シーン9:市民の小さな驚き(空気の変化)
その様子に、周囲の冒険者たちも気づいた。
視線が集まり、
だが声は上がらない。
ざわめきは、ごく小さい。
誰かが、隣にだけ聞こえる声で言う。
「……減ってない?」
別の誰かが、確かめるように返す。
「合ってる?」
言葉は、それ以上広がらない。
確認するだけで、
感情は動かさない。
ゲンセンは、しばらく金袋を見ていた。
それから、口元をわずかに緩める。
苦笑だった。
言い訳はしない。
否定もしない。
「……確かに、受け取っていませんな」
それだけ言って、視線を戻す。
制度は、ここで崩れた。
だが、
人が壊れたわけではなかった。
ゲンセン・シュウゼイは、
ただ、間違いを認めただけだった。
卓也は、無意識に右手を見た。
この世界に来てからも、
まだ手放していない紙。
現世の自動車税納付書。
そこには、
納期限があり、
課税される時点が、明確に書かれている。
払う前と、払った後。
その境界が、はっきりしている。
もらう前に、
整える税は、
整えすぎていた。
ここでは、
大きく喜ぶことの方が、異常だった。
それでも、空気は変わった。
ほんの少しだけ、
今までと違う重さになった。




