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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
第五章 列強大戦編

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略奪と残骸

「跳躍難易度と言うから分かりづらくなるんです。位相崩壊砲で相殺したら宇宙に障害物ができると思えばいいんですよ」


ドローンは平然と言い切った。


『ドローン代表代行! それはあまりに不正確な表現だ!』


ハカセが通信に割り込んで猛烈に抗議してくるが、ドローンは平然としている。


「肉人間とAIでは記憶できる量に違いがあります。ケースさんが直感的に理解できる水準が、地表で住んでいる連中がぎりぎり理解できる水準ですよ」


ドローンの言葉は辛辣だ。


無意識に表現を柔らかくできるようになれば、安心して代表の地位を押しつけることができるんだが。


「ケースさん」


ドローンが、呆れと怒りが交じった冷たい笑みを浮かべる。


「僕は過労死したくないです」


「うっす」


契国は列強扱いされるようになったが、まだ少数の優秀な人材で無理矢理成立させている集団でもあった。


「メモリさん、鉄国と火国の状況は分かりますか」


相棒の特殊能力である「地図」で調べてくれということだ。


『位相崩壊砲登場以前からの侵攻はまだ続いてるよ。契国、水国、陽国の領域にいる鉄国の戦力はワンオ司令の艦隊だけみたい。火国は、火国以外の戦力はいないみたい』


「ありがとうございます。鉄国と火国の間でも停戦かそれ以上の条約が締結されたようですね。どちらからも契国に連絡がないですが」


ドローンは「舐めやがっていつか必ず殺す」という表情だった。


俺は、相棒とドローンの会話を聞きながら、宇宙港から送られてくる情報を閲覧している。


情報の閲覧資格は最上位でも、俺の頭は艦隊戦以外は平凡以下なので閲覧しているのは要約版だ。


「ディーヴァも前線に出ているのか」


『むっ』


相棒が分かり易く不満を表明する。


「上司と部下以外の関係にはならないさ」


浮気を疑われないようにするために関係を断つべきかもしれないが、ディーヴァの能力も実績も大きすぎてそういうのは無理なのだ。


「ケースさん、できればディーヴァの艦隊と合流してくれませんか。移民希望者が大量に参加しているので、国家元首が顔を出した方がいろいろうまくいきそうです」


相棒の目が威嚇じみて強い光を放つ。


「承知した。メモリも連れて行くからな」


『分かったよマスター!』


相棒はぴたりと俺にひっつき、離れようとしなかった。


  ☆


水国は列強であり、多数の星系を支配している。


そのうちの一つ、可住惑星が一つと鉱物資源が豊富な惑星を複数存在する星系に、契国の二線級戦力が襲いかかっていた。


『どけ肉人間どもっ! 契国の国籍と報奨金はわたしのものだっ!』


『この程度でAIが消えるかボケ! クラッキングってのはこうするんだ!』


空気のない資源衛星へ、三頭身の機械人間が初期船から器用に飛び降りる。


対空砲だけでなくクラッキングや駐留兵による迎撃がされてはいるが、機械人間たちは分厚い装甲を活かして強引に突破し、水国の拠点を破壊していく。


『マスター、ここは制圧できそう』


相棒はシリアス顔だが、俺にひっついたままだ。


「次に行くか」


俺は、防衛衛星の残骸が漂う宙域からサーフボード型巡洋艦を発進させる。


