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AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~  作者: 星灯ゆらり
第四章 列強抗争編

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契国

二十八隻のサーフボード型巡洋艦が、戦場から逃げ出そうとする艦隊と速度をあわせる。


「自爆に巻き込まれないよう距離には注意しろ」


俺は口頭で命令しながら複数の目標を指定する。


大量の目玉がそれぞれ別の方向を向いて、操縦室の真上の装甲に念入りに緑の閃光を浴びせた。


この状況で操縦室で脱出しようとしたら、操縦室が中身ごと焼かれる可能性がかなり大きくなる。


『マスター、なんで降伏しないのだと思う?』


「惑星破壊の実行犯か鋼国のトップが乗っているんじゃないか? 水国に引き渡すってドローンも言ったからな」


他の二十七隻からも多数のレーザーが照射される。


たまに明後日の方向へ向けられるレーザーもあるが、大部分は敵の急所や敵にとって絶対に攻撃されて欲しくない場所に複数方向から当たっている。


位相障壁や船体装甲がどれだけ高性能でも、逃走中の艦では本来の性能を発揮するのは難しい。


操縦室の破壊を恐れて敵艦が向きを変える。


すると、装甲に守られている位相跳躍機関が、丁度狙い易い位置になってそこへレーザーが集中する。


レーザーのエネルギーに耐えられなくなった船体装甲が、水が沸騰するかのように変形した。


『データとして送りつけるだけだから、言ったのとはちょっと違うかも』


「そうか。いかんな、記憶力が落ちてるか」


『長時間操縦してるからじゃないかな。できれば今すぐ操縦を代わりたいよ』


敵艦隊が後先考えずに撃ちまくる対空砲や短射程ミサイルを躱したり迎撃したりする操作が忙しくて、今はちょっと交代は難しい。


『司令と一緒に戦うだけで操縦技術が上がって行くのですが』


『未加工の操縦ログって、学習対象として美味しい……』


「お前ら無駄口はやめろ。今はもう勝つか負けるか分からない状況ではなく、ミスを減らして戦えば生き延びた上で勝てる状況だぞ。真面目にやれ」


『マスター以外なら今でも死地だけどね』


「カノンや他の連中でもできるだろ。……よし」


どの戦艦も全く加速も減速もしなくなったのを確かめ、俺は一時撤退の指示を出す。


位相障壁に大きなダメージを負ったサーフボード型巡洋艦二十八隻が攻撃を中止してふわりと離れ、その位相障壁を急速に回復させた。


「ケースさん、その艦隊の処理は艦載機に任せて帰還してください。……二十八隻で帰還してください! 単独で気楽に移動するなんて自由、今のケースさんにはないですからね!」


「うっす」


俺はしぶしぶと、別の標的に向かわせるつもりだった二十七隻に、俺に着いてくるよう命令し直す。


遠くから狙いをつけていた水上艦型戦艦群が、回避能力を失った敵艦隊に一方的な砲撃を開始した。


  ☆


『マスター、宇宙港だよ!』


相棒がはしゃいでいる。


鋼国の残党が抵抗を続ける星系の、恒星から最も離れた場所に小さな宇宙港が浮いていた。


巨大な船倉に分解済みの生産設備を詰め込まれた大型輸送艦が宇宙港に接続され、宇宙港が外から分かるほどの速度で増築されていっている。


「見慣れた区画があるな」


『僕のステージがある所だよ! やっぱりあれがないとね!』


相棒の喜びが俺の喜びではあるんだが、今は生産力優先の方がいいかもしれないと思った。


『代表! こっちに来てくれ!』


宇宙港に到着した俺たちを出迎えたのは、元ハカセだった。


『今、研究職が総掛かりでリバースエンジニアリングを行っている』


『マスター、通信を使えないくらい重要な情報があるみたい』


「了解。急ごう」


ナニー傘下の警備が厳重に守る扉をいくつも通過し、本来なら損傷艦の修理を行うための施設へ入る。


「ケースさん、それでいいんですか」


「何か問題が?」


ここまでおんぶで運ばれてきた俺は、ドローンの目の前で相棒に下ろしてもらった。


「さすが相棒」


俺は親指を立てる。


特別な装備などないのに、俺の体への負担が軽かった。


『マスターの体のことはよく知ってるからね!』


相棒は、豊かではない胸を張ってディーヴァ相手に勝ち誇っている。


『今は会話より優先して欲しいことがある』


元ハカセが、妙な雰囲気になりかけたのを一気にシリアスに引き戻す。


『現在まで分かったことを伝える。我々が「範囲攻撃兵器」と呼ぶ兵器は、設計ログなしでも生産可能だ』


設計ログというのは、設計図には記入されていない、その設計が完成するまでにどう考えどう工夫しどんな失敗があったかについての情報らしい。


国営放送の教養番組で聞いた内容なので間違ってはいないはずだ。


『一般的な列強の技術水準で生産可能ということでしょうか』


表情を消したディーヴァが質問する。


『列強以外でも可能だ。性能の割に製造の難易度が低すぎる。ケース契約国もナイアTECでも生産可能だ』


俺は、理解するまで十秒以上必要だった。


『話を続ける。範囲攻撃を防ぐ手段についても判明した』


俺だけでなく、相棒を含めた機械人間たちも興奮する。


防ぐことが可能なら、既に範囲攻撃が向かっている惑星を救えるかもしれない。


俺たちは惑星の被害を覚悟した上で戦ってはいるが、惑星の被害を望んでいる訳ではないのだ。


『範囲攻撃兵器で打ち落とせる』


「えっ」


そんな単純な対策でいけたのか?


