巨艦駆除戦
緑のレーザーが赤い船体装甲に届く。
超長距離射撃なので減衰は凄まじく、命中しているのに火国艦の装甲は壊れもしないし溶けもしない。
『マスター! 位相障壁の反応なし!』
「わざとか?」
『不明!』
メモリの報告を聞きながら、外見が違法建築な契国弩級艦の推進機と跳躍機関を酷使する。
火国艦隊がいる方向から迫っていた、数が多すぎて巨大な壁のようにも見える弾幕を、斜め下へ滑り落ちるような移動で回避する。
もちろん、この程度で完全回避できるような甘い攻撃ではない。
あらかじめ回避する方向を予測していたかのように、火国の前後に長い艦から多数のレーザーが延びて一定の範囲を埋め尽くす。
最初は位相障壁を球状に展開していたが、火国艦隊の反対側からの攻撃はなかった。
なら打てる手はある。
まず、球状から艦がぎりぎり隠れる大きさの円状にして火国艦隊に向ける。
レーザーにホーミング機能などない。
同じ方向から飛んでくるレーザーを、小さくした分、厚くなった位相障壁で受ける。
障壁へのダメージはあるが軽微で、障壁へのダメージと障壁の回復が釣り合い障壁が分厚いままになった。
『マスター、強いことは強いけど、単純だよね』
【勘を使う必要のない、計算だけで済む相手はつまらないです】
カノンは、火国の攻撃の第三陣である質量弾を、弾幕が薄くなるのが分かる頻度で大量に破壊している。
融解や爆発させただけなので残骸の速度と質量は脅威ではあるが、広々とした宇宙では躱すのは簡単だ。
当たっても障壁や船体装甲を撃ち抜くための硬さや形が失われているのも楽でいい。
「ケースさん。船体に搭載した兵器が有効でない場合、ケースさんなら次にどんな手を打ちます?」
今回の作戦ではメモリ、俺、カノン、ドローンの四人が一隻の弩級艦に乗っている。
それぞれ異なる四人がいれば火国の巨艦艦隊も余裕、になるなら楽だがそんなことはあり得ない。
カノンによる対空攻撃と、俺の手による回避と位相障壁による防御、ドローンによる艦載機の偵察と情報分析、そしてある程度俺の真似ができるメモリの補助により、火国艦隊相手に時間稼ぎをして情報を引き出すのが精一杯だ。
「小型艦で回避を妨害する、小型艦で退路を断つ、逃げる、体当たりのどれかだな」
「また極端な……」
ドローンが操作する偵察専用艦載機は、火国艦隊から大きく距離をとった上で、火国艦隊を全方位から監視中だ。
ドローンが集めた膨大な情報をメモリが受け取ると、機械人間が不得意な操縦ではなく、機械人間が得意な情報処理が行われる。
『マスター、たぶん増援はないと思う。灰相界から直接増援が来ないなら、だけど』
「そこは一番の奴に期待しよう」
灰相界では一番が攻勢に出ている。
指揮能力だけを考えればワンオ氏の方が強いが、ワンオ氏は【声】への抵抗力が弱いので本家聖国相手の戦闘では使えない。
カノンに【声】でねだられて、何度も模擬戦に応じていたからな。
最終的に【声】が全く効かないシロとクロにカノンが捕縛されて騒動は終わったが、【声】の危険性を改めて実感させた出来事だった。
【本家聖国の跳躍機関の性能が良ければ、もう少し歯ごたえがあったのですが】
カノンは火国艦隊からの質量弾を一通り破壊し終え、火国の巨艦から発射される瞬間のミサイルを狙い撃って爆発させるというわけの分からないことを始めている。
限界まで攻撃範囲を限定すれば理論上は可能かもしれんが、あくまで理論上だぞ?
