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第14話 大蛇の森

第14話 大蛇(おおへび)の森



 <なァ、ナグサ。お前、人助けは時間の無駄だなんだとか言ってなかったか?>


「……これは人助けではない。私は借りを作るのが嫌いなんだ。この依頼をこなすことで貰ったワンピースの分の借りをチャラにしたいだけだ」


 <ふーん。まァ、そういうことにしといてやるよ……って、あ! ガハ、ガハハ! ちょ、くすぐるのはやめろ!>



 念話越しでもカリスのニマニマした表情が想像できて無性に腹が立ったので包帯を巻いている左腕をくすぐる。


 どうやらカリスは私の左半身の感覚を共有しているらしく、最初は石を左腕にぶつけられた事で目が覚めたんだとか。


 いつ私の左腕に石がぶつかったのかは分からないが、やれ左腕でモンスターを殴れだの、やれ舌の左半分を使って飯を食えだの要求が多すぎるしその要求の中には難し過ぎるのもある。


 最近はすっかりドラゴンと身体を共有することの大変さを身に染みて感じている。


 そんな私たちが歩いているのは国の外れにあるとある森の中。というのも、先日服屋のおばさんから個人的な依頼を受けたからだ。


 依頼内容は数年前から行方知らずの娘の捜索。正直、モンスター蔓延るこの世界で街娘が数年間生き残っているとは思えないが、それでもあのおばさんの辛そうな顔をこれ以上見たくない。どんな形になったとしても、娘とは再開させてあげたい。



 <ただの自己満足だな>


「……そうだな。これは単なる自己満足だ。……だが、やらない善よりやる偽善とはよく言ったものではないか?」


 <あァ? そんな言葉があるのか? ……まァ確かに、何だか腑に落ちる考え方かも知れねェな>



 私の内心はカリスには筒抜け……という訳では無いが、今の心境はおそらく誰もが見抜くことができるだろう。


 そう、これは単なる自己満足。だけれど世の中はほとんどの人間の自己満足によって回っている。結局のところ、皆一様に自分さえ良ければ良いのだ。それが他の人の利に繋がるのなら尚更。


 ――――

 森を歩き始めて数時間ほどが経った。道中に出会ったモンスターはゴブリン、スライム、スケルトン……等々。まだ探索地帯が浅いのか、雑魚モンスターばかりだ。



「なんの事前情報もなしに飛び込んできたが、この分では強敵と言えるモンスターは居なそうだな」


 <だが、いくらナグサにとっては雑魚敵でも一人の街娘にしたらかなりの脅威には違いねェな>


「……そうだな。モンスターから逃げる過程で奥の方へ行ってしまったのかもしれない。奥の方も探索してみるか」


 <そうだなァ! この森の奥なら強敵の気配がビンビンするぜェ! 娘なんかどうでもこの際どうでもいい! 早く行こうぜ!>



 円形になっているこの"大蛇(おおへび)の森"を数時間かけて浅い所だけぐるっと一周してみたが、人のいる気配はなかった。となると、あのおばさんの娘は森の奥の方、円の中心部へと向かってしまったという説が濃厚だ。


 カリスが言うには奥の方はおそらくこの森の名前ともなっている"大蛇"というモンスターが居る。名前の通りならソイツは単なる大きな蛇かもしれないが、あるいは……


 万一の最悪、いや最高の事態について思案を巡らしていると、カリスに念話で呼び止められる。



 <おい、ナグサ。分かるか?>


「ん? え、お、おう。わ、分かるぞ。これは……かなりの強敵のようだな。数はざっと……五匹ほど、か」


 <いや、数は一匹だけだ。しかし……様子が変だなァ。異常に興奮気味だぜェ。それにこっちに向かってきている。俺の存在に気づいていないのか……?まァアイツもやる気な事には違いねェ! さっさと走れ、ナグサ!>


「……いや、数は五、だ。それで合っている。しかし異常な個体、か。これはやりがいがありそうだな」



 勘で言った数は間違いだったらしい。一瞬五匹の影が見えたが、魔王になる器である私が間違えるはずも無いのでそこは強く否定しておこう。


 カリスが言うには私程度でも感じられるほどのプレッシャーがあるとの事だったが、私は特に何も感じなかった。まぁおそらく、その相手のプレッシャー以上の圧を私が放ってしまっているからなのだろう。


 

「ふん、雑魚敵に飽き飽きしてきた頃だ。丁度試したい新スキルもあることだし、いずれ伝説として語り継がれる私の歴史の一幕にしてくれるわ!」


 <その意気だいいぞナグサァ! あ、ちょっと小突いた後は俺のために残してくれてもいいんだぞ>



 先日服屋で新しく購入した黒のローブをはらりと(なび)かせ、意気揚々と森の奥へと駆け出す。今の私は黒装束で全身を覆いフードも被っているため、一見すると視界が悪い気もするが、[創造機械]によって創られた狐の面を付けているおかげで視界は良好この上ない。


