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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
最終章

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肉と機械の艦隊戦

契国と鉄国のつきあいは長く、お互いの強さを良く知っている。


だからやるなら徹底的にやる。


契国の主星系にいくつもある工廠に、地方星系から届けられた資源が際限なく吸い込まれていく。


工廠から出てくるのは全て同一設計の駆逐艦だ。


板状の船体に、眼球型レーザー砲塔がみっしり埋め込まれた、高加速と位相障壁の硬さとレーザーによる火力に定評があるビートボード型駆逐艦。


最初は劣化サーフボード型と呼ばれていたこの駆逐艦は、実戦経験を元に何度も設計の微修正が行われ、外見こそ変わらないが評価は大きく変わった。


『この艦つえー!』


『鉄国の巡洋艦より強いですわっ!?』


仮の体を与えられた元AIの機械人間が、ビートボード型の操縦室で騒いでいる。


そんな騒ぎを、俺たちは首都星系の宇宙港で聞いていた。


『『気持ちは分かります』』


某姉妹への情と、白兵戦への愛だけで生きているような機械人間の二人組が、強い共感をあらわにしている。


どちらもナニーと名乗る機械人間は、始めて乗る艦を雑に操縦『できている』新兵達へ、微笑ましいものを見る目を向けていた。


『驚きました』


衝撃を受けているのは、議員でこそないが代表代行の立場にある機械人間だ。


今は銀華をマスターにすることしか考えていないディーヴァだが、以前は膨大な時間をパイロットしての訓練にあてていたので、機械人間がどれだけ操縦に向いていないかよく知ってる。


『わたくしが操縦できるほど、操縦の難易度が下がったのですね』


契国の国籍を得たばかりの、新人機械人間パイロットがビートボード型を一応ではあるが操縦できているのには理由がある。


契国の機械人間の中で最も著名な機械人間パイロットの操縦ログと、肉人間の中で五位以内は入っている俺の操縦ログをもとに、新人パイロットの直感的な操作でも操縦が可能になる操縦補助装置が作られ、ビートボード型に組み込まれたのだ。


【ケースさん。技術の投げ売りではないでしょうか】


パイロットとしての俺をライバル視している雰囲気のあるカノンが、少し不満そうにしている。


通常なら、俺や俺以上の腕のパイロットの操縦ログは本人が死んでも売らないし買えない。


その操縦技術でとんでもなく稼げるし、ログが流出したらメタを張られて撃墜される可能性が激増するからだ。


「鉄国は、出し惜しみして勝てる相手じゃないからな」


【いえ、納得はし辛いですが、銀華さんのために絶対に契国を存続させたいケースさんがこうするのは意図は分かります。……一番さんがどうしてここまでするかが分からないのです】


『カノン』


メモリが、沈痛な表情と目の光をしながら言う。


『一番ってね。投機や投資で失敗したわけでもないのに借金凄かったの』


【あの方、艦隊運用ではわたくし以上の戦果をあげてますよね!?】


『それはカノンが戦闘しかしないからだよ』


もうちょっと真面目にして欲しいな、という目をするメモリに気付いた上で好き勝手するのがカノンという人間だ。


最近カノンが人間かどうか分からなくなってきているが、それは考えないことにしておく。


「姉さん、特殊装備ありのハイエンド機体って異様に高いんですよ。ログと引き換えに一番に払った天文学的なお金も、全部借金返済と後払いの支払いに消えたらしいですし」


ドローンがそう言いながら、完成した戦争全体の作戦案の了承を俺に求めてくる。


契国と鉄国の間で示し合わせたわけではないが、結果的に双方が同時に艦隊を出撃させて、星系の存在しない場所でぶつかりあうことになりそうだ。


「攻めてくる鉄国艦隊が推定二千隻?」


俺はこれまで何度も指揮をしてきたが、二百隻程度でも「指揮が行き届かない」と感じたことがあった。


どうすれば二千隻を効率良く動かせるかなんて、想像もできない。


『マスター。こっちも現時点で千隻は越えてるし、最終的に千五百程度までいけそうだよ?』


メモリは得意げに胸を張る。


可愛らしさと麗しさを兼ね備えたメモリはいつもと変わらず最高ではあるんだが、この戦争が俺の処理能力を完全に超えているという現実は変わらない。


「鉄国方面は総指揮をワンオさん、組織運営はディーヴァに任せます。火国と本家聖国に対しては僕が総指揮を。姉さんとケースさんと一番の艦隊は予備として控えて……いえ、できるだけ鉄国方面には近付かないでください」