『カノン、僕らの跳躍機関もあまり変わらないよ? 実相アンカーを躱すくらいなら問題ないけど、灰相界まで行くときは結構隙だらけになるし』
発射筒だけでなく兵器に内蔵されていた他のミサイルも爆発に巻き込まれて破壊が拡大する。
凶悪な威力の爆発が生じ、硬化した表面だけでなく「まだ生きている」奥の肉と内臓が宇宙に露出した。
「行き来しながらの戦闘はまだ試行錯誤の段階ですね。ケースさんならもう何か案があるんじゃないですか? そろそろ信号機型戦艦に合図を出しますね」
「俺の知ってるPvP知識を流用できない分野だから期待するなよ。……来たか」
戦場のすみっこから超光速質量弾が飛んでくる。
狙いは、硬い装甲に穴が開いた火国艦だ。
生々しい傷口に砲弾が突き刺さる。
少々のデブリなら体液が少し飛び散る程度ですむ艦あるいは肉体が、光速を超えた砲弾に押され、凹まされ、巨大な衝撃を流し込まれて、弾けた。
硬くされた表面も、弩級艦で使われるサイズのコクピットや兵器も、圧倒的質量の爆発には耐えきれない。
生きていた者も機能していた者も、すべて宇宙を漂うゴミと化した。
【一匹とか二匹ならよいのですが】
カノンの【声】には嫌悪が滲んでいる。
敵艦も残骸も生々しく、これだけ数が多いと俺もちょっと気持ち悪く感じる。
「残り百七十匹だよ、姉さん」
一隻二隻と数えるのが正しいか、一匹二匹と数えるのが正しいかは、個人の価値観によるだろう。
【ドローン! 誰が数えろと言いましたか!】
「気になるならディスプレイの設定をアニメ風に切り替えろ」
火国艦隊に向かう超光速質量弾は一度に五十を超えてはいるが、傷口に突き刺さるものは少ない。
直撃されて即死した火国艦は現時点で二匹。
十を超える弾に痛めつけられて、同型艦にぶつかるほど暴れているのが七匹。
残りの百六十一匹は、元気に反撃中だ。
【なんて散漫な攻撃……】
巨体に埋め込まれた弩級艦用レーザー砲塔やミサイル発射筒が巨大な破壊力をばらまく。
が、当たらなければ無意味だ。
せめて俺たちが乗る艦に全ての攻撃を集中すれば、俺やカノンのミスで直撃することもあったかもしれない。
『マスター。砲撃戦艦部隊の方に損害はないみたい』
契国弩級艦と契国砲撃戦艦部隊の両方を一度に攻撃するなど、弾薬とエネルギーの無駄だ。
主星系の教習所でこんなことをしたら、パイロット資格を目指すのを諦めるよう勧められてしまうだろう。
「それなら安心だ」
弩級艦によるレーザーが多くのミサイルと質量弾を無力化する。
既に位相障壁の出番すらなくなっていて、俺は「既に慣れた」弾幕の隙間を弩級艦に通過させる。
【たまにはわたくし個人で撃破したいです】
カノンによる蹂躙が再開される。
ただ単に大出力なだけのレーザーが、はるか遠くにある火国戦艦のミサイル発射筒のさらに一点に集中して照射される。
火国側が気づいても既に遅い。
覆いを兼ねた装甲の極一部が溶かされ、その奥にあるミサイルへ、レーザーの熱が強制的に与えられる。
『そういえばマスター。カノンと息、あってるね?』
唐突に、メモリの声と気配が不穏になった。
敵の攻撃を躱しながら敵に攻撃を当て続けるのは、回避担当の癖を知り抜いていないとできないことではあった。
【ケースさんはリードが得意ですよね】
「この馬鹿姉っ」
【た、たとえですから!】
俺の席からではメモリの顔は見えない。
おそるおそる振り向くと、メモリが『どうしたの?』と不思議そうに目の光をまたたかせていた。
【直撃が三匹です。なかなか減りませんね】
カノンが言葉にしてから主観時間で数秒後、カノンがつけた傷口に直撃弾を浴びた火国艦が三つ、死んだ。
「この状況に持ってくるまでの準備を考えれば短時間ですよ」
ドローンは、心底疲れた顔でため息を吐く。
「残り何匹だ?」
『マスター、そろそろ死にそうなのも除くと百四十匹と少しだよ!』
「ありがとう。……殺し尽くすまで弾が足りるか心配になってきたな」
信号機型戦艦用の弾はかなりの大きさなので、一度に積み込める数は控えめなのだ。
「判断力が少しでも残っているなら、こっちの弾が尽きるまでに降伏を申し出てくると思います」
ドローンは若く優秀で「自分以外が馬鹿に見える」傾向を持ってはいるが、内政でも外交でも海千山千の根性悪どもを散々相手にしてきたので、ドローンの判断は信用も信頼もできる。
