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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
第七章 人類存亡戦争編

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灰相界への侵略

「鉄国に対してカノンが平和と友好を呼びかけるのはどうだ」


「そうすると逆に襲ってきませんか。姉さんは平和より戦いが好きですし」


【ケースさんもドローンも、わたくしのことを何だと思っているのです】


『マスター! 水でいいの? ドローンとカノンは?』


初期メンバーで揃って話し合っても良い案は浮かばず、メモリは早々に考えるのを諦めて飲み物と冷却水の準備を始めている。


【もしあればですが、聖女印のオレンジジュースをお願いします】


『まだあったかな……。あ、一つある』


【いただきます!】


「先にとらないでよ姉さん」


最初に出会った頃は悲壮な覚悟の姉と必死なった弟だったのに、今ではお互い遠慮のない関係になっている。


オレンジジュースを手に入れられず、玄米茶風のお茶をすすることになったドローンが、一服して気持ちを落ち着けてから改めて口を開く。


「かなりまずいです。鉄国がこの状況を知れば自暴自棄になりかねません」


【わたくしは鉄国に対して命令するつもりはありませんよ? 命令したらワンオさんのような方が戦ってくださるなら考えますけども】


美味しいものを飲んだ直後のカノンはご機嫌だ。


「使うつもりがないならもとの声に戻してくれませんか」


【一度これに慣れるともとの声が不便なのです】


カノンは一度【んんっ】と咳払いをした。


「このようにいつでも戻せます。しかし、この声では遠くに直接声を届けることができないのですよ?」


『便利ではあるんだよね。敵にとっては絶対に殺したくなる能力だろうけど』


メモリは、まるで芋のフライのように加工された冷却水をつまんでいる。


特に味はついていないはずだが、歯ごたえと舌の感触が好みらしい。


「灰相界から【声】を使えば、実相界……普通の宇宙のどこにでも【声】が届くのか?」


俺が尋ねると、カノンは少し考え込んだ。


「主星系から灰相界に入った直後に【声】を使うと、【声】が届くのは元陽国の領域だけでした。おそらくですが、灰相界と実相界で、だいたい一対一で対応した場所があるのだと思います」


