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第3話 第二税目官編 『時間は、逃げません』シーン1:宿屋の朝
魔王領市街地の宿屋は、朝を迎えていた。
だが、まだ外は暗い。
窓の向こうに、夜の色が残っている。
それでも、廊下には人の気配があった。
客たちは静かに部屋を出てくる。
眠そうな顔のまま、
身支度だけを整えて。
誰かがあくびを噛み殺す。
別の誰かは、目をこすりながら歩く。
目覚まし代わりに鳴るのは、
魔導鐘の低い音だった。
時間を告げるというより、
起きる理由を知らせる音。
廊下の片側には、小さな窓口が並んでいる。
――滞在税精算。
――睡眠税精算。
簡素な札が掛けられ、
客たちは自然に列を作る。
誰も不満を言わない。
早すぎる朝も、
眠り足りない身体も、
ここでは、
当たり前のことだった。




