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賞金首と機械の体

「ふざけるな!」


ドローンが荒れている。


まるで恋人を心配するような剣幕だな。


「随分と安く見られたものですわね」


そのカノンは不満そうだ。


侵攻してきた勢力からかけられた賞金額を勲章とでも思っているのかもしれない。


『今回稼いだ額の十分の一だね!』


それでもとんでもない額だ。


この星系で宇宙船パイロットをしている奴が、徒党を組んでカノンの命を狙いかねない。


「ドローン落ち着け。宇宙港にいる間は安全……」


ごく自然に断言しようとして、酷い違和感に襲われる。


この世界はアダム・オンラインに近い。


近いだけで違いはある。


アダム・オンラインだったらPvEが原因で賞金をかけられるなど有り得なかった。


「宇宙港にいる間も防衛戦力を用意すべきだ。相棒、雇える戦力の候補を挙げてくれ」


『システム上は、宇宙港内での戦闘は禁止されてるよ?』


万一宇宙港内部で襲撃が発生すれば、星系を統治する国家がメンツをかけて襲撃者とその背後の連中を殺し尽くす。


だから安全とは、俺は思わない。


後先考えずに行動する奴はいつの時代も存在する。


カノンの首にかかった賞金は、そんな奴らを惹きつけるだけの魅力がある。


「相棒の立場上そう言わないといけないんだろうが、案を頼むよ」


『はーい! でも、もし本当に襲撃があるなら力不足な人たちしかいないよ』


俺に近いディスプレイに複数の護衛プランが表示される。


かなりいい値段がするが、襲撃者が宇宙船用の兵器まで使えば不安が残る戦力しかないようだ。


「ケースさん!」


ドローンが苛立つ。


「待たせて悪い。だがこっちが最優先だ」


武装輸送艦に連絡をとる。


計算のためにエネルギーを要求されたので多めに割り振っておく。


「カノンの取り分についての相談は後回しにさせてくれ。先にカノンの警備についてだ」


武装輸送艦から「カノンの襲撃プラン」と「それを防ぐために必要な戦力」についての情報が送られてくる。


抑止って考えはないのか?