『でも降伏の動きは全然ないよ? 本家聖国の【声】の洗脳が強力だから?』
【根性があれば、例の数値が低くても多少は抵抗できるはずです。ワンオさんに殺し合いをお願いしても絶対に頷いてくれませんでしたから】
射撃に集中しているカノンが、衝撃的な情報を無意識に口にした。
「姉さん!? 僕それ聞いてないよ!」
『カノン、それ本当!? うわ、今クロと通信繋がってるけど、ワンオさんに口止めされてるから言えないって、すっごい怒ってる!』
先にメモリとドローンが動揺したので、俺は何度か深呼吸をする程度で落ち着くことができた。
「おいカノン。後でワンオ氏ご一家に頭下げに行くから付き合え」
【ケースさんに対する貸しを使います!】
シリアス顔で宣言するカノンに、俺は下品なジェスチャーを向ける。
「そんな話が通るわけないだろ。戦闘終了後でいいから、反省しろ」
カノンは肩を落とし、しかし敵艦や敵の弾への攻撃は決して外さなかった。
「ねーさま! 先生! これ見てください!」
緊急の連絡が砲撃戦艦部隊から届く。
発信元は部隊長ではない一パイロットだ。
平時なら軽い注意をしてから雑談くらいしてやるが、戦闘中に指揮系統を無視して情報を上げてくるなど、よほど重要な情報でない限り厳しい罰の対象になる。
「敵艦のパイロットが変です! なんか赤い! ヌネヌメしてました!」
『マスター。この子、例の数値が直近のメディカルチェックで四十五』
銀華未満だがカノン妹としてはかなり高く、【声】へ抵抗も容易な数値だ。
数値が上がったのは、おそらく灰相界でのミミズ駆除の影響だろう。
「ケースさん、漂流中の火国艦残骸に偵察機を向かわせます」
ディスプレイの一つに、艦載機の一つの視界が映し出される。
肉人間が乗っていたら絶対にできない加速を行い、戦場を大回りして小さな残骸の一つへ近付いた。
【救難信号も出していないのですか】
人型がいくつか見え、その一つが拡大表示される。
宇宙服の、透明な顔面部分に、赤ミミズの皮と肉で形作られた人間の顔面があった。
『いき、てる?』
その「顔」の動きを見たメモリが、呆然として目を弱々しく明滅させた。
「切るぞ」
俺は問答無用でディスプレイを停止させる。
全く知性の感じられない赤い顔が脳裏に焼き付いている感じがして、酷く嫌な気分だ。
俺はARメガネで報告者の名前を確認して記憶し、報告者へ声をかけた。
「黄葵。よく報告してくれた」
【状況はあなたの上官にも伝えておきます。刺激が強すぎる場合はフィルターをかけるようになさい】
「は、はいっ!」
俺に褒められ、カノンに気遣われたカノン妹は、顔を上気させて気合いの入った敬礼をした。
「ケースさん、見つけた火国パイロットが全員同じ状況です」
『マスター。最悪の場合、火国の星系全部の検疫と駆除をする必要があるかも』
「ドローンの言ったとおり、勝った後の方が仕事が多そうだ。クソっ。本家聖国の連中、予想以上に手段を選んでないな。メモリ! ディーヴァとハカセたちに大規模な検疫と駆除の準備をさせろ。本家聖国の本命は艦隊戦ではなくミミズの繁殖かもしれん!」
接触感染か空気感染か一定以内の距離で影響があるのかは現時点では不明だが、こういうのは一度広がると駆除不可能になりかねない。
【わたくしたちはどうします?】
「このまま戦闘、というより駆除だな。長時間の作業になる。カノン妹には、非番のときは寝て回復することを徹底させろ。アニメも漫画も主星系に帰ってからだ」
【承知しました】
「もう戦後ですね」
『マスターも早めに休憩をとってね。体力一番ないんだし』
メモリの心配そうな目の光を見て、俺は、カフェインたっぷりの飲み物の封を切らずに操縦室内の冷蔵庫へ戻すのだった。
☆
戦って戦って仮眠をとって。
俺が仮眠から目覚めたときには、火国艦隊は激減していた。
「ねーさまー! もうやですー!」
カノン妹の中でも指揮官適性が特に高いカノン妹が、部隊長としての立場でカノンに撤退を進言している声が聞こえた。
一番目立つ位置にあるディスプレイを見て戦況の把握はしたが、俺の寝起きの頭では敵味方の数くらいしか把握できない。
火国艦隊はかなり撃破されて残り六十隻と少し。
