第2話 『ステータス』
第2話 『ステータス』
「ようこそ皆さんいらっしゃいました、この世界随一の王国レイード王国を代表して歓迎いたしますわ」
光に包まれたと思った瞬間、地面をふみしめる足の感触が、木造特有の軋む音やあたたかさなどから、石造り特有の硬く、冷たい感触へと変わる。
「な、なんだ!? 何が起こったんだ!??」
「み、皆さん落ち着いてください、先生の言うことをきちんと聞いて.......」
どうやら転移させられたのは私だけではなかったらしく、見渡す限り限り先程までクラスにいた人間は全員転移させられたようだ。
口々に不安の声をあげるクラスメイトたちの声に耳を貸しながらも、私は一人、よさげな石柱を探し、そこへ腰掛ける。
異世界に召喚されて焦ったり、変に取り乱したりなどダサいことは私はしない。
常に脳内シュミレーションであらゆる状況に対応できるようにしている私にとって、異世界召喚など取るに足らない問題なのだ。
脳内での完璧なシュミレーションを自画自賛しながら、騒がしいクラスメイトに目をやると、その生徒たちはある一点を見つめていた
「ーーで、ーのため、皆さんをこの世界に召喚させて頂きました」
「ふざけんな、急に呼び出して何が魔王を倒せだ!」
「何これ、テレビの企画かなにかなの?」
「ふざけていません。てれび? などでもありません。私たちの世界をどうにか救っていただきたいのです。未来の英雄様方、どうか、お願いします」
どうやら私が話を聞いていない間にお約束通りのお話は終わらせていたらしい。
やはり異世界召喚といったら魔王討伐だ、あの胸元の露出多いいお姫様のような女性は大変わかっていらっしゃる。
私以外のクラスメイトたちはこの状況が未だ理解できていないらしく、王女と思われる女性の言うことなど耳を貸さず、ふざけんなだの、早く帰せだのを各々口にしている
「......異世界から来た方々なので、信じられないのも無理ないと思いますわ。なので、今からここが異世界であるという証拠をお見せしましょう。『ファイアー・ボール』!」
「.....まじか」
王女の唱えた『ファイアー・ボール』という言葉に呼応するように彼女の指先に小さな火の球が突然出現する。
その火の球は王女が指先を振りかざすと、私の寄りかかった石柱目掛けて飛んで来、貫通して小さな穴を開けた。
「ーーッ」
頭上からパラパラと落ちてくる破片から身を守るため咄嗟に左手を頭上に出し、防ぐ
「痛っ」
......?
私じゃない誰かが痛がる声を出すが、近くには私以外の生徒はいない。
「......気のせいか」
破片が小さかったおかげか、怪我を負うことはなかった。
「皆さん、これで信じてくれましたでしょうか? この世界にはあなた方の世界にはない、"魔法"があります。そして、今からあなた方の才能を見極めるために、ステータスを確認させて頂きます。皆さん、『ステータス』と唱えてみてください」
王女の魔法を実際に見て、流石に信じざるを得ないと感じたのか、クラスメイトたちは口々に『ステータス』と唱え始める。
今の今まで流れに乗っからず、孤高の存在感を醸し出していた私も、流石にこの定番イベントは逃せるはずもなく
乗るしかない! このビックウェーブに!
深く深呼吸し、高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、恐る恐る口にする
「『ステータス』.......ほわぁぁ.......すごいすごい! ほ、本当に目の前に出てきたよ!.......あ」
「「「......」」」
やってしまった! 目の前にでてきたステータス画面に興奮してはしゃいでしまったせいで、クールビューティでお馴染みのナグサさんのブランドイメージが崩れ落ちてしまう音がする!
いや単にコミュ障なだけで誰とも喋ってなかっただけとかではないけども。
柄にもなくはしゃいでしまったせいで周りのクラスメイトたちからの視線が痛い。
まぁ、生暖かい視線はもう慣れっこだ。今更恥ずかしがっても意味などない。
「ご、ごほんごほん。ええっと、私のステータス画面は.......っと」
クラスメイトや衛兵たちからの生暖かい視線を感じながらも、咳払いをして自分の宙に浮く自分のステータス画面へと目をやる。
そうするといつの間にかクラスメイトたちも各々のステータス画面へと視線を戻していた。
ステータスは異世界で生きていく上で最重要要素と言っても過言では無い。
平和な日本とは違い様々なモンスターが跋扈するこの過酷な世界で生き残れるかは、初期のステータス値によって左右されるだろう。
まぁ、私は選ばれし存在だから最初からレベルMAXぐらいのチートは神様から貰えるはずだし、大丈夫だろうが。
若干の期待と淡い希望を抱き、ステータス画面をよく見てみると.......
「どれどれ? 私のステータス値は.......筋力1、知力30、魔力10、幸運50.....うん? "筋力1"? 私、雑魚すぎない?」
うん、雑魚すぎた。
筋力1とか貧弱すぎてスライムの体当たりとかでもで死んでしまいそうだ。
「うおー、俺筋力50だった! お前は? 」
「俺42だぁー、負けた〜」
近くの男子たちの声を聞いてみても、やはり私の筋力のステータス値は、客観的に見てもクソ雑魚と認定されてしまうほどだろう。
知力と幸運が他よりも高いことが唯一の救いだが、あまり戦闘では役に立つことはないだろうし、その高い幸運値を少しは筋力に分けたかった.......