徹底的に破壊した結果の残骸は、まだレーザーによる熱が残って光っているものもある。


俺の艦に続く二十七隻も、操縦技術は相変わらず巧みだが、緊張感が少し欠けている。


『マスター、みんな気合いが抜けてる?』


「本拠地防衛戦や弩級艦相手の戦いと比べれば楽な戦いだったからな。移民希望者にこっちの力をみせつけることができたのは、よいことではあるが……」


水国は、契国を潰すために最大限の戦力を投入した。


それを全て撃破された今、水国には主星系を守るための戦力しか残っておらず、その結果が今のこの星系の戦況だ。


『マスターもだけど、怪我とかないようにしてね』


排気の熱があたたかい。


「ああ。気を付ける」


俺は気合いを入れ直し、遠くに見える指揮艦へ加速した。


  ☆


操縦室より一回り小さな球体が、水国の惑星に向かって落ちていく。


その数は万を超えているのに、それを迎撃する艦隊はいない。


水上艦型戦艦の大群が、星系内に存在する戦闘艦すべてを執拗に追い回し、降伏か爆散に追い込んでしまったのだ。


しかし惑星上の戦力は健在だ。


古代の国家と比べると倫理観が軽い契国ではあるが、無改造で地表に居住可能な良物件を傷つけるほどイカレてはいない。


だから、水上艦型戦艦の主砲である亜光速質量弾兵器は地上に対しては使えず、地表にある対空砲も陸上部隊も無傷のまま生き残っている。


『星系全域に対するクラッキングを開始します』


主不在の聖女専用指揮艦の中で、ディーヴァが淡々とした態度で宣言する。


指揮艦の中にいるのは、新型跳躍機関の開発や、聖女が伝えてきた「座標」から貴重な無汚染水資源を引き寄せたりと、多くの実績がある研究職機械人間たちだ。


内心で「聖女がいないと研究が進まないんですけど」とか「聖女さまがいないと古代の電波を受信することができないんですけど」とか「また軍勤務かよ」とか思っているのかもしれないが、少なくとも表面上は全員真面目だ。


俺は、賓客用の席に座ったままため息を吐いた。


ARメガネに敵味方の情報的攻防が要約した形で表示されてはいるが、艦隊戦とは勝手が違いすぎて非常に大雑把にしか理解できない。


位相戦闘以外では肉人間は機械人間に勝てない。


カノンやドローンのような例外は極一部なので仕方がないとはいえ、少し寂しい。


相棒は、副官兼護衛的な態度で俺の斜め後ろに控えている。


ディーヴァとは視線をあわせようともしない。


『マスター、地表からの迎撃が始まるよ』


大気で強烈に減衰する地表からのレーザーによって、小さな球体が強く輝く。


高度なAIが搭載された地対空ミサイルはクラッキングによって自壊や明後日の方向への飛行を強いられるが、SF時代の技術で作られた対空砲はかなりの精度で契国の突入カプセルを狙い撃つ。


『マスター、通信途絶が二割を超えたみたい』


「この段階でか」


艦を撃破されても操縦室が救命艇として機能する艦隊戦と比べて、人の命が非常に軽い。


『惑星制圧戦としては、びっくりするくらい被害が少ないよ?』


「ありがとう」


ドローンが提案した作戦を採用し、敵も味方も大勢死ぬのを分かった上で命令したのは俺だ。


相棒の気遣いに感謝しながら、俺は改めて覚悟を決めて、戦況が表示されたディスプレイを見上げた。


「突入の再志願?」


予想外の情報が目に飛び込んできた。


『専用の体を持っていない子は、自分を構成する重要なデータを気軽にコピーやデリートするんだ。専用の体じゃなくても、改竄されない記憶装置を手に入れたらしなくなるんだけどね……』


