シーン6:問い
帳簿を閉じても、卓也はすぐに返さなかった。
石のベンチに座ったまま、
しばらく何も言わずに、その表紙を見つめている。
風が吹き、紙の端がわずかに揺れた。
やがて、顔を上げる。
声は低く、抑えられていた。
「これ、いつ終わるんですか」
問いは短い。
責める調子でも、疑う調子でもない。
ただ、
確認するような言い方だった。
リムルは、すぐには答えなかった。
一瞬だけ視線を彷徨わせ、
それから困ったように、口元を緩める。
「……終わる、ですか?」
聞き返す声は、冗談とも本気ともつかない。
そのやり取りに、周囲の市民たちが気づいた。
何人かがこちらを見る。
だが、誰も口を開こうとしない。
沈黙が広がる。
やがて、少し離れたベンチから声がした。
「生きている限り、ですが」
淡々とした口調だった。
別の誰かが、続ける。
「それが普通です」
どちらの声にも、疑問はなかった。
説明する必要すら感じていない様子だった。
リムルはそれ以上何も言わず、
帳簿を抱え直す。
卓也だけが、
その答えのなさを、静かに受け止めていた。