契国艦隊は二割ほどが被弾や砲撃のしすぎで中破して後方へ下がっている。
互いにぶつけあう火力は、戦闘開始直後と比べると激減している。
火国艦隊は単純に数が減り、契国艦隊は補給などで時間をとられているのだ。
「戦況はどうなっている」
カフェインたっぷりの奴を飲もうとしてメモリに拒否されたので、水分補給は後回しにしてドローンに尋ねる。
「完勝に近いですが姉さんの妹たちの体調が気になります」
『艦の調子よりも?』
「はい。姉さんや機械人間と比べると持久力に劣りますから、【声】やミミズの特殊能力に対する抵抗力が低下している恐れがあります」
ドローンは、風呂や食堂を搭載したグローブ型戦艦を主星系から呼んで、順番にカノン妹に使わせているようだ。
「特殊能力? 何か分かったのか」
『マスター、今ハカセが火国艦の残骸を直接調査してるんだけど、直接触れるとマスターでもちょっと危ないかもだって』
【妹たちは艦に乗っていれば影響はありません】
「姉さん、体調不良のときは別でしょ。ケースさん、どうします?」
「ドローンなら既に案はあるだろ? 体調が良いやつだけ残すとか」
俺がそう言うと、ドローンは軽く肩をすくめた。
「用意はしてますけど、ケースさんがもっといい案を出せばそっちでいくつもりですよ」
「期待に添えなくて悪いな」
「だと思いました」
気心の知れた仲なので、相手によっては侮辱と解釈されそうな言葉も気にせず使う。
【そろそろ帰宅して良いようなので、もう少しだけ頑張りなさい】
「はい……」
部隊長であるカノン妹が、肩を落としたまま通信を終了した。
契国艦隊の一部が戦場を離脱する。
俺たちが乗る弩級艦を援護可能な戦力は、戦闘開始直後と比べて半減している。
奇襲をするなら今が最高のタイミングであり、ドローンは緊張して、カノンはわくわくを隠せていなかった。
そして、何もないまま主観時間で十数分が経過した。
火国艦として使われていた加工された赤ミミズが四匹くたばったのと、弩級艦の操縦室の雰囲気が何も起きずに間の抜けたものに変わったのが数少ない変化だった。
「読みが外れたか」
鉄国が切り札を使って攻撃してくるか、まだ発見できていない黒い二十八隻が襲ってくるかのどちらかだと思っていたのに、何もなしだ。
『マスター。そろそろ、いつものメンバーが余計なことを考え出す頃だと思う』
「分かった。合図を送ってくれ」
弾薬の代わりに通信機器を、推進機の代わり跳躍機関を装備させたミサイルを一発打ち出す。
黒い宇宙からは一瞬で消えることはできても灰相界に届くほどの航続距離はない。
だが「ちょっと頑張って」位相跳躍中の艦に知らせを届けるには十分な距離を跳べる。
「位相跳躍の反応が二十八個出現しました。強度も癖も一致しています」
俺たちが乗る弩級艦の周囲に、二十八隻のサーフボード型巡洋艦が出現する。
サーフボートの形をした船体に、生々しい形状のレーザー砲塔を大量に埋め込んだ形の艦が、いつもよりも禍々しく感じられる。
『司令ー! 位相崩壊砲を積むの、無理がありますよ』
『バランスが滅茶苦茶です!』
『昇給ー! 昇給ー!』
レーザー砲塔の極一部が砲塔型の位相崩壊砲に置き換えられていて、その影響でいつもの二十八人が苦労している、らしい。
「仕方がないだろう。新型艦の設計、うまくいってないんだから」
灰相界で目撃した『サーフボード型』を参考にした改造は、これでもうまくいっている。
「お前らなら操縦できるだろ」
『パイロット虐待反対!』
『サーフボード型に操縦補助装置を積む余裕ないんですよ!』
『昇給ー! 昇給ー!』
メモリの言う通り、そろそろストレスと飽きが原因でろくでもないことを始めそうだ。
「ドローン、一度仕切り直すか?」
この二十八隻を使えば、火国艦隊と契国艦隊に距離をとらせるのも容易なはずだ。
【それは避けた方が良いと思います。火国艦隊を逃さず一定の範囲に抑え込めているのは、半ば以上偶然でこの戦況になったからです。次の戦いで火国がまともに戦おうとするかどうか分かりません】
カノンは若いく体力があるだけでなく妙な能力まで持っているので、俺とは違って口調も表情もはっきりしている。
「確かに。俺はまだ寝ぼけていたようだ」
