第4話 高難易度ダンジョンへれっつごー!
第4話 高難易度ダンジョンへれっつごー!
ジオからいくつかの物資を恐喝することに成功した後に私は、案の定、ジオが王女に報告に行った直後から問答無用で馬車に乗せられてしまっていた。
物資を分けてもらった後、ジオは涙目になりながら王女の元へと駆けて行った気がしたが、多分私のことでは無いだろう。
もし私のことで泣いていたとしても次会った時に謝ればいいことだ。
ジオ改め、親切にしてくれた異世界人1号とのやりとりを思い出しつつ、揺れる荷台から若干見える、御者とのやり取りができるであろう小窓に向かい声をかける。
「あの〜、すみませ〜ん。この馬車どこに向かってるんですか〜?」
「..........」
わざとらしく尋ねてみるも、馬車の御者は何も答えてくれない。
まぁ行先は分かっているが、変に疑われないように演技するのも大事だ。
どれくらい馬車に揺られただろうか。
小窓から光が覗いていないため、時刻はとっくに夜になっていると思ってよさそうだ。
そろそろ腰が痛くなってきたところで、馬車が停止する。
強引に開けられた荷台のドアから、おそらく御者の者であろう強面のおじさんが顔を出す。
「くっくっく.....ようやく着いたか。"トレインダンジョン"へと......ーーッ痛!」
かっこいいかと思って荷台の中で勢いよく立ち上がると、思いのほか天井が低く、そのままの勢いで頭をぶつけてしまう。
こぶができた頭を思わず撫でていると、御者のおじさんは驚いたような顔で私を見つめて来、
「お、おい大丈夫か......? それよりお前、異世界人のくせに何故トレインダンジョンという名を知っている?」
私の頭を痛そうな顔で見つめてくるおじさんに向かい直り、声を整え質問に答える
「......ご、ごほん。わ、我が魔眼にかかれば、お前のような一般人の考えを読み取ることなど容易であるのだ。それより、このダンジョンについて少し聞きたいのだが」
「お前、異世界人のくせにまさか魔族の、それも上位の魔族しか持っていないとされる"魔眼"持ちだったのか? ......それが本当なら、レイード王国にとってとてつもない戦力になっただろうが、残念だな。《ユニークスキル》に不吉な名称さえ含まれてなければなぁ......」
「............」
このダンジョンにくることが分かっていたのは予めはジオから聞いていたためだったのたが、適当にかっこよさそな魔眼の能力のおかげにしたらすっかり信じられてしまった。
御者のおじさんは見た目に反して心はピュアなのかもしれない
「お前、トレインダンジョンについて聞きたいんだったな。いいだろう、自分の死に場所くらい分かっていなくちゃ死んでも死にきれないしな」
おじさんは咳払いをし声を整えると、先程までより少し低めの声で語り出す
「トレインダンジョンはな、この国の中でも3本の指に入るほど攻略難易度が高ぇダンジョンなんだ。その難しさといったらSランク冒険者でさえパーティを組んでやっと攻略できるほどでなぁ。いくら魔眼持ちといってもお前みたいな女1人が投げ出されれば、第1階層でお陀仏なのは間違いないだろうな。ガハハハハ!」
私がお釈迦になるのがそんなにおかしいことなのか、おじさんは大きな声で笑い出す
情報をくれるって言うからいい人かと思ったのに、残念だ。
まぁ、この世界の中でも攻略難易度がとびきり高いことが分かっただけ良しとするか。
荷台から降り、長時間座っていた事で制服のスカートがしわになっていかを確認し、埃をはたく
「そうか、大体の情報は分かった。感謝する」
おじさんに軽く頭を下げると私は自らの足でトレインダンジョンの入口へと近づく。
「お、おいお前......怖くないねェのか?ここまで連れて来た俺が言うのもなんだが、この中に入ったら確実に死ぬぞ」
入口から中を覗き込み、入口周辺に危険そうなモンスターが居ないことを確認していると、御者のおじさんに肩を掴まれ、問いかけられる。
「......怖い? すまないが、私にはその感情は分からない。とうの昔、この魔眼と引き換えに感情を失ってしまったものでな」
そう、私は魔眼と引き換えに全ての感情を失った.......という設定は今思いついた。
さっき魔眼がどうこうという話があったし、即興にしては中々カッコイイ設定が作れたのではないだろうか。
魔眼と引き換えに感情を失ってしまった謎の美少女.......というキャラクターはけっこうカッコイイと思う。
おじさんに信じ込ませるため、少し物憂げな表情を浮かべ空を見上げる。
やはり異世界、星空がすごくはっきり見えてとても綺麗だ。
その綺麗な星空は、毎晩ハンモックに寝転がり空を見上げていた私にとっても初めて見るほどの美しさで。
