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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
第七章 人類存亡戦争編

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ベビーブーム

あの戦いから一年。


契国では爆発的な人口増加が始まっていた。


機械人間やAIにも人権を認めるという、この宇宙では異様な価値観を持つ契国に対する忌避感は、列強だけでなく地表は宇宙の住民からも大きい。


しかし、契国国民に認められる人権の範囲は、かなり広い。


『命は、だいじ、だよ!』


本来なら使い捨てられるはずのコピー十人が、当たり前のように契国基準の捕虜として扱われて手厚い治療を受けて銀華による熱心な勧誘を……俺が嫉妬して捕虜の待遇を下げようとしてドローンたちに強制的に休暇をとらされたりという感じで色々あった。


それまでも「古代に比べればディストピア」で「この宇宙では超絶福祉国家」を続けて来たので、コピー十人の一件がきっかけ兼、派手な宣伝になったのだろう。


地表で不服従を続けていた元聖国、元鋼国、元水国、元陽国が契国に対して完全に屈服して契国の法と行政サービスを受け入れ、契国領域外からもAIや機械人間だけでなく肉人間の移住希望者や亡命希望者が集まるようになった。


もとからの契国国民にも変化があった。


契国が強く、この宇宙の勢力としては「まとも」であることを確信した彼らは、熱心に働き、稼ぎ、そしてベビーブームを起こしたのだ。


「最初のベビーブームは機械人間だがな……」


契国国家元首にして司令官にして現役宇宙船パイロットの俺は、赤子から幼児サイズの機械人間に囲まれていた。


今、行われているのは、完成まで延期に延期が繰り返されたステージのお披露目会だ。


『白、こっちに来るお』


『黒、それは親分、ちがう!』


大きな犬耳と犬尻尾が目立つ幼児が、シロとクロに回収されていく。


『司令、こっちにうちの子いませんか?』


「この図々しい……ではなく人懐っこい子か?」


メモリを応援するためのうちわを俺から奪って元気に振っている幼児だ。


銀華と違って機械人間らしい造形なのに、中身は銀華と同程度にやりたい放題だ。


『その子です。司令の遺伝子が反映されたパーツはほとんど使ってないんですけど、何故か司令になついてるんですよね』


片手だけで器用に抱えあげて両手であやす。


母性愛らしきものも感じはするが、肉人間のそれとはかなり違う気もする。


「いてっ」


寝返りを打った赤子サイズの機械人間が勢い余って保護者の膝と腕から飛び出し俺に突っ込んできた。


赤ん坊は、俺の胸に突っ込んだ態勢で平和な寝息をたてている。


肉人間の赤子なら悲惨な事故もあり得たかもしれないが、親が金を注ぎ込んでいるので極めて頑丈でありぶつかられた俺の方が危険だ。


『すみませんっ』


見慣れない機械人間が真っ青な顔で頭を下げる。


衝撃でずれた俺のARメガネに、遠方の列強からの移住者で、今はナニーの傘下で公安部門に勤めていると表示される。


赤子の髪の色も顔立ちも非常に肉人間の要素が濃く、それでいて俺がこの宇宙で会ったことのある肉人間とは雰囲気がかなり違う。


ARメガネが赤ん坊と母親の詳しい情報を表示しようとしていたので、俺はARメガネを軽く叩いて中断させた。


「子供のやったことに目くじらを立て気はない。しかし、肝が座った子だな」


赤ん坊は一度目が覚めかけて、近くに母親がいることを確認した後はまた眠ってしまった。


『はい。御主人様にそっくりです』


遠い過去を懐かしむ表情で我が子を見守る機械人間を見て、俺は「人にはそれぞれ別の歴史がある」という事実を、超高性能パイロットスーツで防御しきれなかった衝撃と痛みと共に感じていた。