「鉄国方面に八割以上の艦を投入するのに、投入する主力級人材は二人だけか?」


ドローンの狙いが分からない。


「勝つつもりなら、最初に全力をぶつけた方がいいと思うんだが」


「初戦は、回復が容易な戦力のみで戦います。最悪でもワンオさんとディーヴァは主星系まで逃げられるよう後方にいてもらい、鉄国の艦隊と戦うのは徴兵組の、元AIの機械人間のみにします」


酷い話に聞こえる。


『マスター。まだ人間になった実感がない子たちだから、操縦室ごとやられてバックアップで復活になっても気にしないと思う』


メモリはこういう場面で嘘は言わない。


俺の価値観では「嫌だな」と感じてしまうだけだ。


実際に戦う連中が納得しているなら、反対するつもりはない。


【ドローン。ひょっとして……】


「戦争初期では契国の肉人間パイロットを温存したいだけだよ。鉄国の切り札が僕の予想通りなら、たぶん、この作戦しか契国の勝ち筋がないと思う」


俺の手元にある作戦案にはドローンが判断した理由も書かれてはいるが、内容が複雑でどうにも理解できない。


メモリを見ると、落ち着いた目の光のまま軽く頷いてくれた。


「作戦を承認する。万一があっても俺がなんとかする。全力でやれ」


「はい」


ドローンの返事は落ち着いていて、これなら任せられると確信した。


  ☆


契国約千四百隻、鉄国約二千三百隻の戦いは静かに始まった。


質量弾やミサイルが届く距離までは近付かず、しかし双方活発に偵察する。


「直接見たい」


総勢三千隻を越える艦隊戦は、おそらく一生に一度しか見る機会がない。


防御目的の位相崩壊砲が搭載されたグローブ型の操縦室で、俺は「数分前の戦場」が映し出されたディスプレイを凝視する。


俺の背後から、護衛のサーフボード型と、数分前に完成したばかりのビートボード型が、演習というより教習じみたやりとりをしているのが聞こえていた。


「ケースさんが殺されたら艦隊戦で勝っても僕らの負けですから絶対に近づかないでください」


宇宙港から届くドローンの声は、無関心に近い。


かれこれ一時間は騒いでいるので呆れられてしまったのだ。


『マスター。僕はこのままでもいいよ。ここからなら銀華の授業参観できるし』


メモリは、まだ攻防が始まっていない戦場には目を向けず、学校船にある教室が映し出されたディスプレイに釘付けだ。


家や艦の中とは違う表情の銀華が、本当に様々な人間とともに授業を受けている。


黒髪ではないエルフっぽい元聖国出身者に、日焼けというより宇宙線で焼けた肌の賊育ちの肉人間。


高度な技術で作られた設備を平然と使いこなしている肉人間は、元陽国か元水国か元鋼国の出身者だろう。


「懐かしい顔がいるな」


黒装束ではなく黒いパイロットスーツを着ていたので最初は分からなかったが、大地教信徒同盟で幹部をやっていた黒装束娘もいた。


力と頑丈さを除けば肉人間にしか見えない見えない銀華に複雑な視線を向けてはいるが悪意は感じられないので、心境の変化があったのかもしれない。


なお、銀華の他にも機械人間が数人授業を受けていることに、黒装束娘は気付いていない。


「ケースさん!」


ドローンの声が聞こえた瞬間、俺は勢いよく首の向きを変えて首に痛みを感じた。


ついに、契国vs鉄国の決戦が始まったのだ。


「おおっ」


身を乗り出す。


『マスター、そこだと邪魔』


メモリに言われて席に戻る。


銀華が受けている授業でも、授業が一時中断されて戦場からの映像に釘付けになっている。


最初の攻撃は、契国艦隊の後衛である水上艦型戦艦群だ。


駐留艦隊に大量生産されていた予備艦に射撃適性が高い新兵を乗せ、亜光速質量弾による遠距離攻撃に専念させている。


「個々の狙いは酷いもんだが、どれも鉄国艦隊の予想位置にどんびしゃだ。指揮用の弩級艦ありとはいえ、ワンオ氏もよくここまで」


敵でも味方でも学べるものは学んでいく姿勢のつもりだが、これは真似できそうにない。


『マスター。なにか変』


メモリの目の光が強くなる。


質量弾を迎撃するための動きが、鉄国側で何故か鈍い。


「鉄国も新兵ばかりなのか?」


艦の隊列も配置も悪くはないんだが、攻撃のタイミングがめちゃくちゃだ。


そんなところで撃ってもカノンしか当たらないだろう距離から質量弾と撃ったり、減衰により威力がゼロに近くなるはず距離でレーザーを撃ったりと、やっているのが素人未満だ。


