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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
第七章 人類存亡戦争編

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新しい名前、新しいミミズ

また一隻、分厚い装甲の戦艦が激しく変形して遠くへ吹き飛んだ。


『司令。捕虜とれそうにないですね』


『残骸をあさって小遣い稼ぎも無理っぽいです』


二十八隻のサーフボード型巡洋艦と一隻の信号機型戦艦は圧倒的優勢だ。


賊が使うには強力すぎるだけでなく新しすぎる戦艦艦隊からは、悲鳴のようなやりとりが聞こえる。


「あれを使え!」


「けどカシラっ。あれって暴発するって!」


「このままだと殺されるだろうが!」


味方の被害を少なくするためとはいえ、殺すつもりの相手の声を聞くのは楽しくはないな、と思ったのはわずかな時間だった。


『司令、敵戦艦CとFに位相崩壊砲の反応!』


『こちらはCのみ!』


『FとG! いえGの反応は消えました』


サーフボード型には、戦闘中の敵艦を詳細にスキャンする装置は搭載するスペースがないし、対位相崩壊砲のセンサーも積んではいない。


全て、二十八人による勘だ。


「Cは俺が破壊する。第四班は戦場下方へ移動して敵の退路を断つふりをしろ。第三班は信号機型の護衛を継続。第一と第二はFをつつき回して狙いをつけさせるな」


反応は言葉ではなく二十八人の了解信号だ。


七隻が艦の移動で敵艦隊にプレッシャーをかけ、七隻が俺の艦をかばう位置で位相障壁に集中し、残る十四隻が敵戦艦一隻だけにレーザーを集中する。


『マスター。敵の船体装甲が全然溶けてない。対レーザー装甲と熱を貯めておける装備を積んでるのかも』


メモリの推測は、勘ではなく観察と計算によるものだ。


「賊までメタを張ってくるのは、一年くらい後だと思ってたんだがな!」


超光速質量弾をぶっ放す。


寸前に警戒を促す信号を二十八隻全てに送りはしたが、質量弾の射線にいたサーフボード型は余裕をもってあらかじめ回避している。


また一隻、原型がなくなった残骸として、戦場の外へ高速で吹き飛んでいった。


「艦の性質上仕方がないとはいえ、時間がかかるっ」


苛立ちが声に出てしまった。


『マスター。残弾は後二発』


メモリは気遣うのでも共感するのでもなく、生存と勝利のために最も必要な情報を俺に示した。


「了解」


護衛の七隻とともに後退を始めながら、他の二十一隻へ指示を出す。


攻撃中の十四隻には、位相崩壊砲で狙われても確実に躱せる程度に敵艦との距離をとらせる。


牽制中の七隻には、そっちの方向に補給艦っぽいのがいるのは分かっているんだという雰囲気で加速させる。


すると、踏みとどまって戦おうとする重戦艦と逃げようとする重戦艦で衝突しそうになった。


「駐留艦隊の基地まで後退する」


敵艦隊とは全く違う、一つの生き物じみた滑らかな動きで、二十九隻からなる艦隊が敵から距離をとる。


『司令? 新型艦の弾って地方星系にもあるんですか?』


「ないな。だが敵はそれを知らない」


こちらに追撃をかけずに星系外への撤退を始めた敵艦隊を見ながら、俺は信号機型戦艦の開発元への報告書を考え始めていた。


  ☆


『契国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』


『俺がハカセだ!』


アナウンサーは毎回少しずつ服装か装身具を変えているが、ハカセは常に白衣スタイルを貫いている。


『本日最初のニュースです。ナイア造船の株価が暴騰し、契国株式市場に混乱が広がっています』


『ナイア造船はナイアTECの水国支社と陽国支社が独立してできた企業だ!』


『株式上場から現在までの株価の推移がこれになります』


上場直後から数時間前まで、地を這うような値段が続いていた。


『戦闘艦の修理を細々と請け負っていた企業から、新型戦艦の大量発注を請けた企業へ変わったからな! 売りポジションで遊んでいた奴は、今頃真っ青だろう!』


いつも通りのやりとりで今の契国を知らせるアナウンサーとハカセに、虚ろな目を向けている俺の部下が三人ほどいた。


ここはナイア造船の工場施設の中だ。