このまま戦い続けても火国艦隊を全滅させることはできると思うが、疲労が溜まったカノン妹のうっかりや、疲労が溜まりすぎたカノン妹の心身に深刻なダメージが残るというような展開は避けたい。
「ケースさん、他にも問題があります」
ドローンの表情は深刻かつ真剣だ。
「この戦い、ケースさんや姉さんにとっては害虫駆除かもしれませんが、他の人間にとって、あの大きな火国艦を一隻倒すだけでも大戦果なんです」
『その視点は見落としてたかも』
メモリがうんうんと頷いている。
「姉さんに戦果と功績を集中させすぎると、戦後に姉さんへ高い地位を与えるしかなくなります。……姉さんのことです。地位も権力も欲しいけど面倒ごとは僕やケースさんに丸投げするつもりですよね? 次期代表になる気がないなら、今回の戦いからは手を引いてください」
【納得したくはありませんが分かりました。しかしその場合、ケースさんへの負担が重くなりすぎるのでは? 他の艦隊司令も担当の戦場で手一杯です】
艦や機械人間パイロットの増産は進んでいるのに、艦隊司令を任せることの人材は以前と同じ数しかいない。
「案があります。ケースさんとメモリさんに反対されると思いますが……」
ドローンの提案は完全な予想外ではあるが有効で、メモリも俺もなんとか別の案を見つけようとしたが失敗し、ドローンの案を受け入れるしかなかった。
☆
『臨時の艦隊司令に任命された銀華です! おねえちゃんたち全員の……んんっ。パイロットの皆さん全員の帰還と、契国の敵の撃破を必ず成し遂げます!』
契国初代代表の娘で、機械人間と肉人間のそれぞれの長所を兼ね備えてもいる特別な存在なのに、驕り高ぶることなく真摯にパイロットたちへ呼びかけている。
『マスターが何を考えているか分かるけど、銀華ってよく調子に乗るし、そのたびに身近な人に延びた鼻を折られているからね?』
【妹たちからは不屈の闘志を評価されているようです。ところで、銀華さんの艦隊のパイロットは全員女性ですか?】
「それはたまたまだけど、機械人間には女性型が多いよ。最近の機械人間用高級パーツは女性用の方が安いからね。銀華さん関連の研究成果が結構公開されているから」
あれこれ話しているのは分かるが、銀華の晴れ舞台が眩しすぎて他が耳や目に入ってこない。
『じゃあ作戦開始っ!』
銀華の号令で、数は多いがパイロットの機械人間が新人ばかりのビートボード型駆逐艦部隊が前進する。
俺たちの弩級艦もカノン妹たちの砲撃戦艦も後退を完了している。
火国艦の質量弾やミサイルは残り少なく一度に飛んでくる数は少ないが、弩級艦用の特大レーザーは戦闘開始直後と同じ威力を保っている。
『みんな! 作戦通りだよ!』
ビートボード型は、最初から回避は諦めて位相障壁にエネルギーを集中して敵の攻撃を受けとめる。
小破や中破に至る艦は多いが大破も撃沈もなく、損傷艦はすぐに無傷の艦と後退して安全な場所まで後退する。
『にゃ!』
興奮した銀華が人間の言葉を話さなくなるが、矢継ぎ早にデータとして送信される命令は的確だ。
一番と比べると極めて雑ではあるが、銀華と同じ操縦室にいるディーヴァが補うことで一番の七割程度の水準になっている。
機械人間パイロットが操縦する信号機型砲撃戦艦部隊が、強固な船体装甲と膨大な生命力を持つ火国の巨艦へ砲撃を開始する。
パイロットは一番の艦隊に選抜されない程度の腕なので、命中率は二割にも届かない。
【援護に向かっては駄目なのですか?】
「駄目に決まってるでしょう。ここで経験と実績を得てもらって、銀華さんを正規の司令にするのが目的です。戦後はまた契国の領域が広がるんだから、艦隊も艦隊司令も増やさないとケースさんが寿命の前に過労死しますよ」
『マスター。健康、大事だよ!』
俺でも怖く感じるほど、メモリの目は真剣だ。
俺がメモリを宥めている間にも戦いは続く。
契国の新艦隊は、膨大な物資を使い潰しながら、一匹一匹確実に赤い巨艦を仕留め、そして他の赤い艦を逃さない。
優れた質で敵を圧倒してきた時代から、敵に対抗的な質と圧倒的な数で敵を押しつぶす時代に変わったことを示すような光景だ。
「これなら大丈夫か。……カノン」
【はい……】
「僕もつきあいますよ」
『ワンオさんへのアポイントメント、今からとるね』
仕事の種類は変わっても、俺の忙しさは変わらないのかもしれないと思った。