 魔力を込めれば熱源探知機能で敵の位置は丸分かりだし、強めに魔力を込めると、なんと目からビームも発射できるのだ。他にも様々な便利機能が付いているが、それは後ほど紹介しよう。


 私の方向かってくる段々と大きくなる影を捉えながら、こちらからも接近する。最近はカリスの力が戻り始めた影響か、ほとんどの雑魚敵はエンカウントする前に逃げ出してしまうのだが、コイツは私の中にいるカリスの存在に気づいているのだろうか。


 そんな事を考える暇もなく、仮面越しでは捉えきれないほど大きくなった影は、ようやく私の存在に気づいたのか、急に移動をやめる。


 私はその影の正体を探ろうと、念の為に仮面をつけた状態で木々の間から正体を見る。



「……! やはりな。熱源探知でも大体の形と分かっていたが、フッ……しかし最高な事態がまさか本当に起こってしまうとはな」


 <なんだ、ナグサは気づいてなかったのかァ? この"メデューサ"によォ……>



 大蛇の森。その"大蛇"の名を冠する者の正体は、単に大きい蛇などという甘っちょろいものではなかった。大蛇の正体は私の身長をゆうに超えた、目測でも3mほどの巨体を持つメデューサだったのだ。


 

 <言っとくが、一筋縄ではいかないからなァ。あん時の悪魔みたいにしっぽ巻いて逃げるような真似にならないように注意するんだな>


「何言ってんだ。私もあの時よりは強くなった。文字通りしっぽ巻いて逃げる事になるのはアイツの方だ。……まぁ、そんな暇は与えないがな。……--ッ!」


「キシャァァァァァ!!」



 木の影に隠れひそひそと話していると、メデューサは私の位置に気づいたのか、体がデカイのクセに木々の間を器用にすり抜けて先程までとは比にならない速さで私の方へと向かってくる。


 

「キシャァァァッ!!」


「……っっぶない!」



 まるで針葉樹林のような高さを持つ木々の間を音も立てずに移動し、地上にいる私の頭を狙って大きく鋭利な爪を素早く的確に振りかざしてくるが、寸前の所で躱す。


 この場所はダメだ。この森がコイツのテリトリーである以上、地の利がアイツにあり過ぎている。


 それに、それに……!


 ちょっと大きめのローブを買ったせいで走っていると地味に引っかかってこけそうだ。



 <なァナグサ。走りにくいなら脱いだ方がいいと思うが……>


「それは無理な相談だ。正体不明の黒装束の少女。今後の私はこの方針で行くから……っとあぶないあぶない」


 <まじで何言ってんだコイツ>



 何故か呆れているようなため息を吐くカリスを疑問に思いながらも、目の前の相手に集中する。


 

「『真眼』!」


 ――――

 種族名:大蛇 Lv65

 ――――



 [真眼]によるとこのメデューサのレベルは65、森の中で一つだけレベルの上がった今の私と同レベルだ。これはいける。キースの時のような圧倒的レベル差もないし、何せあの時は完全に想定外の事態だった。


 森の名前を聞いた時点でこの事態を予測できていた私にとって、もはやメデューサなど敵では無い。対策も完璧だ。


 レベルも拮抗している今、私の試したいことに耐えれると思えるコイツのような好敵手は中々居ない。だからこそ、試さなければいけない"新魔法(ロマン砲)"がある!


 私が開けた場所へと出ると、メデューサは木々の間を縫うように移動し、私に向かって勢い良く飛び出してくる。森から開けた場所へと飛び出してきたメデューサへと向き直り、深く、呼吸をする。


 周りの空気が張り詰め始める。空気中の魔力が私の左腕へと集まってくるのが肌で感じ取れる。包帯は解かれ、左手の甲に刻まれた龍の紋章が(あらわ)になる。


 ここは地球とは"異"なる"世界"。私が焦がれてやまなかった、剣と魔法の世界。そんな場所でもし産まれ、生きることが出来ていたら。そう何度願っただろう。



「我は赤の先駆者(パイオニア)。我が求めるのは赤を塗り替えし(あか)。ひたすらに燃え上がる(あか)である」


 

 昔からずっと一人で練習していた言の葉(ことのは)を、ゆっくりと、だか確実に紡いでいく。その一つ一つに意味を持たせるように。


 

赫灼(かくしゃく)の導きに従い、彼の者を地獄の業火(ごうか)で焼き尽くせ!『ヘル・フレイム』!」

 


 幾度も願って、幾回も焦がれて止まなかった魔法を今、私の手自ら発動する時が来た――!

 


 

最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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