なるほど、「それを防ぐために必要な戦力」が最低限必要なのか。


「信用できる人間の数が問題ですか」


俺と情報を共有したドローンは、鋭い目つきになる。


「宇宙船パイロット以外とそれ以外の人間の民度は同じでしょうか」


「そっちのAIにも聞いてくれ。……駄目そうだな」


相棒も無言で首を左右に振っている。


「最後の手段と思ってたんだがな……」


俺は、本当にしぶしぶと、これまで何度も相棒から見せられている商品カタログを表示させる。


「あら可愛らしい」


「ケースさんに人形趣味が?」


「相棒を人形に分類するならその通りだがな。スタンドアローン……完全に独立して動ける機械の身体をAIに動かしてもらうことを考えている」


人間の警備より桁違いに高価だが、契約を守ると一点に関しては桁外れにマシなはずだ。


『いいなあ。僕もまだこの体を使ってるのに』


三頭身の相棒が不満を顕にする。


「相棒も守られる側だ。カノンだけが狙われるって訳じゃないだろうしな」


「AIは信用しますが、人の形だと戦力的に非効率じゃないですか?」


ドローンの指摘はもっともだ。


『人型ボディじゃないと入れない区画が多いの』


「そんな事情が……」


相棒も俺もドローンも深刻な表情で話し合っている。


なのに、カノンは上機嫌なのを隠さず、複数のカタログから様々な人形機械をピックアップしている。


「ケースさん、今回のわたくしの報酬はいつ頃の支払いになりますか」


「一パーセント分は今払う。それ以上は警備計画がまとめまってからの交渉後に……えっ」


カノンの奴、人型機械の中でもかなり高い奴を購入しやがった。


相棒が目標にしている体よりは安いが、相棒の今の身体とは比較にならないほど高価だ。


『ああーっ!!』


相棒が動揺している。


ドローンは納得した表情になって……ドローンも人型機械を購入した。


俺は相棒を宥めるのに忙しくなって、この日、これ以上の話し合いはできなくなった。


  ☆


『『この姿では初めてお目にかかります』』


和風メイドというより女中の姿をした人型機械が、高度な訓練を施された人間にしか思えない所作で礼をする。


『『これより物理的にも弟様とカノン様の護衛をさせていただきます。ナニーとお呼びください』』


「ケースだ。よろしくナニー。……ナニーってなんて意味だ?」


『古代英語で「乳母」って意味、だと思うな』


「ベビーシッターと家庭教師の兼任ですね。ナニーにはこれまで通りの仕事に加えて護衛もしてもらいます」


ナニーの一人を背後に控えさせたカノンは、いつも以上にお嬢様に見える。


「二人ともナニーと呼べば……っと、ひょっとしてAI一人で二体を動かしているのか?」


「僕と姉さんのAI、それぞれ専用の機体ですよ」


相棒いわく、AIとマスターの関係に口を挟むのは野暮、だったか。


これに関しては深入りしないでおこう。


『いいなー! 機体の強度と動力が滅茶苦茶いいやつじゃん!』


どのオプションを選んだのかは分からないが、安い巡洋艦一隻分の金はかかっているはずだ。


思い切りがいい姉弟だな。


「つまり俺も護衛を用意する必要があるってことか」


『はい!』


相棒が元気に挙手をする。


「相棒の体の買い替えはするが、俺は相棒を護衛にするつもりはないぞ」


『護衛に使うお金も全部僕の体に使ってよ!』


『『メモリ様。マスターの希望を叶えるのもAIの甲斐性ではないでしょうか』』


『ぐぬぬ。物理的にいい体してるからって余裕ぶって……』


「歓談中すまない。ナニーたちの戦力を教えてもらっていいか」


『『我々のマスターにお尋ねください』』


態度は穏やかだが明確に拒絶された。


俺は、カノンとドローンへ視線を向ける。


カノンはとても満足そうで、ドローンは特に何も思っていないようだ。


「常識的な戦力なら撃退可能です。相手が巡洋艦まで持ち出してきたら諦めるしかないですけど」


俺の予想以上に強いらしい。


「承知した。カノンの報酬だが、ドローンと同じ、パイロットライセンスの更新料と「儲かったときの利益の三パーセント」に変更する。変更は前回の戦闘に遡って適用する」


「ありがとうございます。ですが、わたくしはドローンほどの経営能力はありません」


「戦闘技術に対する評価と思ってくれ」


『支払いしたよ!』


『『送金を確認しました』』


カノンは静かに頭を下げた。


「では、次の仕事についての話だ」


『マスター! 僕の! 体!』


相棒が俺の袖を引きながら上目遣いで見てくる。


俺が動揺するから仕事中はやめて欲しい。


「相棒の体選びについても影響する話だ。これからの仕事はこの星系以外が中心になる」


防衛戦は肝心の敵が撤退したので次の機会がいつになるか分からない。


また、俺たちの採掘作戦に参加した「日本人」が採掘作戦を真似して採掘を始めている。


もう一度採掘作戦をしても前回ほどは稼げないだろう。


「戦力の拡充ですか?」


ドローンは、相棒から地図を見せてもらいながらドローンなりの計画を立てているようだ。


「その一環だな。AIをハックされた時点で終わりだから、武装輸送艦の連中にもスタンドアローン可能な体を用意していきたい」


相棒の力が強くなった。


ドローンが、相棒の反応を気にしながら意見を出す。


「人型機械を用意する必要がありますか? 艦載装備としてコンピュータを用意すれば良いと思いますが」


「それだと載せ替えが不安でな」


バックドアを仕込まれる可能性は常にある。


「武装輸送艦が大破して操縦室で逃げるときも、三十人いたら人間サイズじゃないと全員乗らないだろう?」


『マスター、AI好きだよね』


相棒の声に過去最高クラスの情念を感じる。


「相棒もAIだから多少はな。次に各船の装備更新だ。決めるのは各パイロットだが、艦隊を組むなら完全に好き勝手に決めるのは非効率だからな」


話し合いは、予想以上に時間がかかった。


「よし、じゃあまずは相棒の新しい体を買いに行くか!」


『マスター!!』


感極まった相棒が抱きついてきて、俺は何本か骨折した。


  ☆


武装輸送艦が隊列を組んで進んでいる。


通常のフリゲートなら軽々粉砕できるミサイルを積んでいるとはいえ、どの船も操縦しているのはAIだ。


PvPという襲撃に慣れた八隻のフリゲートが、護衛である巡洋艦三隻を迂回し武装輸送艦二隻に襲いかかる。


二隻がワープを妨害し、二隻がECMでロックオンを妨げ、残る四隻で武装輸送艦を沈めれば、護衛の巡洋艦は「武装輸送艦が運んでいた荷物」を運ぶ手段を失う。


巡洋艦が去った後に回収すれば大儲けとでも思っていたのだろう。


きゅらきゅらと、戦車っぽい下半身で楽しげにその場で回転しながら、相棒が上機嫌に叫ぶ。


『敵艦の位置予測を完了! いっけー!』


二隻の武装輸送艦から一斉にミサイルが発射された。


人間の宇宙船パイロットと比べれば下手で、しかしAIのみ操縦しているとは思えない確率でミサイルの爆発が敵フリゲートを捉える。


『二隻中破だよ!』


三頭身の下半身から戦車っぽい下半身に替えて増えた容量を、高性能な演算装置と記憶領域の増設に使っている。


その結果が、連続超短距離ワープ中でも流暢に喋ってある程度なら戦闘に参加可能な今の相棒だ。


「これで逃げ散ってくれたら楽なんだがな」


俺は完全にチャージを終えたレーザーキャノンを使う。


敵フリゲートを貫いた閃光は、以前のそれと比べれば弱い。


レーザーキャノンを小型のものに換装したからだ。


空いた空間には、相棒が他艦を支援するための装備を詰め込んでいる。


『大破! 中破のは逃亡! 残りはたぶんワープ妨害艦! ……あっ。敵増援接近中』


「戦艦三隻とは大盤振る舞いだな」


相棒と武装輸送艦のAIたちが協力して放ったミサイルの大群が明後日の方向へ飛んでいく。


『うわーん、当たらなーい!』


AIらしくない操縦ができるようになったとはいえ、平均的な人間パイロットには劣る。


一度警戒された後はなかなか当たらないようだ。


オートキャノンにとっては近すぎる距離で放たれた砲弾が無傷の敵フリゲートを一撃で破壊する。


逃げようとした残り二隻の敵フリゲートが、進路上に待ち構えていた攻撃ドローンに攻撃されて中破と大破に追い込まれる。


「このまま次の星系へ向かう。遅れるなよ」


三隻の巡洋艦と二隻の武装輸送艦で構成される艦隊が、治安の低い星域を突破した。

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