第十章:金色の星、見上げれば
(語り手:京海)
ガタン、ゴトン。
鉄の車輪が、規則正しくレールを刻む。その音は、私の心臓の鼓動と、いつしか重なり合っていた。六年前、不安と、そして密かな希望を胸に、上海からこの星火農場へと向かった時と同じ、緑色の列車。しかし、窓の外を流れていく景色も、そして、その景色を眺める私の心も、あの頃とは全く違っていた。
六年前、私は、上海から「逃げてきた」。
今、私は、上海へと「帰っていく」。
背中に感じるのは、もはや故郷を離れる哀惜ではない。胸に満ちるのは、得体のしれない不安でもない。それは、確かな重みを持った、誇りという名の感情だった。
私の手には、一枚の赤い紙が握りしめられている。「星火農場 労働模範・先進生産者 京海同志 上海帰省奨励証」。この一枚の紙が、私がこの農場で過ごした、血と汗と涙の六年間――二千百九十日という、途方もない時間の結晶だった。私は、誰かの養女としてでも、「童養婿婦」という名の生贄としてでもなく、ただ一人の労働者「京海」として、自らの力で、この上海への帰還を勝ち取ったのだ。
列車が、大きくカーブを描く。窓の向こうに、見慣れた景色が広がった。どこまでも続く、葦の原。その向こうに、私たちが汗で拓いた、広大な水田。そして、その大地に点在する、茅葺きの粗末な宿舎。星火農場。私の青春そのものだった、この場所が、ゆっくりと、ゆっくりと、遠ざかっていく。
ああ、私は、この風景を、生涯忘れることはないだろう。