「元ハカセたちも似たような予測をしています。また、本家聖国の技術水準がこれまで見た通りなら、時間をかければ本家聖国の本拠地特定は可能だとは思いますが……」


『火国が攻めてきたら戦力が足りなくなる?』


「はい。現在僕らが接収中の楽園管理機構の跡地……と言っていいのかな。ともかくあそこに対する攻撃や横取りもありえます。正直、不確定要素が多すぎて」


「ドローンでも分からないなら俺には無理か」


『マスター、僕も』


【わたくしの仕事は戦場限定だと考えています】


声を切り替えると実力と美貌と迫力を兼ね備えた存在になるカノンではあるが、中身は面倒なことを弟へ丸投げする横暴な姉であった。


【ところで、あなたの仕事は何だったのです。ナイアCEO】


捕縛されて封印じみた拘束を受けているはずのナイアTEC契国支社CEOに対し、俺たちに対するものとは違う、いつでも使えるよう磨かれた刃じみた【声】を向ける。


【誤解ですと答えても、信じていただけないですよね】


この場にいないはずのナイアCEOの【声】が聞こえた。


『マスター。一応警報を出すね』


「ケースさん。洗脳されていないかのチェックを、姉さんの妹と地表出身者に対して行います」


メモリもドローンも仕事が早い。


話題に追いつくのがちょっとつらい俺としては、このまま任せて責任だけとりたいところだ。


【答えるつもりがないのですね】


カノンは微笑んだまま殺意を濃くする。


【いえ、できれば直接ケースさんにお話を……。あの、聞こえていますよね? せめて一声答えていただけると】


『マスター』


こんな奴にかかわっちゃダメ、という私情まじりの目で俺を見てくる。


「ナイアCEOにはこれまでかなり世話にもなった。情状酌量はたぶんしないが、話くらいは聞いてやるさ」


「ケースさん、通信が繋がりました」


俺はドローンに頷いてからディスプレイに目を向ける。


そこには、口しか動かせないよう徹底拘束されているナイアCEOが映し出されていた。


「ケースだ。久しぶりだな、ナイアCEO」


【ご無沙汰しております。力関係が変わってしまいましたね】


ナイアCEOは口を動かしていないのに、その【声】は恐ろしいほどにはっきりと聞こえる。


「あんたが持っているコネによっては力関係に変化がないってことになるかもな。で、だ。最初の取り調べでは、実相アンカーの管理に失敗して使われただけと言っていたそうだな。犯人は不明とも」


【ケースさんはもう灰色の宇宙を目にされましたよね? あの場所を経由すればかなり自由に人や物を行き来させることが可能です】


『言い逃れにしか聞こえないよね、マスター』


「後少しだけ聞いてやろうぜ。後少しだけな」


メモリの声もだが、俺の声もかなり冷えている。


【んんっ。先に結論から言います。わたくしは、既に滅んだ列強の生き残りです。体は何度か取り替えていますけども】


「ファンタジー、いや、精神分野が強い国の生き残りと主張するわけだ。で、今はどこと組んでいるんだ?」


【楽園管理機構と名乗っている個人です】


声も【声】も途切れ、嫌な沈黙が俺たちを包んだ。


冗談と笑い飛ばそうとしても、俺の勘がそれを強く邪魔をする。


『マスター。この状況でホラ話を口にする奴は、もうやっちゃって良いと思う』


正直、メモリの意見に全面的に賛成したい。


これまで受け取った利益と、あのとき被った不利益と、どちらが重いか判断に迷う。


【あれを国家と認識する方がいるのは承知しています。ですが、わたくしの【声】を聞いて、その上で己を保てる方なら、楽園管理機構に人格は一つしか存在しないと分かると思います】


「……いきなりそんなことを言われても、作り話かどうか判断する材料もないんだが」


『ドローン。同じ人格でも別の体なら別人判定だったっけ?』


「契国ではそうですね。コピーが複数いたり、オリジナルとコピーが同時に存在したときはそうなります。だいたいの場合、揉めるのでどちらかが改名したり転居しますけど」


メモリの声もドローンの声も、拘束中のナイアCEOに届けられている。


【契国は、独創的な価値観の国ですね】


「雑と言って構わんぞ。……ナイアCEOの言い分は分かった。一応聞いておくが、物的な証拠はあるか?」


【あるなら最初から提出しています。わたくしの力ではケースさんを玩具にできない判断してからは、ケースさんとは誠実に取引してつもりですよ。サーフボード型の設計ログまで渡したでしょう】


