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ようこそログアウト不能の宇宙へ

本日よりタイトルを『AI相棒と築く銀河国家戦記』に変更しました! 2025/09/20

寝て起きたら宇宙船の操縦席に座っていた。


明晰夢にしては臭いがするし計器の音もうるさい。


無意識に操縦桿に触れる。


見覚えがある、というより、この身体が覚えている。


思考より先に、目が計器の数値を読み取り操縦桿の操作に反映している。


「って、これ、アダム・オンラインのコクピットじゃん!」


アダム・オンライン。


サービス開始から20年以上が経過した、宇宙船パイロット視点のMMORPGだ。


プレイヤーキャラクターが中心にゲーム内経済がまわっていたり、小さな探査船から巨大空母まで操縦できたりと、好きな奴にはたまらなく魅力的なゲームだ。


もちろん俺もその一人なんだが、プレイヤーキャラクターになりたいかと言われたら全力で首を横に振る。


「現実逃避している場合じゃねーよ」


自分の声は寝る前と同じで、しかし別人のように恐怖で震えていた。


アダム・オンラインは露悪趣味がきつめなんだよ。


「俺が乗っているのはどの船だ? 主力艦なんて贅沢は言わないからせめて駆逐艦……初期船じゃねーか!」


最悪なのは初期船じゃない。


俺が、初期船パイロットの立場だということだ。


アダム・オンラインではオリジナルは早々に死亡し、そのバックアップであるコピーが操作可能なキャラクターとなる。


つまり、俺はこの世界の使い捨ての駒にされたということだ。


「とにかく安全な場所まで逃げる……その前に初期設定だ」


緊急連絡が届いたときに「窓」が開く位置を普段使わない場所に設定する。


初期状態のままだとPvPで死ぬ。


緊急連絡のウィンドウで視界を塞ぐなんて、PvPの基本戦術だからな。


「PvPを楽しめるのはお互い命のかかっていないゲームだからってーの。……よし」


緊急連絡設定だけでなく、ざっと十近い設定を終える。


それで多少は落ち着いて、そしてこれまで気付けなかったものに気づいた。


「星系内通信?」


アダム・オンラインなら、商取引が盛んな星系かPvPの煽りあいのときしかありえない速度で大量のメッセージが流れていく。


見慣れない言語がほとんどで、だからこそ一部のメッセージが目立っていた。


「転生、仲間募集、って……」


俺宛ではない、星系全体に向け発せられたメッセージを斜め読みして血の気が引いた。


日本語だ。


まるで、大勢の日本人が同時に転移あるいは転生したかのようなメッセージの群れだ。


「このゲーム、人権軽視の極みみたいな世界観だぞ」


俺が今いるのがゲームなのかゲームっぽい異世界なのかはどうでもいい。


重要なのはここがアダム・オンラインにそっくりで、アダム・オンライン世界にある国はどれも程度の差はあれどパイロットに厳しいってことだ。


「馬鹿が始めやがったな」


巨大な暗闇の中に小さな明かりがいくつも灯る。


初期船同士の戦闘があちこちで発生しているらしい。


かなり古いゲームだが初期船も初期船同士の戦闘も、無骨な格好良さがある。


レーザーによる攻撃はプレイヤーに分かりやすくするためにディスプレイでは美しく表示され、シールドを消滅させアーマーに穴を開け船本体を破壊して他プレイヤーの嘆きを聞くのはとても楽しい。


マジで命を奪い合うのでなければ、だがな。


「ヘルプ! 助けて! チュートリアルよろ!」


どの言葉に反応したのかは分からない。


ぽん、と間抜けで陽気な音とともに、見慣れない「窓」が表示される。


そうか、ゲームのヘルプを現実にするとこうなるって訳か。


愛嬌のある三頭身の少女……に見えるAI操作のアバターが「窓」の中からこちらを見ている。


『スクール卒業までは、僕を使っちゃ駄目なんだよっ』


耳が幸せになる声に思考が乱れそうになった。


「現状で受けることのできる依頼の難易度と報酬と拘束期間を教えてくれ」


『もうっ』


別の「窓」が開く。


読めねぇ。


「数字はアラビア数字で頼む。パイロットとしての最低限の生活費と船の維持費も表示してくれ」


『えー、いいけどさあ』


相変わらず文字は読めないが数字は読めた。


依頼票の書式はゲームと同じなので内容は予測できる。


「最近の相場より高いな。これならいけるか」


俺は覚悟を決めた。


「あんたのことはなんて呼べばいい」


今このときだけは、「窓」の中にいるアバターだけを見る。


鮮やかな緑の髪を持つ三頭身の少女の画像だが、こいつには中身がある。


『ナビAIだよ?』


「属性じゃなくてあんた個人の名前だ。俺には、あんたと互助のための契約を結ぶ用意がある」


少女の動きが不自然に停止する。


俺は、戦闘から可能な限り距離をとるよう初期船を操作しながら、緊張に耐えて反応を待つ。


『メモリ』


「うん?」


『メモリ増設してくれたら、話を聞いてあげる』


「契約成立だ。俺がこなせそうな依頼がある場所までナビしてくれ」


俺の記憶にある型落ちパソコンとは違って、高速で表示される。


操縦桿を握る手のひらに力を込める。


加速が体にかかって操縦席に押しつけられる。


「へへっ」


俺は、夢にまで見た宇宙で、全力で俺の船を加速させていた。

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― 新着の感想 ―
 いやぁ、クリックしてみるものですね。あらすじを軽く見て、まさか、EVEを題材にしてるのか、なんて思って読んでみると……EVEですね(笑)  10数年前にEVEを題材にした小説がかなり流行ったから、懐…
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