ステータス値の低さにがっかりしていると、相変わらず上から私たちを見下しているままの王女が再度口を開く
「皆さんステータス画面を見れたようですね。ステータス値が他の方より低い方もいるでしょう。でも安心してください、この世界にはレベルアップという概念がございます。モンスターを討伐したり、魔石を取り込んだりすることで自身のレベルアップを行い、ステータス値を強化することができます。レベルMAXまでいくと、だいたい皆さんが到達するステータス値は同じになるので、最初のステータス値はそこまで気にする必要はございません。なので、ステータス画面で1番重要なのは......」
良かった。あやうく全身鎧で身を包まないといけなくなるとこだった。
レベルMAXまでいけさえすれば、紙よりも薄いだろう私の防御力も、あの男子たちと同じくらいになれるだろう。
そう安心していたのも束の間、王女の言い放った一言に、騒がしかった空気が一瞬にして静まる
「1番重要なのは、各々が持っている《ユニークスキル》 です。 《ユニークスキル》 は、神によって個人個人へと与えられたとてもありがたいスキル。そして、そのスキルによって受けられる恩恵は、そのまま当人の存在価値へと変換されます。それほど重要なスキルなのです。さぁ、未来の英雄達よ。ステータス画面の右上を見て、自分の《ユニークスキル》 を確認してください!」
王女が高らかに声を上げると同時、周りにいた衛兵が一斉に動き出し、クラスメイト達の背後へと付く。
どうやらこの衛兵たちはクラスメイト一人一人に付き、《ユニークスキル》 とやらを確認する命令を受けたようだ。
私の後ろにも、至って普通の中世風の鎧を装着した衛兵が立っている。
生で、しかも超至近距離で見る銀色に輝く鎧に、ロマンを追い求める系女子の私が興奮を押えられるはずもなく
「......? おい、嬢ちゃん。そんなに鎧が気になるのか?」
「.....!!」
私に付いた衛兵の鎧をゼロ距離で観察しているのに流石に耐えられなくなったか、衛兵のおじさんが話しかけてくる。
私はその問いかけに返事はせず、首を一生懸命縦に振った。
私の必死の訴えに照れたのか、おじさんは頬をポリポリとさせながらも鎧観察の続行を許してくれた
「女の子なのに鎧に興味があるなんて珍しいな。嬢ちゃんにはもっとふりふりしたドレスとかが似合うと思うんだが」
「その考え、2025年を生きるJKにとってはとても古い考え方だぞ。私は可愛いものよりもカッコイイものに目を惹かれるのだ」
「そ、そうだな。じぇ、じぇーけえー......? とかいうのは分からんが、確かに俺の考え方は、嬢ちゃんたちにとっては少々堅苦しいものなのかもな」
がははと大きな声をあげ笑うおじさんのデカすぎる声に少しびっくりしながらも、装備している剣や甲冑に施されている装飾品へと目がいく
「鎧のおじさん、これはなんだ? 他の衛兵には付いていないようだが」
よく見てみると、おじさんには周りの衛兵には付いていない宝石の装飾が剣の鞘や甲冑の所々に施されている。
それらが放つ輝きは、数々の不思議な形の石を収集してきた私にとっても、とても魅力的に感じるもので。
「鎧のおじさん......。嬢ちゃん、俺の名前はジオだ。覚えといてくれよ。......ええっとそれで、この石の話だったよな? これは魔石と言ってな、装備品に装飾として付けることで色んな恩恵が受けられるんだ。......ってあ、コラ! 取ろうとするな! 」
へぇー、とおじさんの話を聞き流しながらも、魔石と聞いた途端私の中で価値が跳ね上がった魅惑の石をぶんどろうとすると、首根っこを掴まれて失敗する。
「......ちっ」
「え? 今舌打ちした? な、なんで? ......まったく、異世界人は大人しいって聞いてたのに嬢ちゃんは例外みたいだな......」
やれやれと首をすくめるジオは、鎧越しでもわかるほど雰囲気が柔らかい。
私が初対面でこんなに突っかかれるのは、異世界召喚で舞い上がっているのと、この柔らかい雰囲気もあってのことだろう。
当初の目的を忘れてそうなジオに一言
「で、私の《ユニークスキル》 の確認はしなくていいか?」
「あ、そうだ。嬢ちゃんにペース乱されて忘れてたが、その命令があったんだった。さぁ、嬢ちゃんの《ユニークスキル》 を確認させてくれ」
「分かった。どんなスキルが出ても騒ぎ立てるなよ」
「お、おう.......嬢ちゃんはなんでそんなに自信満々なんだ? 人生懸かってるんだから普通はもっと緊張したりするもんなんだが......そういえば、異世界人は特別な力を持っているとか聞いたことがあるな。もしかして、嬢ちゃん、あんた......」
私は包帯の巻かれた左手を掲げ、不敵な笑みを浮かべ唱える
「フッフッフッ......これが我が《ユニークスキル》! とくと見るがいい! 『ステータス』!」
大きな声で唱えられた私の呪文に呼応するかの如く、再度ステータス画面が私の前方に表示される。
そのまま、青く輝く画面の右上へと視線をやると......
「......は?」
「どれどれ......ーーッ!? おい、嬢ちゃんコレ......」
青く輝く画面の右上にひっそりと、だが名前の主張は激しく表示されている私の《ユニークスキル》は......
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柳 ナグサ 《ユニークスキル:中二病》
Lv. 1
筋力 1
知力 30
魔力 10
幸運 50
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《中二病》 だった......