信号機型戦艦の、可能な限り詳細な運用データを届けるために、俺たちは主星系に戻った後にここまでやって来た。


「初期ロットの引き渡しは今週中になる予定です」


肉人間としては別格の美しさを持ち、契約支社のナイアCEOと違って人外じみた気配のないナイア造船CEOが、俺たちに直々に説明してくれる。


「助かる。カノンからも一番からの矢の催促でな」


自身も部下も射撃が特別得意なカノンについては予測していたが、一番がこれほど導入に熱心になるとは予想外だった。


「強く望まれるのはとても幸せなことです」


建国以前からの俺たちとの取り引きで巨万の富を得たナイアTECから独立した彼女たちは、漏れ聞こえる分だけでもかなり苦労していたらしい。


マザーボード型フリゲート、サーフボード型巡洋艦、ビートボード型駆逐艦のような「極限まで無駄を省いた設計」ができず、これまでは資金と資源をすり減らしながら安い仕事を請け負いつつ新型艦の研究を進めていた。


そこに信号機型戦艦の正式採用と大量発注だ。


まさに我が世の春、のはずなのだが何故か態度は控えめだ。


『マスターはこっち』


メモリが俺との位置を入れ替える。


こっちのナイアCEOに嫉妬、いや、警戒したのか?


『もう少し増産できない?』


「我が社の規模ではこれが限界です。これ以上となると、工廠か他社へ、設計と設計ログの公開をするしかありません」


設計と設計ログは、宇宙船製造企業にとっての飯の種だ。


どれだけ金を積んでも本来なら手に入らない。


特権と引き換えなら可能性はあるかも、というレベルだ。


『要求は?』


俺を介して独裁者として振る舞うことのできるメモリではあるが、強権を振るう前に落としどころを探る程度のことはする。


ナイア造船CEOは、メモリからの脅迫じみた要求に対し、微笑みながら答える。


「お二人から、我が社と我々に新しい名を頂ければ、それ以上の幸せはありません」


メモリは返事をしない。


追従か、何かの罠か、それ以外の何かがあるのか、疑り深く考える目の光が強くなり、消える。


『マスター、パス』


再点灯したメモリの光は『専門外だから分からない』という雰囲気だった。


「新型戦艦である信号機型戦艦の設計と設計ログを、会社と個人に対する命名と引き換えに渡す? もちろん契国からロイヤリティーは支払うが、契国に有利すぎる気がするな」


事情があるなら話せと、俺はかなり露骨に促した。


あのナイアCEOを若くした顔のCEOが、あのナイアCEOなら絶対に浮かべないであろう、追い詰められて救いを求める表情になる。


「あれと縁を切りたいのです。もう一人のわたくし……ナイアCEOも同意見です」


少し混乱してきたな。


俺が警戒しつつ取り引きを続けて来たのがナイアTEC契国支社のナイアCEOで、今俺の目の前にいるのが元ナイアTEC水国支社のナイアCEOで、それと同じ意見なのが元ナイアTEC陽国支社のナイアCEOか。


『マスター』


メモリが、目の前のナイアCEOから悪意は感じないと目で伝えてきた。


「俺のネーミングセンスに期待するなよ」


俺は本音を言ってから考え始める。


ナイアという名前の元ネタが顔のないあれだから、その反対は顔有り、か?


そのまま名前にすると響きがしっくりこないから、かおあり、かおり、香?


「姓がかおりで、名前が滴と陽ってのはどうだ。会社の名前は香造船で」


俺にとっての会心のネーミングだったのに、メモリの目の光には『マスターがいいならいいけど』という『マスター以外が言ったら全否定してたよ』という意図か込められている気がした。


ナイアCEO、否、香滴の口元が柔らかくほころぶ。


そして、とてつもなく重くまとわりつく何かから人生で初めて抜け出せたかのように、晴れ晴れとした笑みを浮かべ、俺は一瞬ではあるが見惚れてしまった。


「契国を代表する機械人間であるメモリ様の了承を得て、契国代表であるケース様から賜った名を、生涯の誇りにいたします」


香滴が深く頭を下げる。


その姿勢は土下座じみた低姿勢であるのに卑しさはなく、恐ろしいほど純粋で強烈な感謝の思いだけが感じられた。


その後、通信が繋がった「香陽」からも同等レベルに感謝され、香造船からの信号機型戦艦の設計および設計ログの譲渡が即座に行われ、契国に対するさらなる協力を誓われることになった。


