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路 金色の星―京海物語(青木家サーガ第2作)  作者: 光闇居士


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第八章:黒土に咲いた恋 1. 葦の原のソネット

1. 葦の原のソネット (1967年 春~夏)

星火農場に、二度目の春が訪れた。

海から吹く風はまだ冷たさを残していたが、凍てついていた大地は生命の息吹に満ちて柔らかくほぐれ、去年開墾した水田は、鏡のように青い空を映していた。青年たちの顔は、上海から来たばかりの頃のひ弱さを脱ぎ捨て、黒土の色と太陽の光を吸い込んで、精悍さを増していた。彼らはもはや都会の客ではなく、この大地の住人だった。

用水路の決壊を、人間の鎖となって食い止めたあの日以来、彼らの間には言葉では言い表せない、強固な絆が生まれていた。血と汗と泥の中で、彼らは一つの共同体になった。その中心には、常に京海がいた。彼女の太陽のような笑顔と、鋼のような意志は、誰もが認める精神的支柱だった。

しかし、その太陽の光が、ただ一人、特別な熱を帯びて注がれる存在がいることに、仲間たちはまだ気づいていなかった。

その変化は、ごくささやかなことから始まった。

厳しい労働が終わった後の、束の間の休息時間。青年たちが疲れ果てて言葉もなく座り込む中、京海とリャンは、よく二人で話していた。と言っても、それは他愛のない会話ではなかった。彼らの会話は、まるで秘密の儀式のように、この農場の現実から遠く離れた世界を旅していた。

「梁、あなた、スタンダールの『赤と黒』を読んだことがあるのよね?」

ある夕暮れ時、農具を洗いながら、京海がふと尋ねた。

「ああ。父の書斎でこっそりとね。なぜ?」

「ジュリアン・ソレルという人間が、私にはよく分からないの。彼は、あれほどの野心と才能を持ちながら、なぜもっと賢く立ち回れなかったのかしら。彼の情熱は、あまりにも純粋で、それ故に自らを滅ぼしたように思える」

梁は、泥水を流す手を止め、驚いたように京海を見た。この農場で、ジュリアン・ソレルの魂の在り方について語り合える人間がいるなど、夢にも思わなかった。

「…それは、彼が生きた時代が、彼のような平民の才能を受け入れるほど成熟していなかったからだろう。そして、彼自身が、自分の階級への劣等感と、貴族社会への憧憬との間で、常に引き裂かれていたからだ。彼のプライドは、彼の野心よりも、ずっと強かったんだ」

二人の間には、他の誰も入り込めない、知的な空間が生まれていた。梁は、自分が読んだ禁断の書物の世界の住人であり、京海は、その世界を、まるで実際に見てきたかのように自由に飛び回る、天賦の旅人だった。梁は、京海の、教育を受けていないはずなのに物事の本質を瞬時に見抜く洞察力に、畏敬の念を抱いた。京海は、梁の、膨大な知識に裏打ちされた深い思索に、魂の渇きを癒されるような心地よさを感じていた。

彼らの秘密の逢瀬の場所は、農場の外れに広がる、葦の原だった。月明かりだけが頼りの、真夜中。二人は、政治学習の時間に「体調が悪い」と嘘をついて宿舎を抜け出し、風にそよぐ葦の音に隠れて語り合った。

「プラトンの言う『哲人王』は、果たして可能なのだろうか」

「毛主席こそ、その理想の体現者だと、紅は信じているわ」

「だが、絶対的な権力は、いかなる善人も腐敗させる可能性があると、歴史は証明している。問題は、権力者を誰が監視するのか、という点だ」

「人民よ。人民が監視するの」

「その人民が、一人の指導者を神のように崇拝し、思考を停止してしまったら?それは、もはや監視とは呼べない」

その言葉は、あまりに危険だった。だが、葦の原は、彼らの不遜な問いかけを、ただ優しく包み込むだけだった。この秘密の時間は、二人の魂にとって、呼吸そのものだった。現実の世界が、思想の統一と個人の滅私を強要すればするほど、二人は互いの知性の中に、自由な精神の最後の避難所を見出した。

やがて、その精神的な共鳴は、淡い恋心へと姿を変えていった。

それは、本当に些細な瞬間に、不意に訪れた。

ある雨の日、ぬかるんだ畑で、京海が足を滑らせて転びそうになった。その瞬間、隣で作業していた梁が、反射的に彼女の腕を掴んで支えた。彼の冷たい指先が、汗ばんだ彼女の素肌に触れる。ほんの数秒。だが、その時間、世界のすべての音が消えたように感じられた。京海は、自分の頬に、カッと血が上るのを感じた。梁もまた、慌てて手を離すと、眼鏡の奥の瞳を戸惑ったように泳がせた。

夜、宿舎でランプの灯りを頼りに繕い物をする京海の横顔を、梁はじっと見つめていた。揺れる炎に照らされた彼女の長い睫毛、真剣な眼差し、そして時折結ばれる唇。彼は、そのすべてが、完璧な詩の一節のように美しいと思った。彼女がふと顔を上げた時、視線が絡み合い、二人とも、ばつの悪そうな顔で目を逸らした。

その甘酸っぱい変化を、誰よりも早く、そして敏感に感じ取っていたのが、ホンだった。

紅は、京海を崇拝していた。その強さ、優しさ、そのすべてが、彼女の理想とする革命戦士の姿だった。彼女にとって京海は、友情の対象であると同時に、信仰の対象に近い存在だった。彼女は、知的な梁が京海の良き話し相手であることを、最初は好ましく思っていた。「革命的同志」としての、素晴らしい友情だと。

しかし、彼女は見てしまったのだ。

ある夜、宿舎の隅で、京海と梁が、他の誰にも聞こえないような小声で話しているのを。彼らの間に流れている空気は、紅が知っている「友情」とは、明らかに異質だった。それは、もっと柔らかく、もっと親密で、どこか切なさを帯びた、二人だけの特別な響きを持っていた。そして、梁を見つめる京海の横顔が、紅が今まで一度も見たことのない、「女」の顔をしていることに気づいてしまった。

紅の心に、冷たいものが走った。それは、嫉妬だった。

自分が誰よりも京海を理解し、その魂に寄り添っていると思っていた。しかし、京海は、自分の知らない世界を、梁と共有している。しかも、その世界は、革命のスローガンが飛び交う公の場ではなく、葦の原の暗闇や、夜の宿舎の片隅といった、密やかな場所に存在している。

その嫉妬は、すぐに、革命戦士としての強い危機感へと変わった。

恋愛。それは、ブルジョア階級の、退廃した感情だ。個人の些細な感傷に過ぎない。我々は、革命の大義のために、個人的な感情など捨て去らねばならない。ましてや、梁は、両親が「右派」として批判された、いわば「黒五類」に近い、問題のある家柄だ。革命幹部の養女である京海が、そんな男と特別な関係になることなど、絶対にあってはならない。それは、彼女の輝かしい未来を、自ら汚す行為に他ならない。

紅は、京海を、そしてこの恋を守らなければならないのか、それとも、革命の純粋性を守るために、この恋を断ち切らねばならないのか、その矛盾に苦しみ始めた。

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