  ☆


『お母さん! 私も弟が欲しい!』


銀華が高く跳びながら、笑顔でおねだりする。


『弟? 妹じゃだめなの?』


メモリは、力任せに跳ぶ銀華とは違って姿勢も表情も完璧で、目の光だけが戸惑ったようにゆるく明滅する。


『それは……にゃっ!?』


ダンスに集中しきれなかった銀華がわずかにバランスを崩す。


通常の重力がかかった場所で、機械人間の身体能力で無理やり飛んでいるので、一度バランスを崩せば崩壊はすぐだ。


『失敗したとき、自分で立て直せるようになったら脱初心者だよ』


まるで最初から予定していたかのように銀華を支え、崩れた銀華の姿勢と調和のとれた姿勢で危なげなくステージに着地する。


かなりの速度と重さにもかかわらず、小さな足音しかしなかった。


『お母さんすごい!』


『すごいでしょ。でも、そういうのは踊りが終わってからね』


静かな動きで余韻を表現し、観客席に対してゆるやかに微笑み手を振る。


巨大な観客席はほぼ満席で、五割で機械人間で二割がカノン妹だ。


残りの三割の肉人間の中には、新造された機械人間の親がかなりの割合で含まれている。


俺は当然、最前列で妻と娘の応援をしていて、赤ん坊や幼児が何人か俺につられて応援らしきことをしていた。


  ☆


ステージに隣接する控室へ移動したメモリはステージ衣装から着替えて、まだ熱いままの銀華に冷却水を飲ませている。


機械人間は熱湯に変わった水を排出することも、車の冷却水のように体内で循環させることもあるが、銀華のように熱管理が苦手な者は冷却水を飲んですぐ蒸発させて無理やり体温を下げることになる。


『あついー』


『反省しなさい』


メモリが厳しいのは口だけで、水を飲ませたり冷えた風を当てたりと、甲斐甲斐しく銀華の面倒を見ている。


肉人間と比べて圧倒的な腕力と持久力と耐久力を持つ銀華ではあるが、肉人間を模した部分が多いため疲れたら眠るし、眠っている間に記憶の整理や、冷却水に含まれる成長用素材を使って肉体的な成長も行う。


