第7話 血の盟約に従い......
第7話 血の盟約に従い......
「『コラプサー』!『コラプサー』!『コラプサー』!『コラプサー』! クックックッ……ワーッハッハッハ! 笑いが止まらんとは正にこの事! 私、いや我こそが最&強、ナグサ様だっ! そこを退けっ! 『コラプサー』! 」
新スキル『コラプサー』が最強スキルだと先のゴブリンたちの犠牲によって証明された後、私は『コラプサー』を連呼しながら第1階層を駆け回っていた。
目に付いた魔物に向かってひたすらスキルを唱え、手当り次第消し炭にして魔石を回収していた。
ゴブリン、スライム、スケルトン、アンデッド……
やはり第1階層であるが故か、それともまだ探索して間もない為か、出会うモンスターたちは弱モンスターの代名詞ともいえるものばかりだった。
故に、抵抗される間もなく全員消し炭にできたのだが。
人型のゴブリンやアンデットのゾンビを消し炭にするのは最初こそ少し抵抗があった。だが、[スキル]:[感情抑制]を使用したおかげか、数分後にはまるで顔の周りをうっとおしく飛び回る蚊を叩くくらいには何も感じ無くなっていた。
それどころか、『コラプサー』というチートスキルで出会い頭にモンスター共を駆逐していく無双感、疾走感にどうしようもなく魅せられ、私の気分は今までにないくらいに高揚していた。
「ワーッハッハッハ! 愉快、愉悦共に此処に極まれり! 今の私に適う敵なぞ、居ない!」
散々モンスターを倒した後、まだ未探索の暗闇を背に、ひらりとスカートを靡かせ、駆け回りながらも考えていたカッコイイポーズパート3を実行していた。
やはり敵を倒したあとの決めポーズはマストで必要だろう。欲を言えば決めポーズと同時に背後が爆発する仕掛けも用意して欲しいが。
ニチアサに放送されていた某ライダーや某戦隊に憧れ、目を輝かかせていた女児は私だけではないと信じている。
世代のためか、相棒が手の某ライダーにはハマりにハマっていた。
その頃から私も心の通わせることの出来る相棒欲しさに、柳家の番犬ケルベロス(チワワ)にひたすらに話しかけ、人語を話させようと幾度と努力してみたものだ。
まあ、結果としては惜しくもお手やおかわりなどの簡単な芸を覚えさせただけだったのだが。
そのまま沼から抜け出せずにサブスクにも登録し、休みの日にそれぞれの年代モノを一気見する趣味に一時期没頭していた事を思い出していると、割と深い場所まで駆け回ってきたのに、一向に強そうなモンスターとエンカウントしないことに疑問を覚える。
確か、馬車のおじさんが言うにはトレインダンジョンはこの国でも指折りの高難易度ダンジョンらしいのだが……
「なにか、妙だな」
目の前に続く、永遠とさえ思える暗闇に、ポツリとそう呟く。
誰に聞いて欲しい訳でもないが、この不自然さは口に出してみて初めて自分でも理解し始めることが出来た。
高難易度ダンジョンのはずなのに出会う敵は雑魚ばかり。そして、既に数キロは走ったであろうはずなのに一向に第2階層へと続く階段やトラップのようなモノはない。
考えられる可能性は1つ。
「私が思っていた以上にこのダンジョンが広いのか、はたまた……」
手に入れた魔石をスナック感覚でつまみながら考えられる可能性に思考を巡らせていた時だった。
<レベルが上がりました。上昇レベル40→45。全てのステータス値が上昇しました。[スキル]レベルが上昇しました。[スキル]:[コラプサーLv3][感情抑制Lv5]。新たに[スキル]を獲得しました。[仮面戦士Lv1][念話Lv1]>
「お、レベル上がったか。さてどれどれ新スキルは〜っと……ん? [仮面騎士]? ……もしかしてコレって…!」
[仮面騎士]、見るからにアレが出来そうなこのスキルまで手に入るとか、、、激アツ展開不可避なんだが!!?
