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プランB

「限度があります!」


ドローンが猛抗議してくる。


「武装輸送艦をこんなに増やしてどうするんですか! 輸送力もいいですが戦力も増やして下さい!」


『それはそう』


相棒は超信地旋回しながら腕組みして頷いている。


次の整備のときは床を取り替えないとな。


「まだ八隻じゃないか」


「もう八隻です! AIの乗員も八十人ですよ!」


最初に雇用した三十人にはスタンドアローン可能な体を提供して、その三十人を中心に八隻を動かしてもらっている。


「儲けられるうちに儲けるべきだ」


俺は真剣な顔で言い返す。


決まった経路で活動する艦隊がいたら、メタを張った戦力を用意して仕留めるのがPvPプレイヤーだ。


今さら規模を縮小しても確実に襲われるのだから、できるだけ儲けた後に別の稼ぎを始めた方がいい。


『『弟様、星系内の複数の宇宙港に動きがあります』』


会議室……艦隊を構成する全艦を通信で結んだ疑似会議室に、ため息の音が複数響いた。


「すまん。俺の判断ミスだ」


俺は頭を下げている間も思考は止めない。


複数の宇宙港で同時に動きがあるってことは……。


「この戦力なら撃退可能です。どうします、ケースさん」


うん、こっちに「地図」があることに気づかれたな。


「プランBでいく」


『プランB!?』


何故か相棒がわくわくした声と表情になっている。


そうしている間も武装輸送艦の中ではプランBで決められた動きが始まっている。


「複数の艦隊が高速で接近中です。至近距離にフリゲートの反応あり。ステルスフリゲートの艦隊です」


「ワープ妨害艦を狙いますね」


ドローンとカノンは、俺が指示を出すまでもなく最適の行動をとっている。


敵フリゲートが次々に破壊されてそのたびに操縦室が飛び出し、俺たちの艦隊に追いつけずに置き去りにされる。


俺の考えすぎだったか?


『マスター! レーザーキャノンのチャージが進まない!』


「故障、いや、エネルギー吸収か!」


敵フリゲートの中にエネルギー吸収装置を積み込んだ奴がいたようだ。


フリゲートに積み込めるサイズだから性能はしれているが、数隻いれば巡洋艦一隻をエネルギー切れに追い込む程度簡単だ。


『カノンの命中率も下がってる。ごめん、下がってるんじゃなくて数秒前からゼロになってる!』


兵器の性能を低下させるタイプのECMも持ち込んでやがる。


レーザーキャノン使いの俺にはエネルギー吸収、オートキャノンで当てまくるカノンにはこれ。


完全にメタを張られたな。


『敵艦隊の有効射程まで主観時間で後七秒……今加速して後二秒、レーザーが来るよ!』


小刻みに進路を変えている俺はまだロックオンされていないが、カノンもドローンの狙われている。


赤い光の束が、武装輸送艦の隊列に突き刺さる。


シールドもアーマーも貫かれた二隻から、無数の小さな部品が黒煙じみて散らばっていく。


俺は最後のエネルギーを使ってレーザーキャノンで攻撃する。


武装輸送艦に近付こうとした敵フリゲートが、被弾するのを恐れて進路を曲げて武装輸送艦から遠ざかった。


「退艦を許可する。操縦室は守り抜け」


この時点で俺の船のエネルギーは尽きた。


『マスター! 怪我!』


「この程度で死ぬかよ」


非常用ボタンを全力で殴りつける。


保護用のカバーが砕けてボタンが押され、俺と相棒が猛烈な勢いで操縦席に押さえつけられる。


二代目「マザーボード」から操縦室が打ち出されたんだ。


打ち出された操縦室は合わせて六つ。


俺の巡洋艦、大破した武装輸送艦二隻、そしてAIたちが操縦室から船本体に退避した無傷の武装輸送艦三隻からだ。


後者の空の操縦室三つは、囮として宇宙の闇へと消えていく。


『対衝撃っ!』


中身入りの三つの操縦室が、無傷の輸送艦に接続される。


操縦室から船本体に退避していたAIとその機体たちが、非常用のハッチから無事な操縦室へわらわらと入ってくる。


『死ぬかと思いました』


『司令、あざっす!』


相棒とは違うタイプの三頭身が軽い態度で挨拶してくる。


大事そうに抱えているのは、同僚のAIが入ったコンピュータだろう。


いや待て、まだ連続超短距離ワープ中だぞ?


こいつらには機体を提供したがアップグレードする金なんて……こいつらが前職で稼いだ金か?


