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第13話 私はB級冒険者ヤナギ・ナグサだ!

第13話 私はB級冒険者ヤナギ・ナグサだ!


 

「ヤナギ・ナグサ さんですね。はい、虚偽の情報などではないと確認が取れました。こちらが冒険者カードです、ランクはレベルを見るにB級冒険者からのスタートでも良さそうですね」


「うむ。確かに受けとった。感謝する」



 慣れた手つきで書類を書き、個人情報の登録された冒険者カードを手渡してくるのはギルドのお姉さんだ。


 いきなりB級冒険者という上から3番目の階級からのスタートということでもっとギルドが騒がしくなり私が崇め奉られることを期待していたのだが、別に珍しいことでは無いのか、はたまた誰も私に興味無いのか、特段騒がれることもなく静かに終わった。


 受付嬢と思われる眼前のお姉さんは丸ぶち眼鏡に髪型は2つのおさげにしていてあまり目立つ方の見た目ではないのだが、よくよく見てみると整った顔立ちをしている。


 街を通ってもすれ違う皆端正な顔立ちをしていたし、異世界人はみんな遺伝子ガチャ成功していて羨ましい限りだ。


 ちなみに良くも悪くも私のような黒髪黒目はこの中じゃ目立ってしまうので取調室同様に狐の面を被っているままだ。


 異世界ということもあって、特に祭りごとがある訳でもないのに素顔を面で隠していても特に誰も気に止める様子はなかった。入国してしまえば別に大丈夫なのだが、身分証のないノーフェイスは入国時に魔族だと怪しまれるのも無理ないのを再確認させられた。


 冒険者カードは本人の髪の毛一本と血を一滴、そして爪の欠片を調合魔法で混ぜ合わせたチップのようなものを不燃、撥水の効果を持ち合わせる特殊な木の板に埋め込むらしく、それで本人確認ができるそうだ。


 異世界の本人確認の技術を舐めていたとは言わないが、やはり現代日本と違い魔法のある世界。コレに関してはそのアイデアと再現性のある技術に素直に感心した。



「じゃあ早速、買取を頼みたいのだが良いだろうか?」


「はい、分かりました。買取ですね。魔物の素材でしょうか?」

 

「あぁ、それもあるが……」


 

 異世界での身分証となる冒険者カードを制服の胸ポケットにしまうと、宿代や食事代、それと異世界らしい格好に着替えるための資金を作るため、ダンジョンや道中で倒したモンスター達の素材を買い取ってもらう。


 モンスターたちはどのような手段を用いて倒そうとも、決まって燃やされたように灰になり、魔石を落とす。


 だから素材などは入手不可能だと思われていたのだが、これは私が[コラプサー]で倒してたかららしく、[仮面戦士]を用いて物理で倒しまくっていると魔石と一緒にきちんとモンスターどもの死体も残ったままになった。


 [コラプサー]は便利だが素材が落ちないという欠点があるため、素材を売っても金にならないような雑魚敵に使うか、本当にどうしようもない強敵に出会った時の最終手段と捉えていた方が良さそうだ。


 道中で倒したワーウルフやオーク、ホブゴブリン等の爪や牙、ツノ、毛皮等々を売り終えると、計5万ゼニー。そしてどうやら魔物が魔石をドロップするのは稀らしく、私は高い幸運値によってほぼ全ての個体から魔石を回収していたために10個ほどの魔石を買取に出すとお姉さんはぎょっとした顔をしていた。


 たまに魔石が落ちない個体がいたのは何らかの不具合か何かだと思い込んでいたが、どうやら魔石がドロップする方が珍しいらしい。気にせず飴玉みたいにバクバクと食っていたけど、金になるなら少しは取っておいた方が良かったな……


