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これは戦争ではない

『大地教信徒同盟からの宣戦布告が届いたよ……』


相棒は疲れを隠せていない。


暴れようとした黒装束娘を殺さずに捕獲したり、自動的に爆発しようとした黒装束娘の宇宙船を宇宙港の外へ放りだしたり、わざわざ自動操縦可能な宇宙船を購入して黒装束娘を大地教信徒同盟の領域に送り返したりと、本当にいろいろあったからだ。


「戦争が始まった時点で疲れたな」


「気持ちは分かりますが、今は会議中ですよ」


そう言うドローンもぐったりしている。


この星系での採掘事業開始まで漕ぎ着けたのは本当にすごいが、そろそろ限界らしい。


「戦争か」


「昔を思い出す」


「しかし敵が宗教勢力とはなあ」


凄腕のパイロットであり、少額ではあるが出資者でもある三人組が感慨深そうな態度で私語をしている。


俺は声を張り上げる。


「相棒、あれを映してくれ」


例の「地図」から、俺たちの勢力圏と大地教信徒同盟の勢力圏についての情報を抜き出したものだ。


俺たちの拠点はリアルタイムだが、大地教信徒同盟の情報は大規模な基地くらいしか分からない。


「何度見ても無茶苦茶だ」


「これで負けたら恥だぞ後輩」


「大地教信徒同盟の奴ら、ずいぶんでかくなったな」


俺たちが制圧した惑星が三つで、大地教信徒同盟の基地がある星系が七つだ。


「強敵ですね」


カノンは機嫌が良さそうだ。


こいつは本当に戦いが好きだな。


『『艦隊戦力では大きな差はないと思われます』』


『基地の中を隠したり偽装する技術もなさそうだから、ナニーの推測があってると思うよ』


「全員が集まるのも大変だ。今、今後の基本方針を決めてしまうぞ」


まだ会社にも国にもなっていないので俺の独裁体制ではあるが、妥当な要求なら適度に受け入れた方が、最終的に面倒が少ないはずだ。


「最優先はこの場にいる全員が死なないことだ」


三人組からの、呆れたような、初心者を見るような視線を無視する。


「次に資産の防衛だ」


地図に、今俺たちがいる宇宙港が強調表示される。


「星系そのものは金も資源も生み出さない。宇宙港と艦隊があれば採掘や輸送で稼げる」


AIもドローンもカノンも不服はないようだが、三人組は敵意に近いほどの不満をあらわにする。


「住民がいる惑星を放棄するってのか?」


三人組の他の二人も、不機嫌そうに唸る。


「必要ならな」


俺は目を逸らさずに断言する。


「惑星は、市場にするにも採掘場所にするにも面倒がありすぎる。防衛は余裕があるとき限定だ」


三人組は舌打ちするが、それ以上の反論はない。


倫理観を重視した戦いができるほどの戦力がないのは事実だからだ。


三人組が活躍すれば、惑星の一つくらいは無事で済むかも、というのが現状だ。


「最後に、大地教信徒同盟からの攻撃を終わらせることだ」


「停戦を呼びかけるつもりですか?」


カノンは不満を隠しきれていない。


「まさか」


俺だって大地教信徒同盟に不満いっぱいだ。


最大の資産である宇宙港で爆発しようとしたんだからな。


「停戦させるのが目的だ。全滅させるのも、全て奪うのも、それ以上抵抗できない程度に痛めつけるのも、必要ならやるとも」


放置すれば相棒に害を与えそうな奴らなんて、機会があれば積極的に殺したいくらいだ。


「一撃で決着するような戦いになる可能性は低い。全員、体調管理に気をつけて仕事をしろ」


ナイアTECにフリゲートや宇宙港用対ミサイル対空砲や三人組用のミサイルも新規発注済みだ。


「異論があるなら今言ってくれ。方針を修正するのは後になればなるほど大変だからな。……よし、ならこの方針で行く。では解散!」


人間、人型機械、下半身が戦車っぽい人型機械のきゅらきゅら音が、会議室に響いていた。


  ☆


久々の相棒との二人旅といきたかったが、四×五のフリゲート艦隊の引率が今の俺の仕事だ。


『このあたりにいる、はず?』


相棒は確信を持てていない。


あの「地図」は万能ではなく、小型の基地や宇宙船については情報がかなり少ない。


