シーン10:空気の変化
その様子に、周囲の冒険者たちも気づいた。
視線が集まり、
だが声は上がらない。
ざわめきは、ごく小さい。
誰かが、隣にだけ聞こえる声で言う。
「……減ってない?」
別の誰かが、確かめるように返す。
「合ってる?」
言葉は、それ以上広がらない。
確認するだけで、
感情は動かさない。
ここでは、
大きく喜ぶことの方が、異常だった。
それでも、空気は変わった。
ほんの少しだけ、
今までと違う重さになった。
ゲンセンは、しばらく金袋を見ていた。
それから、口元をわずかに緩める。
苦笑だった。
言い訳はしない。
否定もしない。
「……確かに、受け取っていませんな」
それだけ言って、視線を戻す。
制度は、ここで崩れた。
だが、
人が壊れたわけではなかった。
ゲンセン・シュウゼイは、
ただ、間違いを認めただけだった。
卓也は、無意識に右手を見た。
この世界に来てからも、
まだ手放していない紙。
現世の自動車税納付書。
そこには、
納期限があり、
課税される時点が、明確に書かれている。
払う前と、払った後。
その境界が、はっきりしている。
もらう前に、
整える税は、
整えすぎていた。
――第3話へ