 買い取りの審査を終えるまでそんな事を考えていると、さっきのお姉さんが慌てた様子で奥の職員部屋から飛び出してくる。



「はぁ、はぁ……ヤナギ・ナグサ様。至急のお願いになるのですが、ギルド長から面会の要求がありましたので、今から案内する部屋へ入」



 息を切らしたお姉さんが全てを告げ終える前に私はそれを見越していたように立ち上がる。



「皆まで言うな。要件諸共分かっている。私の素性を探るつもりだろうが、私は素性を明かす気は無い。ギルド長とやらにはその旨を伝えておいてくれ。では」


「あ、ちょっと待……っ」



 お姉さんが呼び止めてくる声を背後に受けながら、魔石の買取の査定が終わった推定50万ゼニーほどの金属の重みがある袋と魔物の素材の買取分のお金を持ち、足早にギルドを後にする。


 こういうとき立ち止まってしまおうものなら、異世界転生・転移モノの定番通りにギルド長に呼び出され、ギルド長と決闘し良い勝負をしてしまったり、誰も解決できていない無理難題クエストを押し付けられ解決してしまったり……と、私の異常な強さが段々と周囲の冒険者にも伝わっていってしまうという結果になる事は目に見えている。


 そんなことはする気もないし、私が事件に巻き込まれる率が高くなるだけで非常に面倒だ。私は単に俺TUEEEE系をやりたいのではない。……かといって辺境でスローライフを満喫するつもりでもないのだが。


 私的には適当に旅をしつつ、賞金首モンスターを狩ったり、ダンジョンを攻略してみたりしたい。それにせっかく魔法が使える世界なのだから、日本にいた頃から考えていた、もし魔法が使えればと温めていた数百に渡る魔法のアイデアの数々を試さなければならない。スキル:[創造機械]で巨大ロボットを創ってみたいし、なんなら操縦もしてみたい。最終的には私を差し置いて最強を謳う魔王をボコして私が新たな魔王として君臨しなければならないしで、私にはこの世界でやらなければならないことが多すぎるのだ。


 まぁつまるところ、ギルド長などという私にとってはモブに等しい人物に会うという行為は単に時間の無駄というわけだ。


 ……それに長い間風呂に入っていないせいで髪と体が汗でベトベトだ。早く水浴びでもして洗い流したい。それに格好も格好だ。狐面にジャパニーズセーラー服は少々目立ちすぎる。せめて服装だけでもこの世界のものに合わせなければ。



 ――ということで今は異世界の服屋さん兼防具屋さんに来ていた。



「いらっしゃい! おや、その服装……珍しい格好だね! 冒険者の子かな? 見たこともない素材が使われているね。ダンジョンか何かで手に入れたアーティファクトの類いかい? あ、それにそのアラーフォックスの面からも凄い魔力を感じるよ。それもダンジョンの戦利品かい? 」


「あ、あ、あ……」


「あらごめんね。私ったらいつもお客さんにたくさん話しかけちゃって迷惑がられちゃうの。しかも早口で喋ってるし聞き取りにくいわよね? でもごめんなさい。私こういう喋り方がもう癖になっちゃってるのよ。もういやになっちゃうわよね。おほほほほ」



 店に入るなりいきなり店主らしきおばさんに話しかけられる。店主だと思ったのは、このおばさん以外に他の人が店に居ないからだ。


 他になぜ人が居ないかは……既に大方察しがついた。


 このおばさん、むちゃくちゃ喋る。


 現に私が今こうやって考え事をしている間も絶やすことなく喋り続けている。しかも早口。これは凄い。私は一言も発していないのにこのおばさんのマシンガントークはとどまるところを知らない。その話すスピードはむしろ加速していってるようにさえ思える。


 こういう類の人間は苦手だ。会話のキャッチボールが上手くいかないし話しかけるタイミングもない。一つ話しかければ倍どころか百にされて返ってくる。ペットボトルキャップを投げたのにミサイルが飛んでくるようなものだ。


 

「あ、あの」


「――でね、もうその時の私の主人の驚きようと叫び声といったらもう……ぷっ、今思い出しても笑えちゃうわ。あ、このネックレスはその時に拾ったものなのだけれど……」


「…………」



 どうしよう。こんな所でコミュ障の弊害が出てくるとは思わなんだ。なんだか楽しそうに話してるし会話を遮れるほどの隙がない。ていうか息継ぎいつのタイミングでしてるんだよこのおばさん……さっきから話っぱなしだぞ、皮膚呼吸か何かなのか……?