なのに、対空砲が打ち出す対空弾が、異様な高確率で契国艦隊からの攻撃に当たって攻撃を阻害する。


鉄国艦隊の異様さは攻撃にも及んでいる。


質量弾が高性能のミサイルじみた動きで契国艦隊の前衛の艦に命中する。


レーザーに至ってはわずかな減衰しかせず、戦場の後方にあるワンオ氏の弩級艦に命中して分厚い位相障壁をじりじりと削っていく。


「えっ」


その変な声が俺の口から漏れたことを自覚したのは、声が漏れてから数秒たってからだ。


どういうことだ。


鉄国はこれまで本当の技術水準を隠してきたのか?


もしそうなら、俺は最初から無謀な戦いに家族も仲間も巻き込んでいたのか?


『マスター!』


メモリの大声と、メモリの手で両肩を掴まれて激しく揺らされた感触により、俺は精神をぎりぎりで立て直す。


「すまん。動揺した」


心配と動揺で強く光っていたメモリの目の光が、通常の強さに戻った。


『マスターが機械人間のことを心配してくれるのは嬉しいけど、命の価値観が肉人間とはちょっと違うから、ね?』


なにか、お互いに勘違いがある気がする。


エネルギーを位相障壁に集中しても耐えきれなかったビートボード型から操縦室が後方へ射出され、その多くが攻撃に巻き込まれて破壊される。


ワンオ氏の弩級艦は艦の向きと位相障壁の配分を巧みに変更し続け、鉄国のレーザーが船体装甲に届くまでの時間を引き伸ばしている。


明らかに、契国が敗戦する流れのはずなのに、メモリにもドローンにも余裕を感じる。


銀華の教室が激しく動揺しているのとは対照的だ。


現時点で健在な契国艦隊は約千隻。


鉄国艦隊はほぼ無傷だ。


「やはりパイロットを狙いましたか」


ドローンは獰猛に笑う。


『ドローン。まだ予測が正しいかどうか分からないから気を抜かないで』


メモリはシリアス顔だ。


「あの、メモリさん。裏で戦勝記念パーティーの立案を始めているの、僕の執務室からなら見えますからね」


ドローンが「身内の残念な行動を見たときの顔」になり、メモリが誤魔化すように下手な口笛を吹き始める。


そうしている間も戦場は動き続ける。


前衛が文字通り半壊した契国艦隊に対し、ほぼ無傷の鉄国艦隊が一気に距離をつめて蹂躙を目指す。


ワンオ氏の巧みな指揮により、契国前衛は逃亡ではなく後退ができてはいるが、追いつかれて撃破されるのは時間の問題に見えた。


「んん?」


鉄国の攻撃がいきなり当たらなくなった。


質量弾もミサイルも命中率が常識的な数値まで低下して、後退中のサーフボード型に当たらず明後日の方向へ消えていく。


レーザーの減衰も常識的なものになり、ワンオ氏の弩級艦の位相障壁の回復速度がレーザーの威力を上回って位相障壁が完全な状態まで回復する。


『仮説が完全にあたると気持ちがいいな!』


『うわでた』


ハカセの得意げな声と、メモリの嫌そうな声が連続して聞こえた。


『肉人間が特殊な能力を使うと消耗する! その消耗は特殊な能力を持つ生き物を殺すことによってのみ回復する! 鉄国がカノン議員のような能力者を主力にしないのはこれが理由だ!』