  ☆


久々の評議会は、俺が本人の了承なく次期代表に指名しているドローン代表代行と、聖女五人から議席五つの権利を預けられているディーヴァ代表代行兼地表統括の議論が中心になった。


「鉄国による侵攻はないと言いたいのですか」


『はい。聖女さま方が育てた農作物の需要は相変わらず強力ではありますが、禁輸前から、これを購入可能な鉄国人の数は非常に限られていました。また、鉄国が条約を契約を守るという姿勢をようやく理解したようで、他列強相手には考えられない規模で、契国に隣接する星系から戦力を減らしています』


「現在の鉄国の戦力配置は、契国に対する罠ではない、と? しかし、契国方面から移動した鉄国戦力は連邦戦線にはいないようです。メモリさんの「地図」を見る限り、鉄国と連邦の戦線は膠着状態です」


俺は、二人の会話だけなら辛うじて理解できるんだが、会話と同時に周囲に浮かび上がるデータや地図の立体映像を理解しきれない。


「メモリ、分かるか?」


『僕ちょっと銀華の所へ行ってくるね!』


メモリも評議員なのに、普段は観客席として機能している傍聴席最前列に座っている銀華のもとへ向かう。


議論をしながら銀華の視線を気にしていたディーヴァが、露骨に集中力を乱してドローンに呆れられている。


『可能性としては、戦場で失われた艦の代わりに対契国の配置から移動させた艦を使い、別の何かを作っている可能性はありますが』


俺にはよく分からないが、契国が知れる鉄国内の物資の動きから、そんな予想ができるらしい。


「無駄な実験や贅沢に生産力を消費してくれると助かるんですけどね。こっちもハイパーレーンや新型戦艦に生産力を割かざるを得ませんし」


ドローンはそうまとめて、次は火国について話を始める。


「火国についてはかなりの情報が集まっています。ハカセには、今後は諜報でも協力をお願いしたいですね」


『ストも辞さないぞ!』


オブザーバーとして参加中のハカセが、発言の許可を得ずに余裕のない態度で発言する。


諜報への協力が、よほど面倒だったようだ。


ドローンは、ハカセに対してそれ以上要求はしないが、協力を取下げもせず続ける。


「火国の生産力が急増しています。最近契国の星系に現れている賊が装備している艦は、火国で不要になった艦が中古市場に流れた艦です。これはハカセの協力で確証を得ています」