他星系に向かっている宇宙船の場合は、目的地の星系に到着して初めて分かるかどうかといったところだ。


「ドローンがいればすぐに分かるんだがな」


『あの子、探索ドローンの使い方めちゃくちゃうまいもんね』


早く連続超短距離ワープをしていないときも、AI相手に見劣りしない速度と精度でドローンを動かしているからな。


『見つけた! けど』


「初期船サイズの船か。搭載しているのはレーザーのみ。単独行動だと?」


『ううん違う。この星系のいろんな場所にやってきてる。全部外縁だけど数が……五十以上?』


初期船五十隻全てにベテランパイロットが乗っていれば脅威だが……。


「一番と三番、突撃を許可する」


ガス抜きと、敵味方の実力の見極めのためだ。


『マスター!?』


「援護はするさ。敵船への監視に集中してくれ」


『もうっ。あの子たちが調子にのっちゃうよ』


俺たちが会話している間に、二隻のフリゲートが隊列から飛び出して敵船に急接近している。


争うように加速しているので連携なんてものはない。


しかし、衝突しかねない距離以上には近づかない操縦も、そこまで焦らずレーザーキャノンをチャージ完了したまま近づく判断も悪くない。


緑の閃光が別々に放たれ、一つは敵船を掠めてそのアーマーを融解させ、もう一つは推進機を貫通した。


『船が爆発しかけてるのに操縦室がそのまま……あっ』


宇宙では加速しない限り速度はそのままだ。


各所から火が出ている船が、動揺した一番のフリゲートめがけて直進する。


「攻撃開始」


マザーボード型フリゲート十八隻による閃光が、残骸も含めて敵の全てを吹き飛ばした。


「相棒、人殺しに耐性があるAIを選抜してくれ」


『いいけど……』


動揺を隠せない相棒の背中に軽く触れる。


「敵は古典的な戦術を使っているだけだ」


極端な思想を植え付けて人命軽視の兵器に乗せるならマシな方で、乗れば確実に死ぬ兵器に乗せたり、加工して兵器に載せるとかな。


「ドローンとカノンは手が空き次第撤退させろ」


貴重な人材がこんな所で潰れたら、無法星系からの撤退も真剣に考える必要が出てくる。


「俺と相棒はしばらく忙しいぞ?」


『うん、マスターと一緒なら、大丈夫!』


相棒には可能な限り無理をさせないと、心に決めた。


  ☆


戦いとはとうてい言えない作業を終えた俺たちは、再び宇宙港に集合した。


「俺は後輩がこえーよ」


ほとんど疲れた様子を見せない三人組が、言葉で俺を刺してくる。


「あんたらだって必要ならやるだろ」


そうでなきゃ、もっと頻繁にコピーを使うことになっていたはずだ。


「今の俺らは気楽な雇われだからな」


「上司に不満をぶつけるのは部下の特権ってな」


「それはそれとして今回の件でボーナスはくれよ」


三人は好き勝手言って席に着いた。


「ケースさん」


カノンが何か言いかけたが、俺はそれを遮る。


「俺は成人で、喜んでパイロットになった。カノンとドローンは未成年で、パイロット以外のまともな選択肢がなかった。だからまあ、今回くらいはな」


この姉弟が潰れると不利益になるという打算も本音だが、こちらも本音だ。


『『ありがとうございます』』


「気にするな」


俺に頭を下げてくるナニーとドローンにそう言ってから、俺は戦闘後の調査で分かったことを最も大きなディスプレイに表示させた。


「極限まで機能を削った初期船もどきだ。武装以外は最低限で、パイロットは狭い空間に管つきで閉じ込められている」


脱出艇を兼ねた操縦室なんてものはなく、被弾すれば戦死確実な船だ。


「ひどい……」


ドローンが珍しく年相応の顔で感情を表に出している。


『マスター』


相棒の表情は沈痛で、瞳には俺に強く期待する光がある。


「俺たちの星系にやってくるのをいくら倒しても同じ展開が続くだけだ。敵の中心を潰すぞ」


別のディスプレイに表示された、大地教信徒同盟の本拠がある星系を指差し、俺は歯を剥き出して宣言した。

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