『その代わりに、空間に甚大な悪影響を残す。惑星を破壊するつもりの範囲攻撃を星系内部で打ち消せば、その星系での位相跳躍は自殺行為になる。そうなれば他星系との連絡も交易も絶望的だ。その星系は星間文明から事実上切り離されることになる』


元ハカセが自分自身にケーブルを接続する。


ケーブルで繋がったディスプレイに、位相跳躍をした際に「まともな」空間に戻れる確率が表示され、パイロット経験のある者が俺を含めてうめいた。


「新型位相跳躍機関搭載艦の場合は?」


ドローンはかなり落ち着いている。


ドローンにとって大事な存在は全員この場に……カノンは話に飽きて戦場に戻ってしまったが、とにかく範囲攻撃の攻撃に晒されていないのだ。


『航行は可能だが影響は受ける。同規模の打ち消しが再度行われれば、新型位相跳躍機関搭載艦でも事実上航行不可能になる』


元ハカセの発言に、ディーヴァが補足する。


『現在確保した範囲攻撃兵器を修理して高速艦に搭載すれば、いくつかの惑星は防衛可能です』


ディーヴァの指が、何も映していないディスプレイに触れる。


多数の星系の位置が平面的に表示され、まだ間に合う惑星と、どうやっても間に合わない惑星と、既に破壊された惑星がそれぞれ別の色に着色された。


「僕は、範囲攻撃兵器の使用に反対します。惑星の住民を全員宇宙に上げるための船は派遣済みです。それに、僕たちが範囲攻撃兵器を使えば、水国や他の列強が僕たちを鋼国の同類扱いして攻めてくるかもしれません」


「「「おい!」」」


三人組が我慢できなくなって声を張り上げた。


「「「どれだけ苦しい生活になるとっ」」」


「ケース契約国が滅んだ場合と比べると生活水準は上ですよ」


うーん。


ドローン、ここは演技でも申し訳なさそうな顔をすべきと思うぞ。


「ドローン。それは俺が言うべきことだ。……先輩方、鋼国相手の戦争もまだ終わっていないのに、他の列強を刺激するのは無茶だ。それでも惑星を助けるべきだと思うか?」


「当たり前だ!」


一人が代表して話を続ける。


「そもそも惑星を攻撃されたのもお前のっ、いや、俺ら評議会の失敗だろうが!」


「その通りだ」


俺は大きく頷く。


「だから初期船……じゃなくて最低限とはいえ戦闘艦としての能力を持つ船を大量生産して住民避難に使っている。操縦室は廉価版だがな」


「その程度でっ」


「その程度もしないのがこの宇宙の常識だろう。それより、惑星を守るつもりなら他にすべきことがあるんじゃないか?」


できれば、惑星の住民を助けるだけで納得して欲しいんだが。


「「「分かっている」」」


三人は、激情を理性で抑え込む。


「「「評議会の議席を手放す。その代わり、惑星の防衛を頼む」」」


ドローンがにやりとする。


俺はドローンに伝わるよう咳払いをする。


「頭を下げられてもケース契約国の利益にはならないから止めろ。議席返上も不要だ。その代わり」


『マスターがドローンそっくりの顔してる』


顔じゃなくて表情だぞ相棒。


あと、してるんじゃなくて表情筋の制御に失敗しただけだからな。


「今後はパイロット研修の教官として働いてもらう。頭に血が上った列強に武力行使を踏みとどまらせるために、パイロットの増員は急務だからな」


カノン妹は、「芋」や聖女の料理が必要になるのでこれ以上増やせない。


だが機械人間のパイロットは、教育とパーツ換装でかなり増やせるはずだ。


この三人の強さを学習した機械人間のパイロットが、サーフボード型巡洋艦は無理でも量産中の水上艦型戦艦に乗るようになれば、複数の列強相手でも勝つのは無理でも対抗は可能、と思いたい。