「そりゃ、あんたが怪しすぎるからだよ」


俺はつい、本音を言ってしまった。


【怪しさではケースさんも負けていません。かなり早い段階から楽園管理機構はケースさん個人に目をつけていました。最初に弩級艦と戦ったときに気づきませんでしたか?】


「そんな昔のことを言われてもな」


時間としては短いかもしれないが、この宇宙での戦いも出会いも密度が濃すぎて、当時のことはすごく昔のことに感じる。


メモリの目の光がひときわ強くなり、ドローンが「まぶしっ」と言って自身の目を手で覆った。


『まさか、ね?』


メモリの目の光が弱くなるが、まだ強い。


「メモリ?」


『マスター、かなりややこしいことになってるかも。ハカセとか借りていい?』


これは、俺が理解できるように説明しようとするとアホみたいに時間がかかるから、専門家の手を借りて調査とか分かり易い結論とかを得ようとしている態度だな。


これまで何度か経験がある。


「メモリに任せる。……おそらく俺の個人の問題だろ? あいつらを動かせるか?」


やりたくない研究はやらない連中なんだよ、あいつらは。


『僕からの貸しが大量にあるから大丈夫。マスターの問題は家族全員の問題だから、そこは勘違いしないでね』


メモリの目の光は、柔らかい。


「ああ、ありがとう」


この宇宙に来てからの日々は人生で最も過酷な日々だが、間違いなく人生最高の日々だと、改めて確信できた。


【あの……】


ナイアCEOから感じる圧は、最初に出会ったときと変わらない。


ただ、数隻の宇宙船で頑張って頃の俺たちと、数少ない列強の一つまで成り上がった今の俺たちが変わっただけだ。


「ケースさん。機械的に法律に当てはめて全財産没収して追放刑とかにします?」


「どうせまだ情報とか技術とか隠し財産とかを持ってるだろ。追い詰めすぎない程度に吐き出させてから解放してやるのはどうだ。揉めたらぶっ殺すのを続けてたら敵が増えすぎるからな」


【わたくしはもう、身一つですよ!】


ナイアCEOの【声】に焦りが滲む。


【ドローン! 実体弾系兵器の高性能パーツの設計と設計ログをぶんどりなさい!】


また【声】に切り替わったカノンが、弟に無茶振りをしていた。


  ☆


契国代表としての仕事は多い。


式典への参加は最低限にしているが、その「最低限」でも数が多く内容が濃いのだ。


「右衛門と左衛門の亡命を歓迎する」


五分刈りのワンオ氏と、綺麗に髪を剃り上げたワンオ氏が、完全に同期して俺へと敬礼してきた。


「すまんがしばらくは職業選択の自由はなしだ。将官級の軍人として働いてもらう。……銀華」


『はい!』


直立不動のワンオ氏コピーに近付いた銀華が、特徴のないARメガネを背伸びして右衛門と左衛門に装着させる。


「「っ」」


本当に微かに、息が漏れた。


メガネに表示された任務は、それほどの内容だ。


「右衛門と左衛門には、機械人間の大集団の指揮権とハイパーレーンの敷設権、艦の建造施設と初期艦隊建設のための資源も与える。鉄国でいう低治安星系の制圧と無法星系の開拓が、お前たちの任務だ」