『マスター。二人目は無理そう?』


メモリは銀華をうちわであおぎながら俺に聞いてくる。


「ハカセがまたストを計画しているんだよ」


『最近は銀華のパーツの流用じゃない設計ばかりなんだっけ』


銀華の体温が平熱まで下がったことを確認したメモリが、俺に密着する形でソファーに座った。


「ワンオさんの子供の設計と生産は契国から補助を出したが、それ以降は全額自己負担なんだが、なあ」


設計も高額で、生産もハイエンド機体を諦めてもすごく高額だ。


ワンオさん級の人材か、契国への功労者か、とてつもない金持ちでない限り機械人間の新造は認めないという、俺とハカセの一回目の労使交渉の結論を反映した額だったのだ。


『機械人間の子供、すごく増えたよね』


「本当にな」


夫婦で重さと熱をわけあいながら、同時にため息を吐く。


契国建国以前から溜め込んでいた財を使って子作りする機械人間が、とても多いのだ。


『銀華、弟が欲しいみたい』


「パーツの流用はできても設計の流用はできないんだよな……」


契国代表としてハカセたちに命令することはできるが、そんなことをしたら、あいつらは間違いなくへそを曲げてストライキを始める。


その場合、子供の新造を依頼できるほどの大金持ちから非難されるのは、ハカセたちではなく俺だ。


「ところで、どうして弟?」


『ワンオさんのところの白と黒が、銀華の最近のお気に入りみたいなの。妹は生意気だけど弟はかわいいんだって』


「そうか」


リアル姉を持つ男の多くは「姉は暴君だ」と言っていた気がするが、銀華は違うのかもしれない。


それきり会話が途絶えるが、その沈黙は会話中と同じくらいに快適だ。


少しずつ体勢を変えながら、今日は銀華にはメモリとは別の部屋で寝てもらおうかと考え始めたとき、優先度が「夫婦の時間でも構わず報告しろ」の急報が届く。


『地方星系の駐留戦力で対処不能な賊?』


「ちょっとぶっ殺してくる」


今だけは、捕虜がとれる場面でもとどめのレーザーを撃ち込んでしまうかもしれない。


  ☆


主星系から出発した艦隊の雰囲気は、最悪に近かった。


『単身赴任はいやぁ』


『司令。転属願いって今だしてもいいですか』


『痛覚がないのに心が痛いんですが』


二十八人のうち、実に十人が子供を作っていた。


半数がハイエンド機体で、残りの半数もほぼハイエンドかつ特殊装備つきだ。


こいつら、この一年でも大量に撃墜してアホみたいに稼いでいたのは知っているが、自分のパーツに金を続けて来たこいつらにとっては高すぎる買い物のはずだ。


「お前ら……。作戦終了後なら転属も構わんが、子供を育てるための金は確保しているのか。まさか借金はないよな?」


十人が目をそらし、他の数人が嫌な事実に気付かされた態度になる。


どうやら、予定も含めれば半数以上が子作りするようだ。


「俺も偉そうなことは言えないが、万一に備えた備えを……いやいい。主星系に戻った後に遺族年金や保険について決めるからお前らも出席しろ。通信経由でも構わん」


数秒して、二十八人から『はーい』という気のない返事が返ってきた。


これで少しは大人しくなるか、と俺が抱いた安堵は、主観時間で数分で消えた。


子育ての苦労を上機嫌に話す十人と、興味深そうに聞く数人と、落ち着かなかったり徐々に影響を受けたりしている残りの声ばかりが耳に入ってくる。


今俺が乗っている、指揮支援装置を積んだグローブ型は便利ではあるが、部下の雑談を聞き流すのが難しいのは数少ない欠点の一つだ。


普段はメモリがある程度フィルターをかけくれているが、銀華と一緒に建造中の学校船の下見に行っているから留守なんだ。


「すまんな」


俺は、同行している跳躍支援装置装備のグローブ型に通信を入れる。


『いえ。代表の直属艦隊での勤務は、光栄なことですから』


水国への略奪行で専用の体と契国国籍を得た元AIが、二十八人とは違って真面目な態度で応えてくれる。


……こいつもあのときはヒャッハーしていたのかもしれない。


「他の部署に異動することもあるから、こいつらの影響を受けすぎないよう気をつけろよ」


抗議を意味する信号が二十八回届くが、俺は却下を意味する信号を同数だけ返していた。


「そろそろか」


時計がいまいちあてにならないのが位相戦闘だが、位相戦闘に慣れた肉人間パイロットは勘が働く。


勘が働かないようなのは、何度も撃墜されてコピーを繰り返して勘自体働かなくなる、とハカセが最近言っていた気もする。


『元ハカセの実験施設への到着まで、主観時間で後三十秒です』


新人パイロットが几帳面な態度で情報を渡してくる。


『司令、推進機の光が多く見えた気がします』


『大艦隊という感じじゃないですけど』


二十八人の口調は変わらず、意識だけが戦闘用のそれに切り替わっている。


『二十……二隻?』


大枚をはたいて、銀華と同じく俺の遺伝子を強く反映させた目のパーツを装備した二十八人は、ときどきではあるが艦のセンサーを上回る索敵を成功させることがある。


二十八人全員が失敗することは滅多にない。


「俺も確認した。確かに二十二隻だ。……でかいな」


今となっては懐かしいマザーボード改型巡洋艦十隻が前衛、水上艦型戦艦五隻が後衛の駐留艦隊が、異様なほどの頻度で加減速を繰り返しつつ防戦を続けている。


背後にあるのは、水上艦型戦艦が余裕をもってくぐることのできる巨大リングが二つ。


