シーン6:問
卓也は、少し間を置いた。
反論するでもなく、
声を荒らげることもない。
ただ、確認するように口を開く。
「それ、まだ所得じゃないですよね」
声は低く、静かだった。
しかし、その一言で――
空気が止まった。
ゲンセンの手が、わずかに止まる。
隣の受付が、書類をめくる音をやめる。
後ろの列から、足音が消える。
誰も声を上げない。
だが、誰も先に進めなくなった。
その問いは、責めていなかった。
ただ、
順番を確認しただけだった。
ゲンセンは、すぐに答えなかった。
否定もしない。
声を荒らげることもない。
まず、引き出しを開けた。
束ねられた条文集を取り出し、
指で頁を送る。
「ええと……」
言葉を探しながら、視線を走らせる。
次に、慣れた調子で言い直す。
「これまでは、この運用で問題は――」
そこで、言葉が止まった。
前任者の名が挙がり、
過去の事例がいくつか語られる。
だが、どれも答えにならない。
いつ、所得になるのか。
受け取った瞬間か。
依頼が完了した時点か。
報酬が確定した時か。
どこにも、明確な線は引かれていなかった。
ゲンセンの口が、閉じる。
条文集が、机の上に伏せられる。
沈黙が落ちた。
誰も責めない。
誰も助け舟を出せない。
制度だけが、
言葉を失っていた。




