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シーン3:市民の「普通」
しばらく、沈黙が続いた。
それを破ったのは、隣の青年だった。
「今日は、窓口が空いていて助かりました」
リムルはそう言って、抱えていた書類の束を膝の上で整える。
「月初めは税目が増えるので、いつもより時間がかかるんです」
言い方は、天気の話でもするように軽い。
卓也は、相づちを打つべきか迷い、結局何も言わなかった。
リムルは気にした様子もなく、続ける。
「仕事の帰りに寄れるかどうかで、今日の負担が変わりますから」
「混んでいると、それだけで待機税が嵩みますし」
淡々とした口調。
不満も、皮肉もない。
卓也は話を聞きながら、胸の奥に小さな違和感を覚えていた。
税が、会話の前提になっている。
生活の工夫も、時間の使い方も、
すべて税を中心に組み立てられている。
だが、卓也はそれを口にしなかった。
ここでは、それが普通なのだ。
少なくとも、
この青年にとっては。