「……挨拶は後だ。相棒は被害の確認を頼む。あんたたちは相棒の指示に従ってくれ」


『してる! 怪我人多数だけど全員無事!』


俺の口角が釣り上がる。


温存など考えず、AIが使ってもそこそこあたる高価なミサイルを人間の宇宙船パイロットである俺が連射する。


「ミサイルの大量使用は最高だな! コスパは最悪だが!」


十数の爆発が、健在な巡洋艦二隻と武装輸送艦六隻を宇宙の中に浮かび上がらせる。


高価なミサイルを一度で使い尽くせば、少なくとも俺にはこの程度簡単だ。


敵フリゲートによるデバフが消えたカノンのオートキャノンが、遠距離の敵艦との撃ち合いで一気に有利になった。


「ケースさん、ミサイルの方が得意だったのですか?」


ドローンはじっとりした目で俺を見てくる。


戦力拡充について力説した直後に敵に襲われ、その直後に俺のミサイル乱舞だ。


言いたいことは山ほどあるのだろう。


「宇宙船の武装は一通り使える。カノンの真似は無理だがな」


「まったく……」


ドローンが、とても大きなため息を吐いた。


そうしている間も敵の遠距離からの砲撃……オートキャノンで射出された質量弾に対空砲による小さな質量弾を浴びせ、放置すれば当たったはずの弾を半分以上無力化している。


「それじゃ次に行くか」


『えー』


俺たちの操縦室と別の武装輸送艦の操縦室を入れ替える。


一度射出して別の武装輸送艦が回収という危険すぎる行動だが、敵戦力の方が大きいのだから仕方がない。


『マスター! そんなに使わなくてもいいじゃん!』


「大破した船から高価な荷物は回収するんだから、ミサイルを減らして船倉を開けるしかないだろ。んふっ」


危険な距離まで近付いて一撃必殺のレーザーキャノンとは違って、圧倒的な手数で敵を追い詰め大火力で粉砕するミサイルたち。


次の船はミサイルに……いや駄目だ。


ミサイルを楽しむのは緊急時限定にしないとドローンやカノンに払う金もなくなる。


『健在な敵艦隊は残り一つ』


『撤退を始めたっすね。味方の操縦室が戦場に漂ってるのにひでー奴等っす』


『マスター! いっぱい回収、しよ?』


最後に相棒が可愛らしくおねだりしてきたが、今の相棒の瞳はマネーの色に光っているようにしか見えない。


それも非常に可愛らしいんだが、相棒ではなく俺に問題があるんだ。


「痛みがそろそろまずい。主観時間で一分間だけ回収作業をしてから、ワンオ氏の星系に向かえ」


俺は、ぶり返した骨折の痛みを我慢するのに精一杯になっていた。


  ☆


『うおおお!』


「うおおお!」


相棒と俺が荒ぶっている。


ついに、相棒が、八頭身の物理ボディを手に入れたのだ!


相棒の頭脳と愛嬌を見事に表現した、すらりとした体と麗しい顔。


腰まで伸びた緑の髪は、SF世界の技術の粋を集めた絹糸のようにも見える。


『ありがとうマスター! なんか予想より十倍は早く体が豪華になってるよ!』


「いいってことよ相棒。ここが遠いからな」


人間サイズの体に超高性能を詰め込むことになるから、性能を一割上げるために価格が十倍になる感じなんだよな。


しかしめでたい。


喜びの舞いを踊る相棒の周囲を、俺は車椅子のコントローラーを操りくるくると回っていた。


『『ケース様、メモリ様』』


女中姿の人型機械が、二人同時に完璧な作法で苦言を呈す。


『『お楽しみのところを申し訳ありません。戦力再建のための会議を始めて頂ければと思います』』


『……っす』


「ここまで待ってくれて感謝する」


相棒と俺は真面目な表情を取り繕い、宇宙港にある大型造船設備近くの会議室へ移動した。


  ☆


会議室で待っていたドローンがナニーたちに頷き、俺と相棒を一瞥する。


「このままパイロットを廃業するのかと思いましたよ」


『まだ目標の体になってないもん!』


「そうだぞ。相棒はどんな体でも相棒だが、最高の体を用意するのがマスターの甲斐性って奴だ」


『マスター!』


こほんと、カノンが咳払いする。


物理的とすら思える殺気を感じてしまい、俺と相棒は慌てて真面目な表情を作る。


「まず現状を確認しよう。船の修理状況はどうなっている」


「武装輸送艦六隻と僕の巡洋艦の修理は完了しました。姉さんの巡洋艦は、買い換えた方が安く付くと判断したため解体作業中です」


前回の航行で、俺の巡洋艦一隻と武装輸送艦二隻が失われている。


戦力としては半減以下だ。


「運び込んだ荷はどの程度で売れた?」


「武装輸送艦のAIは凄腕ですね。かなり値をつり上げてから売り抜けてました」


ドローンが紙に直接記入したのは、本当に凄まじい額だった。


全部使っていいなら相棒の目標の体が買える。


「ボーナスを出す必要があるな。しかしこいつは……」


「はい。小集団で所有するには大きすぎる額ですが、大戦力を構築するには心許ない額です」


悩む俺たちとは対照的に楽しげな相棒は、護衛として参加したAI搭載人型機械たちに新しい体を自慢している。


「そこそこ安く組めて金稼ぎにも使える艦隊か」


俺は、アダム・オンラインの頃の記憶を思い出そうとする。


基本的に少人数対少人数のPvPばかりやっていた俺だが、大規模PvP関連の知識も一応は持っている。


ただ、大規模PvPは下っ端として経験したことしかないんだよな。


「案があれば出してください」


ドローンは真剣だ。


「ここで船を下りてもいいと思うぞ。ドローンもカノンも、平均寿命の倍くらいまでならライセンス更新料を払えるだろ」


俺が別の道を提案すると、ドローンは冷静な態度のまま首を左右に振った。


「いえ、パイロットの人権も軽視されていますが、それ以外がまともとも思えません」


「わたくしもドローンと同意見です」


『『我々は常に弟様とカノン様と共にあります』』


覚悟は決まっているか。


俺は、アダム・オンラインの知識をもとに、いくつかの案を提案する。


三人の人間と八十三人のAIがあらゆる検討を行い一つの案が採用されるまで、数日の時間が必要だった。

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― 新着の感想 ―
EVEもこれくらいにぎやかしてくれるAIとかの相棒がいてくれたらもっと面白いのにな。 数字と文字と記号眺めるだけで何年もはさすがに飽きるし理不尽なPVPに巻き込まれるのも辛い。
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