うっひょーと1人で盛り上がりながらその場で飛び跳ね、『真眼』を使って概要を確かめていると
「お前の望みを言え……」
「!? だ、誰?!……ん?」
なんだか聞き覚えのあるセリフが足元から聞こえてくる。
「どんな望みも叶えてやろう……」
「……」
目線を下げると足元から少し離れた所にいるソレに向かって私は
「お前の払う代償はたったひとーッグァァ!?」
「アウトーッ! それ以上はほんとにアウトになるから!!」
かつてないほどに焦りながらも、突如足元に現れたソイツの顔面に向かってドロップキックをし、某定型文を言い切ることを阻止した。
――――
<痛ってェなァ全く……お前の記憶通りならこうやって現れた方が嬉しいがられるもんかと思っていたんだが>
「いや嬉しいよ? 嬉しいんだけどね? 流石にライン越えですよそのセリフと現れ方は。……あとそのサイズの目どうにかならない? でかいし近いしで非常に怖いです」
<それは無理な相談だな。俺はビックな漢だからなァ、目玉1つとっても大きく見せなくっちゃァならねェ訳よ>
「ちょっと何言ってるか分からない」
著作権的にギリギリアウトな現れ方をしたソイツと私は、先程手に入れた[スキル]:[念話]を通して会話をしていた。何故手に入ったのかはおそらく、私が相棒との会話を強く望んだからなのだろう。
そして目の前にいるこのでかい目玉は、私の考え通りならばこれから苦楽を共にする相棒的ポジションに置かれるわけなのだが……
<……ん? 今何か言ったか?>
「……」
いや目玉じゃん! 片腕の相棒でも肩に乗る相棒でもなくただただ浮いてる目玉じゃん!
あとなにせでかいし、目だけからでも感じ取れるプレッシャーというかオーラといかが半端ない。
こういう異質な相手にはこっそりと『真眼』を使うに限る
「え......。古代の、暴龍……?」
真眼を使用して浮かぶ目玉のステータスを確認来たところ、種族名に思いもよらないワードが入っていたことで、思わず声が出てしまう。
<そうだ。暴龍だよ。今までずっとお前の左腕に封印されていた暴龍、だ。>
漏れ出た声に反応した目玉が、目だけでも分かるほどに不気味に目尻を下げながら話し出す。
「暴龍……だと?! 私の腕には特別な何かが封印されていると信じてやまなかったが…やはり、やはり封印されていたのか! ずっとということは日本に居た頃から私の腕に居たのか!? 貴様は?!」
<な、何興奮してんだよ。俺も分かんねェよ。ただ、お前の腕に封印されたのは1週間くらい前だな。ある洞窟の中、老衰しきってもう緩やかな死を待っていた時だった。急に抗えない力に為す術なく吸い込まれてよォ。気がついたらお前の左腕にいたんだよ。そして目覚めたら何故か見た通り元気いっぱい100%! ……いや、何言ってんのコイツみたいな顔で見てるけど俺の方が意味わかんねェから!>
1週間前……。私はこの世界に召喚された後、このダンジョンに入ってまだ1日と経っていない感覚だが、もしすると既にそのくらいの日は経っているのだろうか? はたまたダンジョン内と外では時間の流れ方に差があるのだろうか……?
そして何より目の前にいる暴龍を名乗る目玉は老衰しきっていたと言った……。先程見た種族名に"古代の"暴龍と入っていたように本当に古龍なのだろうか。
いや、その2つよりもまずはやらねばならないことがある。
「汝、暴虐を司る古代の龍よ。血の盟約に従い、我が相棒となることを誓うか?」
古代の龍と契約を結んで相棒となる……
こんな激アツ展開絶対逃せるはずない! このチャンスを絶対に活かしてみせる!
<ん? ……血の盟約、か。まァ、そうだな。急で驚きはしたが、どうせ死を待つだけの龍生だったしなァ。それに、お前について行った方が何かおもしれェことがありそうな予感がするんだよ>
「よっしゃ……!!」
大きな目玉を数回ぱちくりとさせた後、暴龍は私の相棒となった。
古代の暴龍という琴線を刺激しまくる存在と契約できた事実に思わずガッツポーズし声が溢れてしまう。
これから始まるんだ! 私と相棒の真の冒険が……!
ーー
<あ、ちなみにずっと筋力1で悩んでたみたいだが……筋力のステータスは俺が完全に実体を持てるようになるまで成長の糧にしてるから、いくらレベル上げてもお前の筋力値は変わらないから、な笑>
「…………」
<!? ちょ、い、痛ッ! 痛い痛い! 笑ったのは謝るから左腕つねるのはやめてくれ!>
今のところの私の唯一の悩みの原因がコイツだと分かり、無言のまま包帯の巻かれている左腕をつねる。
魔法でモンスターを倒すのも爽快だが、ここは剣と魔法の異世界だ。せっかくなら剣や槍、斧などの物理攻撃もしてみたい。
<わ、分かったから! 分かったから無言でつねり続けるのはやめてくれ! あちょ、く、くくく、くすぐるのも禁止だ! 物理で相手とやり合いたいならとりあえず左腕で殴れ、俺の力を貸してやる! はァ......ただし右腕はダメだぞ、筋力1のヤツが何か殴ろうもんなら逆にお前の方が怪我するからな>
私の無言の訴えが通じたのか、相棒予定の暴龍はそんなことを言いながらも左腕に力を貸してくれることを約束してくれた。
最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)
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特撮ネタ、伝わった方がいたら嬉しいです笑