シーン3:税目官室
税目官室の扉は、驚くほど静かに開いた。
軋みも、重さもない。
中にいた男は、卓也の足音に気づくと、すっと立ち上がった。
その動きが、やけに軽い。
椅子を引く音も、衣擦れも、空気をなぞる程度で済んでいる。
無駄な力が一切感じられない所作だった。
「どうぞ」
声も柔らかい。
高くも低くもなく、耳に残らない。
胸元の名札が、静かに揺れる。
――第三税目官 ツイチョウ・チョウシュウ。
卓也が椅子に座ると、男はにこやかに頷いた。
「軽くなりましたね」
挨拶のように、そう言った。
天気の話をするのと変わらない口調だ。
卓也は返事をしなかった。
代わりに、部屋を見回す。
棚に並ぶのは装備品の模型。
剣、盾、指輪、巻物。
どれも本物そっくりだが、触れれば軽いことが分かる。
ツイチョウはそれに気づいたようで、穏やかに続けた。
「重いものは、争いを生みます」
「力も、武器も、欲も」
指先で、模型の剣をそっと持ち上げる。
指二本で、簡単に。
「重さは、人を前に押し出す」
「前に出た者同士が、ぶつかる」
模型を元の場所に戻す。
「だから、軽くするんです」
その言葉に、迷いはなかった。
「軽さは、平和です」
「振り回せなければ、振り回されもしない」
ツイチョウは微笑む。
善意だけで構成された表情。
卓也は、その笑顔を見つめながら思った。
軽い。
言葉も、考えも、そして――責任も。
だが、この部屋には、重さという概念そのものが、丁寧に排除されていた。