「この世界の星は、とても綺麗なんだな......」
ぽつりとそう呟くと、おじさんは何を勘違いしたのか、先程までの笑っていた表情とは一変、同情する視線を向けてくる
「お前、若いのに苦労してきたんだな.....。まさか魔眼と引き換えに感情を差し出したなんて.......しかもその口ぶりからして、"星の子"らとの取引だったらしいなぁ、可哀想に」
見ると、おじさんは目の端に少し涙を浮かべているように見える。
悪い人かと思っていたが、やっぱり根っこはピュアなやつなんだな。
"星の子"とかいう言葉の意味は全く分からないが、私の感性を刺激してくるほどかっこいいワードだ。今度誰かに言ってみよう。
「生まれ変わったら、今度は"不吉な《ユニークスキル》持ち"じゃない、裕福な家庭に生まれることを陰ながら祈っておくよ。じゃあ、達者でなぁ」
背中を叩き、手を振ってくれる御者のおじさん改め私に親切にしてくれた異世界人2号と別れを告げた私は、ひたすらに広がる闇の中へと足を踏み入れたーー。
中に入った途端、石造りの壁に取り付けてある無数の宝石が輝き出す。
もし松明だったら一酸化炭素中毒で即死してしまうだろうぐらいの量の宝石が水色に輝いているおかげで、視界は十分に確保される。
「この宝石も魔石なのかな......」
壁に取り付けてある輝く宝石の数々を見ていると、綺麗とかいう感想が出てくるよりも、魔石かどうかということしか気にならない。
王女曰く、モンスターを倒すか、魔石を取り込むかすればレベルが上がるということだったので、この壁一面に広がる宝石が全て魔石ならば是非にも回収しておきたいところだ。
だが......
「まぁ、魔石なら私がくるより前に全部回収されてるよねぇー」
そんな当たり前の事に気づかないほど私の頭は残念じゃない。
ステータスにもあったようにレベル1時点で知力が30ある 私は、城の中で聞こえてきたクラスメイト達の平均15前後よりも、倍近く頭がいいのだ。
その代わりに筋力が1なのがナンセンスなのだけど.......
どうやら偏ったぶんは他に分配されているらしく、私は人に比べ幸運値が非常に高い。
この幸運値を活かしてなにかできないものか......
「.....ん? あ、そういえばこれがあったな」
スカートのポケットの中に手を突っ込むと、ジオに貰った3つの魔石が指にあたる。
ポケットからそれらのうち1個を取り出し、改めて凝視してみる
「.......綺麗だ。うーん、水色に照らされし廊下の中でも存在を主張するように赤く輝く魔石は間違いない。ヴァンパイアの生き血からとられたモノだな」
やはり赤色から連想するのは誰でも同じ、ヴァンパイアの生き血であろう。あとは、まぁ、炎に身を包む霊鳥や炎の妖精イフリート辺りだろうか。
ひとしきり魔石を眺めた後、なんとなく口に入れてみる。
「…...!うえぇ、鉄の味がする…………」
"魔石"だと言うもんだからてっきり見た目的にもイチゴ味かリンゴ味を期待していたが、そんな都合のいい味になる訳もなく、ただただ鉄の味がした。
「…………あれっ。もうなくなった」
舌の上で転がすこと数分、見た目の大きさに反して魔石が溶け終わるのは嘘みたいに早かった。
「ーーッ!? な、なんだ!?」
魔石が私の体に吸収されると同時、全身から淡い光が溢れ出す。
溢れ出した光は数秒で収まり、その途端、脳内に直接声が響く。その声は機械的で、冷徹そうな女の声だ。
<レベルが上がりました。上昇レベル1→20。全てのステータス値が上昇しました。新たに[スキル]を獲得しました。[スキル]:[鑑定][魔眼][感情抑制][悪魔族耐性]を獲得しました。新たに【称号】を獲得しました。獲得【称号】:【悪魔族キラー】>
「痛い痛い痛い! 脳みそがんがんする! なに、コレ!?」
脳内に響く声は、ありえないほど大きく、私の脳みそを直接揺らす。脳内に響くため耳を塞ごうがお構い無しに声が響いてくる。
絶対音量ミスってるだろ、これ。
心の中で文句をたれつつも、その音声案内が終わったことを手を耳から離しながら恐る恐る確認すると、再びダンジョン内の静寂が私を包み込む。
少し遅れて私の叫び声が木霊しているのが聞こえる。少なくとも10秒は経っていたであろうことから、トレインダンジョンの第1階層は数キロはあると見て良いだろう。
「それよりも、さっきの声はなんだ? 確かレベルが上がりましたって…………まさか!」
慌てて自分のステータス画面を開き、見てみると
「な、なんじゃこれ……」
レベルは20に上がり、他にもさっきの音声で聞こえてきた新たな [スキル] や【称号】が私のステータス画面に所狭く並んでいた…………