相棒は、過去の自分自身を思い出して、懐かしさと苦々しさを同時に感じているようだ。


そうしている間にも再志願者の数が増えていく。


地上からの攻撃で撃破されたAIの、ほぼ全員だ。


『作戦終了時点で、支給された機体の所有権と一回の完全整備を受ける権利が手に入るからね。僕も、マスターと出会う前にこの条件で募集があったら参加したかも』


「……そうか」


機械人間の価値観を、肉人間である俺が本当の意味で理解するのは無理かもしれない。


それでも、俺は相棒と共に生きることに決めている。


『外惑星の制圧が完了しました』


ディーヴァが俺に報告する。


星系全体を表示したディスプレイを見ると、この星系で最も栄えている星より恒星から遠い全ての惑星と小惑星に「占領完了」の表示がされていた。


『複数の艦建造施設の占拠に成功しました。作戦通り、全て解体と回収を行って構いませんか?』


「作戦通りに頼む」


ディスプレイの表示が、占領完了から解体中の表示に切り替わる。


「施設と情報は惜しいが罠が怖い」


追い詰められた相手は何だってする。


しかも相手は、今は劣勢とはいえ列強だ。


普段よりさらに手段を選ばなくなった奴らを相手に完全勝利を目指すのは、リスクが大きすぎる。


『承知いたしました。容量特化型弩級艦が到着してすぐ物資を引き渡せるよう作戦を進めます』


ディスプレイに、地表とその少し上の光景が映し出されている。


地表に激突寸前の球体が内側から破壊され、下半身が戦車の機械人間が、戦車の下から火を噴くことで減速して着陸に成功する。


その直後にその姿が消える。


正確に表現するなら「俺の目で追えなくなっただけ」だ。


艦内で戦うのが前提のナニーたちとは違って機体を大きくできる分、値段の割に戦力が非常に高い。


「水国の地表居住者の扱いはどうする?」


俺は作戦を承認した時点で責任は引き受け、細部の判断は実行者に任せている。


『居住地に敵戦力が集結していますので、それ以外の拠点の破壊と資源回収を行います』


俺のARメガネに、この星系で既に得た資源と、この惑星で略奪したときに得られるであろう資源の種類と数が表示される。


「こいつは……」


何度か瞬いても表示は変わらない。


「水国は金持ちだな」


ディーヴァは曖昧に微笑んで誤魔化した。


契国が貧乏かつ自転車操業なだけともいえるからな。


『こなくそー!』


『何回撃破されようが我は戻ってくるぞ!』


借り物の機体を撃破されても、AIたちの闘志は衰えない。


最初は装備の差で優勢だった水国地上軍は、契国が大量生産した陸戦機体と、国籍と専用機体目当ての移民希望者に徐々に押され、ついに戦線が崩壊した。


『マスター、これ、古代の侵略映像みたい』


「肉人間の命はどうでもよくて資源だけ狙ってるのがSF風だな」


激戦の割に水国の肉人間の被害は少なく、しかし設備や資源の被害は甚大だった。


  ☆


岩塊じみた形の弩級艦に、元は基地や都市を構成していた資材が運び込まれていく。


弩級艦としても大きすぎるためサイズの差がすさまじい。


相棒と俺と何故かついてきたカノン妹二十人の合計二十二人が、弩級艦パイロットの地位を押しつけられた一番の誘導に従い重要区画へ向かっていた。


「弩級艦という高級品の中で宇宙服か」


俺は怒ってもいないし嘆いてもいない。


船外活動と同レベルの重労働なので、疲れているだけだ。


「メモリ様も宇宙服を着ないとだめなんですか?」


『この環境で生身だと肌への負担がね』


相棒は、器用に俺の補助をしながらうふふと微笑む。


「おとなだー」


きゃぁきゃぁ騒ぐカノン妹たちは、中身が戦闘種族でも子供ではあった。


そうしているうちに目的地につく。


移民希望者としては少数派である、専用の体と個人所有の宇宙船を持っている機械人間が、契国に来る途中で漂流中のものを発見後回収して契国への手土産にした「残骸」だ。


「うちの戦闘艦と違って普通にかっこいい!」


白と黒で塗り分けられていた装甲はレーザーで炙られて融け、脱出艇を兼ねた操縦室は既にない。


それでも機能美がある。


薄い装甲と大型の推進器と跳躍機関が目立つ、戦うための艦だ。


『一番、たまには口を使って話そうよ』


データを受け取った相棒がちらりと一番を見て、それから俺に向き直る。


『搭載されていた兵器は、高威力の質量兵器が一門だけだったみたい。一対一で戦うのは全く考えていない、数を揃えて戦う艦だと思う』


相棒が説明している間も、カノン妹たちは好き勝手に「残骸」を見物している。


「良く見ると、つくりが単純?」


「サーフボード型とか、ごちゃごちゃしてるもんね」


俺は、鋭い刃物で急所を撫でられたような感覚に襲われた。


「これは、鉄国があのときの敵第四集団相手の戦いで使ったフリゲート、でいいのか?」


『うん。罠の可能性はゼロに近いみたい。予想性能より少し下の性能だけど、サーフボード型より少し速いよ。量産性もかなりいいみたい』


「参ったな」


こちらに対抗可能な最低限の性能と、こちらを圧倒可能な数を揃えるための量産のし易さを兼ね備えている。


現時点で鉄国が攻めて来たら、俺たちは抵抗はできるが絶対に負ける。


「艦の増産は、予定通りにするしかないか」


『鉄国と互角以上に戦えるだけ数を揃えようとしたら、水国と陽国での略奪で得られる予定の資源を全部使うことになるよ?』


「負けるよりはマシだろ」


相棒と俺は顔を見合わせ、同時にため息をつく。


『新しいステージ欲しかったのに……』


「位相崩壊砲がこれ以上広まる前に、動ける宇宙居住地を作りたいんだがな……」


列強の独裁者夫婦になっても、物欲を満たすのは容易ではない。

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― 新着の感想 ―
鉄国はやはり難敵ですね。 ケースがここまではっきりと開戦前の段階で敗北を認めるのは珍しいですが、生産性、機動力、物量で劣り、まだ切り札もありそうな鉄国を相手にするのは難しいですよね。 しかも鉄国も火国…
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