 もういいや。無視して良さげな服と防具を数点買ってから出ていこう。他の服屋を探すのも面倒くさい。



「あら? もう帰っちゃうのかい? それに本当にそんな真っ黒の服と防具だけで良いのかい? まあ人の趣味にとやかく言う気はないけどね! はい、コレ私の話を聞いてくれたお礼だ! あんたみたいなカワイイ女の子にはこういったフリフリしたワンピースとかも似合うと思うよ!」


「……感謝する。その服はいくらだ?」


「あ〜、いいのいいの! これはほんのお礼だから。冒険者だから血なまぐさいことばっかだろうけど、たまには親御さんのところに顔を出してやりなさい。あんたみたいなカワイイ娘が冒険者だなんて、きっと心配してるはずだからさ」


 先ほどまで喋りまくっていて見た目の年齢に対して元気なおばさんだなと思っていたが、そう話ながらどこか遠い目をするおばさんには、少し複雑な事情がありそうだ。


 

「両親(:マイマスター)は……もうこの世界には居ない。いや、生きてはいるだろうが、もう一生をかけても会えないようなところに私が来てしまったからな」



 私も、何も両親すら嫌っているほどに日本での生活が居心地が悪かったわけではない。むしろ、世間から後ろ指をさされるような私の唯一の味方だったのが両親だ。母親は料理と称した悪魔の実験に付き合ってくれたし、父親は休みの日にはゲーム対戦や公園での魔法対戦に一日中付き合ってくれた。

 


「……そうかい。あんたにも事情があるんだね……。それより長居させちまったみたいでごめんね。あんたみたいな若い女の子が来てくれると娘を思い出しちまってどうもね……」



 おばさんの話し声のトーンの落差をみるに、その娘はこのおばさんから相当愛されていたようだ。



「……娘は、生きているのか?」


「それが、分からないんだ……娘の捜索依頼を出してもう、随分と経っちまった。友達と外にピクニックに行くっつってそのまま行方知らず。まだ生きていると信じたいけど、心の中ではもう、どこか諦めちまってる自分もいる……こんなんじゃ母親失格だね」



 どうやら娘の死はまだ確定していないらしい。だが話を聞くに捜索依頼を出したのは四、五年前。このモンスター蔓延る過酷な世界で、服屋の娘として生まれ育った子がそんな年月を生き残れるのかは……可能性としては限りなく零に近いだろう。


 だが、本当に諦めていいのだろうか?


 初対面のおばさんでもこの人が"良い人"ということは先程まで心の底から慈しむような笑みで家族の話をしていたことからすぐに分かる。何より[真眼]持ちの私にとっては尚更全てが筒抜けなのだ。外面こそ陽気な感じを醸し出しているが、内面はずっと当時の自身の判断を悔やんでいる。目の下にある化粧では誤魔化しきれていないクマが何よりの証拠だ。

 


「――って今日会ったばかりの子に何話してるんだろうね私は! あんたはなんか不思議な子だよ……。良かったら今後もこの店に」


「分かった。私が捜し出してみせよう」


何か言いたげなおばさんの話をようやく遮ることに成功する。


 私は今日、冒険者になった。冒険者というのは自由を愛し、旅に生きる人間たちのことであり、そして旅に寄り道は必要不可欠だ。


 今後死ぬまで一生自由の身である冒険者になった。


今後は一生何者にも縛られない。


 ……なら、少しばかりの寄り道はしても大丈夫だろう。

 


「へ……? あ、あんた何言って」



 私が何を言っているのか分からず、ポカンとしているおばさんに日本にいた頃の母親に姿を重ねてしまった以上、そんな人の心がこれ以上苦しみ続けるのを見過ごす訳にもいかなく

 


「その娘の捜索依頼、B級冒険者であるナグサ様が引き受けた!」



 私は、最強に至るまでの道すがら、少しばかりの寄り道をする事に決めたのだった。

 

 

最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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