『ハカセ。回復手段は存在するだろう』


新たに通信を繋げた元ハカセがツッコミを入れるが、ハカセの得意げな態度は崩れない。


『あれは回復ではない! ……肉人間にあれを回復と思いたいという心情があるのは理解するが!』


後退しながら再編をビートボード型が、弩級艦の前で堅牢な陣形を完成させる。


その「立体的な鶴翼の陣」は、追撃のために部隊同士の連携が崩れた鉄国艦隊を少しずつ削りとる。


総数に倍以上の差はあるが、防御と攻撃の効率と密度は契国艦隊の方が圧倒的だ。


「千隻単位の戦いになると操縦室の脱出艇としての機能が無意味になりますね」


ドローンの声はしんみりしている。


古代基準なら冷酷や冷血という表現が当てはまる性格ではあるが、敵艦とはいえ操縦室が中身ごと破壊される情景には感じるものがあったのだろう。


俺もそうだしな。


『でも結局逃げるんだね』


メモリは特に何も感じていないようで、鉄国による追撃を叩きながら後退を続けている契国艦隊というかワンオ氏の指揮を指摘する。


現時点で健在な契国艦隊は約九百隻。


鉄国艦隊は千五百隻。


ここ数分に限定すれば契国が圧倒的優勢ではあるが、銀華たちが見ているディスプレイには映っていない「契国艦隊の残りエネルギー」は危険なほど減っている。


「物資を使えばある程度自己回復しますけど、拠点で補給した方が効率が良いですからね」


ドローンが解説する。


艦隊の規模が大きくなると考えることが多くなって大変だなと、俺は他人事のように思ってしまった。


【ケースさん。ワンオさんの撤退を支援するために出撃していいですよね?】


違法建築じみた外見の弩級艦は既に動き出している。


横から一撃離脱で鉄国艦隊を殴りつけるつもりなのだろう。


「姉さんの望む戦いにはなりませんよ。能力が低下した敵パイロット……誤魔化さずに言えば僕や姉さんのような「日本人」の、鉄国での待遇は悪くなるはずです。そのタイミングで契国から亡命を持ちかければそれだけで崩せます。楽園管理機構との条約はもうないんですから、古代の地球への帰郷を餌にできますし」


戦闘開始前に亡命を持ちかけなかったのは「不利に見える契国が誘っても説得力がない」からだ。


違法建築じみた外見の弩級艦の加速が止まり、その護衛である信号機型から安堵したような気配が漂った。


【あの、戦場……】


迫力はあのナイアCEOに匹敵するのに、俺達への害意はなく、甘えに似たものがある。


「ドローン。鉄国もこっちの聖女たちのような人材を確保していると思うか?」


「ケースさん、あまり姉さんを甘やかさないでください」


ドローンが渋面になり、カノンが明るい表情になる。


「絶対に確保しているでしょうし、おそらく温存しています。いるといないで支配者層の生活の質が大きく変わりますから。ただ、契国の肉人間パイロットを殺させて能力を回復させるために、戦場の近くに待機させている可能性は……姉さん!?」


総勢百隻に満たない、選りすぐりのカノン妹が集められたカノン艦隊が、長距離位相跳躍で主星系から消えた。


「あの馬鹿姉っ」


『強引にカノンを止めないドローンもカノンに甘いよね。……それ以上に問題なのがこいつらだけど』


『カノン議員! 口座の凍結はやりすぎではないか!』


『私は巻き込まれただけだ!』


ハカセと元ハカセが騒いでいる。


『マスター。鉄国にもいるはずの聖女に治療目的で近付いて実験したいハカセと、それに便乗した元ハカセが、鉄国の情報を分析してカノンに渡したの』


「それは、俺かドローンの許可をとってからにして欲しかったな。口座凍結は一日が適当か?」


「ですね」


『もっと長くていいと思うけど……』


ハカセと元ハカセからの抗議は、当然のように無視される。


戦場を映していたディスプレイには、鉄国艦隊を完全に振り切った契国艦隊が映し出されている。


契国は千四百隻のうち五百隻を喪失。


鉄国は二千三百隻のうち八百隻を喪失。


戦場に残された残骸を回収可能という点では鉄国有利。


ここまでなら鉄国がやや有利の結果かもしれないが、肉人間パイロットをコピーで再生すると劣化が発生する鉄国と、資源さえあれば機械人間パイロットを劣化無しで再生可能な契国では、長期戦限定なら確実に契国が有利だ。


その上、初戦で切り札が消耗して回復もできていない鉄国は、契国への攻撃を諦めて和平を乞うか、大量の資源や人材を戦争に追加投入して戦争継続するしかない立場に追い込まれた。


位相崩壊砲を攻撃に使い、俺たちが報復を始まる前に一気に勝負をつけるという手段もありはするが、これは鉄国にとってもリスクが大きすぎる。


いざというときの報復手段のひとつやふたつ、鉄国もだろうが契国だって用意しているからな。


「今のカノンが不覚をとるとは思えんが、戦いに絶対はない。カノンを追ってくはずの鉄国の部隊を撃退可能な戦力で追いかけるぞ」


『マスター。鉄国、早く諦めたらいいのにね』


「本当にそうだな」


この宇宙の倫理観の薄さを考えると簡単にはいかないと、お互い分かった上でのやりとりだった。

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― 新着の感想 ―
鉄国の必勝プランを外して、機械人間ばかり戦争に出したのは、相手の能力を枯渇させるためだったんですねw 劣化なしで再生できる契国パイロットと物量の前に、消耗するパイロットを使ってたら、そりゃ泥縄的な展開…
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