭すようでもなく、ただ事実を並べているだけだった。
「人だけではありません」
「魔物も、盗賊も、時には仲間さえ」
指で、書類の端を軽く押さえる。
紙がずれないほどの力しか、込めていない。
「ですから、軽くするのです」
卓也は黙って聞いていた。
ツイチョウは続ける。
「持ちすぎると、危ないですから」
その言葉は、親切そのものだった。
「体力が高すぎれば、無理をします」
「無理をすれば、戦場に長く留まる」
「結果、争いが増える」
淡々とした口調で、因果がつながっていく。
「ですので、HPは調整します」
「致命傷にならない範囲で」
「死なない程度に」
卓也の指先が、わずかに動いた。
「技能も同じです」
「効果が強すぎると、頼りすぎてしまう」
「頼りすぎると、使い方が荒くなる」
ツイチョウは、少しだけ首を傾げる。
「弱まっていても、生きてはいけます」
「日常には、十分です」
生きてはいける。
戦えるとは、言っていない。
「強さは、幸福と比例しません」
「軽い方が、長く、穏やかに暮らせます」
ツイチョウは微笑んだ。
そこには悪意も、支配欲もない。
あるのは、行き過ぎた善意だけだった。
卓也は思う。
この世界では、守るために、削る。
争わせないために、力を奪う。
軽くなったのは、装備だけではない。
人が選べる余地そのものが、静かに削ぎ落とされていた。




