1. 鋼の肉体、黄金の魂
星火農場での最初の仕事は、「開墾」だった。農場の外れに広がる、葦が密生し、石ころだらけの荒れ地を、人の手だけで水田に変えるという、途方もない作業だった。
夜明け前、まだ空が深い藍色に沈んでいる時刻に、起床の鐘が鳴り響く。青年たちは、凍えるような寒さの中で身支度を整え、水で薄められた粥と、黒くて硬い饅頭を腹に詰め込むと、鍬や鶴嘴を肩に、隊列を組んで荒れ地へと向かった。
大地は、その牙を剥いて彼らを拒んだ。
冬の訪れと共に凍てついた土は、鋼のように硬く、鶴嘴を振り下ろしても、白い傷が浅くつくだけで、甲高い音を立てて跳ね返された。長年根を張ってきた葦の根は、地中深くまで複雑に絡み合い、まるで大地の血管のように、彼らの行く手を阻んだ。
一日中、腰をかがめ、同じ動作を繰り返す。鶴嘴を振り上げ、振り下ろす。鍬を土に突き立て、体重をかけて掘り起こす。石を拾い、運び出す。単純で、しかし際限のない、魂をすり減らすような労働だった。
都会育ちの青年たちの体は、すぐに悲鳴を上げた。手のひらの皮はめくれ、血豆が潰れ、泥と汗と血にまみれた。肩も、腰も、足も、まるで他人の体のように、鉛のような重さと、灼けるような痛みを発し続けた。
「もう無理だ…」
「こんなことのために、上海を出てきたんじゃない…」
「革命とは、こんな苦しいものなのか…」
あちこちから、弱音や、嗚咽が漏れ始めた。上海の駅で革命歌を高らかに歌っていた、あの輝かしい顔は、今や土と絶望に汚れ、歪んでいた。
そんな中で、ただ一人、まるで違う時間を生きているかのような少女がいた。京海だった。
彼女は、誰よりも早く作業に取り掛かり、誰よりも遅くまで手を休めなかった。彼女の動きには、一切の無駄がなかった。振り下ろされる鶴嘴は、常に最も効果的な一点を捉え、掘り起こされる土の量は、他の誰よりも多かった。彼女は、悲鳴を上げる筋肉を、鋼の意志でねじ伏せていた。額から流れ落ちる汗が、顎の先から赤土へと滴り落ちる。彼女はそれを拭うことさえせず、ただ黙々と、大地と対峙し続けた。
彼女は、決して弱音を吐かなかった。文句も言わなかった。その小さな背中は、まるでこの荒野に打ち込まれた一本の杭のように、決して揺らがなかった。
その姿は、必然的に、周囲の青年たちの注目を集めた。
特に、二人の対照的な青年が、彼女に強い視線を注いでいた。
一人は、紅という名の、情熱的な少女だった。彼女は党員の娘で、誰よりも純粋な革命思想に燃えていた。赤いスカーフを頭に巻き、その瞳は常に理想の炎で輝いていた。彼女は、この過酷な労働を、毛主席が与えたもうた、ブルジョア根性を叩き直すための、栄光ある試練だと信じていた。
「同志たち!弱音を吐くな!我々は、貧農下中農の硬骨精神を学んでいるのだ!一鍬一鍬が、社会主義への道を作るのだ!」
彼女は、自らを鼓舞するように、そして仲間を叱咤するように、常にスローガンを叫んでいた。彼女は、京海の黙々とした働きぶりの中に、プロレタリアートの鑑とも言うべき、理想の姿を見ていた。あの強さ、あの忍耐力。あれこそ、真の革命戦士の姿だ。紅は、京海に、燃えるような憧憬と、同志としての強い連帯感を感じていた。
もう一人は、梁という名の、物静かな青年だった。彼は、黒縁の眼鏡をかけた、都会的な顔立ちの読書家だった。彼の両親は、かつて大学で教鞭をとっていたが、「反右派闘争」で批判され、その地位を追われた過去を持っていた。梁は、紅のような熱狂を、どこか冷めた目で見つめていた。彼は、この運動の裏にある権力闘争の匂いを、本能的に嗅ぎ取っていた。
彼は、肉体労働が苦手だった。その細い腕では、鶴嘴を数度振り下ろすだけで、息が切れた。彼は、すぐに劣等生としてのレッテルを貼られた。しかし、その眼鏡の奥の瞳は、誰よりも鋭く、そして深く、周囲を観察していた。
彼の視線は、京海に釘付けになっていた。彼は、京海の強さに、紅とは全く違う質のものを感じ取っていた。あれは、スローガンが生み出した、借り物の強さではない。もっと根源的な、生命そのものが持つ、しなやかで、揺るぎない力だ。彼女は、大地と戦っているのではない。対話しているのだ。まるで、気難しい獣を、その忍耐と誠実さで手懐けようとしているかのように。梁は、その姿に、自分が読み耽ってきた物語の、どの英雄にも似ていない、全く新しい人間の原型を見たような気がして、心を激しく揺さぶられた。