三人の顔色が酷いものに変わった。


「ケース、お前っ」


「これ以上AIを強くするつもりかっ」


「正気か? 本当にやるつもりなのかお前はっ」


肉人間が人間扱いされなくなり、機械人間だけが人間になる展開を恐れているのかもしれない。


相棒と俺の子供は機械人間の予定だし、ドローンもカノンも貴重すぎて雑には扱えない人材だから、俺個人としては恐れるような展開ではない。


「そこまでやらないとケース契約国のAIも肉人間も敗戦して死ぬだろうが。AIが怖いならカノンの妹たちの教育にも協力しておけ。あいつらは一応、肉人間だからな」


三人は、絶望に限りなく近い表情を浮かべていた。


『交渉はまとまったな』


元ハカセが意図的に空気を読まずに発言する。


『ケース代表、一番を貸して欲しい。現在ハカセが組み立て中の高速艦のパイロットにしたい』


「先輩方の方が操縦は巧いぞ」


『範囲攻撃兵器を無理矢理搭載するから、肉人間用の生命維持装置を搭載するための場所がない』


「許可する。……生命維持装置の分の場所を武装にまわせるなら、今後はAI専用艦を増やすべきか?」


『はんたーい! 僕とマスターが一緒に乗れない艦ははんたーい!』


『わたくしも反対しますっ! ケース様が乗れない船は認められませんっ!』


俺の議席を含めて議席三つ分の発言力を持つ相棒と、聖女五人組から議席五つ分の全権委任されているディーヴァと、もちろん三人組も全力で反対するので機械人間専用艦の増産提案は却下された。


  ☆


「姉さんは?」


『『鋼国の残党と戦闘中です』』


『マスター! ドローンも! 飲み物もってきたよ!』


久々に初期メンバーが集まるはずだったのに、カノンは不在で相棒と俺とドローンとナニーだけがその場に残っていた。


「ありがとうございます、メモリさん。まったく姉さんは」


「助かる。地球時代の友人を殺したんだ。気晴らしも必要だろう」


柑橘類の香りが微かにあるだけの水だが、体に害が全くない時点でこの宇宙では貴重品だ。


「姉さんがそんなに繊細だと思いますか? 礼儀正しいのは見た目だけで、ケースさん以上に雑なところがありますよ」


そう言うドローンだが、カノンに対する悪意はない。


『『時間になりました』』


ナニーが、印刷された物理的な報告書をドローンへ渡す。


元ハカセから直接渡された報告書らしい。


「範囲攻撃兵器の開発者についての情報です」


ドローンの言葉に、相棒の目の光が強くなった。


「開発者は、姉さんが仕留めた「日本人」です。ナニーが占領した基地を調査したところ、コピー回数が多すぎて計測不能、コピーのデータも壊れていたことが判明しました」


「聖女に匹敵する特殊能力の持ち主だったのか?」


「捕虜からいくつか情報を得られていますが、本人の能力はそれほど高くはなかったようです。発想とカリスマだけは非常に高く、王族に取り入って急速に出世しつつ範囲攻撃兵器の開発に成功。最終的に弩級艦のパイロットまで成り上がったようです」


『他の列強のスパイだったりする?』


「可能性はあるとしか言えません」


ドローンもカノンも、聖女たちも極めて珍しい能力や特殊能力を持っている。


しかし、範囲攻撃という超兵器と比較すれば平凡とすらいえる。


「こいつも、この宇宙で目が覚めたのは、俺たちと同じ時刻で鉄国の同じ星系か?」


ドローンは、静かに頷いた。


そうか。


訳が分からん。


もともと平均未満な頭が、長時間の操縦で疲れてしまっている。


『『弟様。ケース様。カノン様から通信接続要求が届いています』』


「繋いで」


ドローンの指示で繋がった通信に現れたのは、カノンではなく別の顔だった。


「儂は鉄国勅任艦隊司令にして契国駐在武官のワンオ中級部隊長である!」


名乗りが少し変わっている。


『『カノン様が中継されています』』


「うむ。急ぎ故に無理を通させてもらった。鉄国は鋼国の暴挙に対し強く懸念を抱き、その暴挙を防いだ契国を新たな列強として認める。惑星から避難した人間のための宇宙居住地用の設計図も無償で公開する。以上だ」


『マスター、届いたデータでは契国はケース契約国のことだって』


相棒が小声で伝えてくれたので小さく頷く。


「こちらケース契約国代表のケースだ。鉄国の協力に深く感謝する。……ご出世おめでとうございます、ワンオ司令」


ワンオ氏は綺麗な敬礼をして、目だけ俺に合図し、通信が切れた。


「口止め料でしょうか」


これが口止め費用だとしたら安すぎるな。


「命が惜しいなら詮索するなってことかもな。とりあえず、一番が範囲攻撃兵器をぶっ放すより前に、契国と鉄国の友好関係を他の列強全てに公開してやろうぜ!」


俺は鉄国を、ケース契約国の戦いに巻き込む気満々であった。

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― 新着の感想 ―
ケースさんと仲のいいワンオ氏を使って、安く素早く契国を抑えに動いた鉄国ですが、その行動は契国を利するだけで終るのか?w 鉄国も権謀術数に長けた人材がいそうですし、ケースさん達の方が気を付けた方が良いか…
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