ドローンに言及されたハカセは、嫌そうな顔をしている。


『お母さん。ドローンお兄ちゃんって面白いだけの人じゃなかったんだね』


『そうだよ。銀華が生まれる前から頑張ってくれてるの』


生後一年と少しの銀華はそんな感想でもいいが、メモリが議員の義務を放り出して娘に構うのはずるい……じゃなくて問題だと思う。


「ドローン。面白いお兄ちゃんと思われてるみたいだぞ」


俺が茶々を入れると、ドローンは音を立てずに鼻で笑う。


子供を馬鹿にする態度ではなく、大人げない態度の俺を馬鹿にする態度だ。


「代表は不規則発言を止めて下さい。契国の品位に関わります」


「うむ……」


俺は、頑張って威厳を取り繕うとする。


ドローンから、火国内部の物資の生産の移動について伝えられたディーヴァは、困惑している。


『他列強からの援助を受けているわけでもないのに……。楽園管理機構のような特殊な国が関与しているのでしょうか』


パイロットとしての能力を除けば恐るべき能力を持つディーヴァが、火国が何故こうなったか分からず困惑していた。


「なあドローン。楽園管理機構は今どうなっている?」


俺は気になったことを尋ねる。


「観測ドローンによる監視は続けています。戦力配置は相変わらずですね」


ドローンの表情には、微かな戸惑いと嫌悪感がある。


「ただ、同国の惑星地表での活動がほぼ停止しています。我が国のように地表より宇宙居住地への移住が盛んになっているわけでもありません。まるで……」


ドローンは言うべきかどうか一瞬迷ったようだった。


「まるで、地表にいたのが人間ではなく人形だったかのようなありさまです」


「国ぐるみでホラーでもしてるのかね」


俺は冗談扱いして笑おうとして、失敗した。


それからも議論や情報の開示が続くが、新たな議題が十分以上出ていないことを確かめてから、俺は契国代表として発言する。


「契国は問題もあるが順調だ。これからも慎重かつ大胆にいこう。では今回は解散! 次回の評議会でまた会おう!」


今日の傍聴席はカノン妹が多く、元気な返事と拍手が聞こえていた。


  ☆


SF世界の家族団欒は、古代よりも種類が豊富だ。


パイロット候補生の娘に、自家用宇宙船の操縦を任せるという家族団欒も存在する。


『マスター。贅沢すぎるのもよくないと思う』


「うっす」


真顔と真剣な目の光で諭された俺は、俺の個人所有のグローブ型戦艦のゲスト席で反省していた。


「これが夫婦関係!」


「先生とメモリ様って、公務以外だとこんな感じなんだ」


操縦室の中には俺たち家族以外もいる。


銀華がメモリと俺にねだって、特に仲の良いカノン妹たちを連れてきたのだ。


『あれっ? なんかシミュレーターとちがう?』


「戦闘中でなくても位相戦闘中と同じように連続超短距離位相跳躍をする設定にしているからな」


『お父さん。それってすごくお金かかるんじゃないかな』


「家族や俺の命の方が価値があるからな。……お前も俺も普通の人間より命が狙われ易い立場なんだ。小遣いの節約目的で安全に払う金をケチろうとうはするなよ。俺もガキの頃にやって大怪我しかけたしな」


当時の俺はただの子供で、銀華は国家元首の娘だ。


どちらが危険かは明らかだ。


『マスター。今日はすごく機嫌いいけど、どうしたの?』


メモリは、カノン妹たちが近くにいるので普段より俺と距離をとっている。


まあ、排気による空気の動きや、体温が感じられるくらいに近いが。


「自分の仕事場所に近い場所で、自分の子供が同じようなことをしてるってのは、むずむずするやら嬉しいやらでな」


酒など一滴も飲んでいないのに、とても美味い酒を飲んだときのような酔いじみたものを感じる。


そんな俺の感慨には気付かず、銀華とその友人たちは元気に何かを話している。


『最近、アニメ面白くなくなったよね』


「聖女さまがあっちの宇宙と繋がなくなったから……」


「それって楽園なんとかって国のせいでしょ。なんとかならないかな」


会話からは、少し不穏な気配も感じた。


『あれ?』


メモリが、銀華と俺、そしてカノン妹たちを何度も見比べる。


『銀華、マスター。それにあなたたち。今何か感じなかった? それと、銀華は操縦中に余所見しない!』


『お母さんごめんなさい』


銀華が、艦の外を映しているディスプレイに集中する。


カノン妹は戸惑うが、メモリが俺の様子を常に注視していることを知っている俺は、今、自分自身が意識せず感じたはずの何かを思い出そうとする。


「戦場の気配ではない、が……」


ふと、聖国相手の戦争の頃を思い出す。


危険な敵は何種類もいたが、特に印象が強かったのは、惑星なみの大きさをした「白ミミズ」だ。


「ん、いや、待て、これは」


艦の所有者の権限を使い、銀華から艦の制御の一部を奪う。


艦外カメラの一つを斜め下に向けると、そこには星系外縁よりもさらに遠くにあるのに、俺の肉眼でも見える「薄い赤色のミミズ」がいた。


こちらに気付いた様子は全くない。


そして、聖国相手の戦争で遭遇した個体の倍ほどの速度で体をくねらせている。


とても元気だ。


「白ミミズの色違い。大きさは記録のある最大の個体の数割増し。位置は星系外縁よりも外。方向は」


すぐには分からなかったので、俺は新しいミミズを指で示す。


『マスター、そっちにあるのは火国の星系だよ。銀華、この星系の駐留艦隊に通報しながら主星系へ帰還しなさい。これは親としてではなく評議会議員としての指示。急いでね』


『は、はいっ!』


操縦は確かだが焦りを隠せない銀華と、一瞬で意識も姿勢も戦闘用のそれに切り替わったカノン妹が、対照的だった。


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― 新着の感想 ―
火国が息を吹き返したと思ったら、今度は聖国のミミズ! 前大戦でどこも被害を被っただろうに、どこからか支援を受けているのか? どこもかしこも積極的に動き過ぎじゃ?  あぁ、でもこの宇宙だと国民感情とか無…
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