そして、駐留艦隊を相手に有利に戦闘を進めているのが、船体装甲の分厚さが遠くからでも分かる丸っこい重装甲巡洋艦二十二だ。


『司令! 位相崩壊砲の範囲攻撃の反応があります。数は二十二。敵艦と同数です』


新人パイロットは、物理的には顔色は変わらないが、比喩的な意味では顔面蒼白になっていた。


予測も覚悟もしていた俺たちは顔には出ない。


子供が生きる際に邪魔になるものの出現に、殺意と戦意が燃え上がるだけだ。


『司令、一班七隻でいきます?』


「それでいく。お前は第二班を率いろ」


『了解』


多数の戦いで肩を並べて戦ってきた機械人間二十八人と肉人間一人だ。


阿吽の呼吸で班分けと方針が決まる。


「いくぞ」


わざと単純な機動をしていた最も敵に近いサーフボード型七隻が、敵艦がロックオンを完了させる前に明後日の方向への猛加速を開始して被ロックオンを解除する。


残りの三編隊合計二十一隻が、敵艦二十二隻を三方向から「掴む」形で急接近する。


「ただの賊なら囲まれる前に逃げ出すはずだが」


俺は、考えがまとまるより早く、俺のグローブ型戦艦を含むグローブ型二隻に横方向への回避を命じていた。


新人パイロットが外側から艦を動かされたことに驚き、理由を俺に聞こうとしたときには寸前までグローブ型戦艦がいた空間を防御不能の範囲攻撃が通過した。


『ケース代表。敵戦力について得られている情報を送った』


元ハカセからの通信と暗号化されたデータが届く。


俺にも短時間で分かるよう要約してくれるのが元ハカセの良いところだ。


他の研究職の連中は嫌がらせの意図はないだろうが嫌がらせじみた内容になるし、ハカセは特にひどい。


「ハカセの情報は行き渡ったな? 敵は機動力を捨てて防御に特化した艦だ。低性能とはいえ位相崩壊砲を装備してる。一隻ずつ確実に潰せ」


所属を隠した特殊部隊か、装備に金をかけただけの賊かは分からないが、俺たちが覚悟していた通りに位相崩壊砲が戦場に再登場した。


だから確実に殺す。


「惑星を狙っているのが見えないのか!?」


こちらが呼びかけもしないので、焦った賊が無差別に通信で叫ぶ。


「そうか。なら、何を言われても無視してぶっ殺すしかないな」


俺は淡々と応じる。


重装甲とはいえサイズは巡洋艦だ。


多数のレーザー砲塔を使っての精密射撃が可能なパイロットとサーフボード型巡洋艦による集中攻撃は、一隻の一箇所に集中して位相障壁を一瞬で破りわずかな時間で装甲もその下の操縦室も焼き溶かす。


駐留艦隊も座視はしない。


それまでは防御無効の範囲攻撃を警戒して回避に集中するしかなかった彼らは、敵艦の注意が俺たちに向いたタイミングで積極的な攻勢に出る。


カノンほど射撃が上手くなくても、近づいて攻撃すれば亜光速の小さな弾は高確率で敵へと届く。


装甲が変形するほどの打ち込まれた敵艦のうち一隻が、唐突にその下半分を消滅させた。


『代表! 位相崩壊砲の暴発だ!』


元ハカセから、範囲攻撃の予想範囲が送られてくる。


契国の星も艦も含まれてはいないが、他国……列強でも楽園管理機構でもない国の星系の近くも予想範囲に含まれていた。


「主星系を経由して範囲内の国には警告を出す。クソが、こっちが所有も使用も我慢してもこれか」


位相崩壊砲の暴発を知った敵艦の多くがひるみ、その隙をサーフボード型艦隊と駐留艦隊が容赦なく攻め立てる。


数に勝る側に複数方向から攻められると、防御する側は絶望的に不利になる。


「降伏する! 降伏すると言ってるだろぉっ」


また一隻、レーザーで半ば融けた状態で亜光速質量弾の着弾の衝撃により全てのパーツがパイロットごと粉砕される。


「使われたら終わりの兵器を持っている奴が、降伏を認められると思ってたのか?」


俺は苦々しい思いを顔に出ないよう注意しながら、冷たく吐き捨てていた。


  ☆


戦いが終わり、艦のあちこちが欠けた駐留艦隊と、パイロットの精神的疲労を除けば無傷の救援艦隊と、二つの巨大リングだけが残った。


「元ハカセ。狙われた理由は分かるか?」


『襲撃者の言動は賊そのものだった。リングの材料は比較的高価格だから、本当に賊としての可能性はある』


俺も元ハカセも、渋い表情で黙り込む。


『司令! これすごいです!』


『推進器しか使ってないのにリング間で超光速移動できてますよこれっ』


『光の二割増しの速度しか出てないです。遊戯用のリング?』


サーフボード型複数が、片方のリングに入って別のリングから出るのを繰り返している。


位相崩壊砲が濫用され、位相跳躍が不可能になった時代でも使用可能な超光速移動手段。


元ハカセが立案および推進中の、ハイパーレーン計画の第一歩が、目の前にある二つのリングだ。


「計画は順調だな。……高いが」


『これでも限界まで低コストにしたぞ。……高いが』


数少ない列強の一つまで成り上がった契国は、艦隊戦に勝つだけでは生き残れない立場になっていた。


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― 新着の感想 ―
楽園管理機構が戦場から排除した、位相崩壊砲がまた出てきましたか。 しかも使ってるのが賊とか、そんなもん抱えて戦闘しようって奴等を、契国が許すはずがない。 でも破壊力と影響力の大きさに目を奪われた賊程度…
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