要するに、切り取り自由ということだ。


「最低限の人権の尊重と、可住惑星と水資源の保護という条件はつけるが、他は好きにやって構わん。独立しても構わんぞ。そのときはこっちからの追加支援はなくなるがな」


コピーを憐れんで任務を与えたのではない。


シロとクロと肉人間の部下がいなくても、この二人にはワンオ氏と同等のスキルと知識があるのだ。


契国で増え続ける機械人間を部下としてつけて、小さな勢力がうごめく無法の宇宙を開拓させることで市場と安全な場所を増やそうという方針だ。


市場と安全。


それが増えるなら、独立されても構わないくらいに、とても貴重なものだ。


「右衛門の担当地域も左衛門の担当地域も、面倒臭さは似たようなレベルで極まっている。いい報告が届くのを期待しているぞ」


『がんばってください!』


いずれは俺に代わって報告を受けることになるだろう銀華が、元気に激励していた。


  ☆


火国が熱狂とともに軍拡を開始し、鉄国が不気味な沈黙を始めていても、契国は両国に対して強く出る余裕はない。


契国にとって最優先の課題は灰相界だ。


灰相界の安全を確保しないと、主星系の安全も聖女たちの帰郷も実現しないのだ。


だから俺たちは、可能な限りの戦力を灰相界へ投入した。


『ねえお父さん。主星系と古代の地球をハイパーレーンで繋げないの?』


「主星系と灰相界の間の通信も実用化されてないから、繋ぐことができたとしても、銀華が一人前になった後だと思うぞ」


元ハカセによって契国の機械人間がリングから救出された後、リングとハイパーレーンの技術について徹底的に調査を行った。


その結果、分かったのは、ハイパーレーンの予想以上の高性能だ。


『ハイパーレーンに制限かけるの、ハカセも元ハカセもすごく愚痴ってたよ!』


銀華が二人の真似をする。


少し成長した体はとても元気で、頻繁に切り添えられている銀髪の状態も非常に良い。


「徹底的に制限をかけておかないとテロが起きまくるからな。速度が落ちるのは、利用者に我慢してもらうしかない」


俺たちが親子の会話をしているのは見慣れた操縦室の中だ。


ただし、その操縦室が入っているのは、つい先日まで契国のものではなかった砲撃型弩級艦だ。


保釈される代わりにナイアCEOが手放すことになった品の一つであり、契国がこれまで培ったノウハウを予算度外視で詰め込み改造した艦でもあった。


具体的には、灰相界へ移動可能な位相跳躍機関と、レーザーの連射能力向上と、小規模な空母能力の追加だ。


【ケースさん。余所見はしないでくださいね】


砲撃を担当するカノンは、ちょっとつまらなそうだ。


護衛として弩級艦に随伴する信号機型砲撃戦艦は質量兵器が中心で、この弩級艦は強力とはいえメイン武器がレーザー。


射程は前者が圧倒的であり、本家聖国艦隊相手に激しい砲撃戦を繰り広げる信号機型と、瞬間瞬間で狙いを変えて位相跳躍魚雷を打ち落とす弩級艦という役割分担になってしまっている。


「おそらく俺の出番はないぞ?」


今から主観時間で十数分前、本家聖国の艦隊が無防備に近付いてきた。


まるで「完全なステルス艦隊のつもり」のような動きであり、あらゆる意味でカノンの影響を受けたカノン妹たちにとっては「簡単な獲物」でしかなかった。


その結果発生したのは一方的な蹂躙だ。


数的主力だった本家聖国の戦艦部隊は最初の斉射で致命傷を受けて撤退。


駆逐艦以下のサイズは最初から存在せず、巡洋艦は霧の中に隠れようとするが天性の射手であるカノン妹に対して霧では何も隠せない。


【敵から飛んで来ています!】


「カノンが打ち落としているだろう」


しっかりエネルギーを注いで、艦の方向を敵に向けてからでないと撃てない信号機型戦艦とは違い、弩級艦のレーザーは頻繁に狙いを変えられる。


本来なら狙うのに時間がかかるのはカノンの異能で補い、あらゆる瞬間にあらゆる目標に当たる最強の防御兵器と化したのだ。


まあ、位相崩壊砲の方が強いことは強いのだが、あれは使用後の悪影響と後始末の負担が大きすぎる。


【わたくしに攻撃させてください!】


「代表と議員が乗っている艦は防御優先だ。諦めろ」


ここでカノンがクーデターを決意しないのは、まだ生後二年にもなっていない銀華の視線があるからかもしれない。


『マスター。昔ドローンが提案してた艦、実際に作るとこうなるんだ』


メモリは驚いている。


「どんな艦も運用次第で強くなるってことかもな。弩級艦の数が足りてるなら、弩級艦のパイロットをしているのが当然な奴が二人も乗ってるし」


「三人でしょう。僕も空母型弩級艦の操縦ならできますよ」


そう言うドローンは、いつもの首都星系の執務室ではなく、艦載機を操作するためのオペレーター席にいる。


戦闘機ではなく偵察機とはいえ五機を一人で操り、カノンや俺の「目」が届かない範囲へ向かわせ情報を送らせる。


「本家聖国の拠点の位置が分かりません。適度に痛めつけて逃がしますか?」


【ドローン。敵は最期までやるつもりのようです。最期になどしてあげませんけどね】


ふふふと笑うカノンは、生きたネズミをオモチャにする、美しくも残酷な猫のような気配がある。


「しかしケースさん、主要メンバーを全員こっちに連れてきてよかったんですか?」


「よくはないが、今ある戦力で本家聖国を倒すにはこれしかないんだよ」


本家聖国撃破に時間がかかりすぎると、銀華を迎えに来るためにディーヴァが主星系でクーデターを起こしかねない。


戦場では敵を圧倒していても、俺たち契国にはあまり余裕がなかった。

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― 新着の感想 ―
楽園管理機構って、個人の意思で運営してるんですね。 それがやりたい放題になってる原因ですかね? 個人の意思で好き放題やってるところに、火国が拡大政策をやって、鉄国の沈黙も不気味ですね。 物語も佳境に入…
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