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第12話 顔隠しにはやっぱり狐の面だよね

第12話 顔隠しにはやっぱり狐の面だよね



「はい、次はそこの仮面の子。冒険者カードか商売人免許、もしくは住民票見せてね」



 街を発見しうきうきでその入口である門に並んでいると、この国の門番を務める全身鎧の男にそう要求される。


 当然異世界人である私がそのようなカードやライセンス、ましてやこの国の住民票なぞを持っている訳もなく。



「生憎、そのようなものは持ち合わせていなくてな。私はしがない旅人なんだ。しばしの間休息をとろうと思ったのだが、何とかならないだろうか」



 旅人という設定で押し通すことにした。まぁ、嘘は言ってないし、この中に一度入ることさえ出来れば冒険者カードなんて作り放題だろう。


 門番の兵士はこのような身元不明の者の対応には慣れているのか、手馴れた仕草で書類のようなものを書き始める。



「えぇっと、事情は分かりました。それでは、種族、レベル、身分、そして危険物の持ち込みがないかを調べますのでこちらまでどうぞ」



「うむ。手を煩わせてすまない」



 何かしらの書類を書き終えた兵士に案内され、仮面によってくぐもった声で追従の意志を応える。


 ちなみに、仮面を被っているのは[スキル]:[創造機械]を試しに使ってみたら思いの他カッコイイ狐の面が出来たので装着しているのもあるが、一番の目的は顔を隠すことだ。


 何せ私はレイード王国でトレインダンジョンへと捨てられた際、死んだという記録が作られているはず。


 異世界の中世ヨーロッパ時代の技術力で異世界人の一人であるとはいえ、一個人の私の顔が割れるとは考えにくいが、まぁあくまで保険に過ぎない。


 備えあれば憂いなしという言葉があるように、こういう針の穴を突くようなこまめな身バレ対策は万全にしておいた方が、過度にこだわりすぎてしまう私の心の持ちようが段違いなのである。


 2人の兵士にレベルや種族、持ち物など色々と調べられながらも、仮面の下では余裕の表情で心の中で私の仮面が制作された直接の原因について説明し終えると、それまでの私の余裕を打ち崩す衝撃の要求が兵士の口から出てくる。



「……よし、危険物の持ち込みもないですね。これにて調査終了です!……と言いたいところなんですけどね…。お嬢さん、仮面の下、見せてくれませんか?」


 

「ッ!?」



 私の完璧とさえ思えた作戦の根底を揺るがす兵士の要求に、思わず唾を飲み込む。


 ここまで難なく職務質問を終えたのに、仮に私の情報がこの国まで渡ってきていたとしていたら、顔を見られて身バレしてしまっては全てが無駄になってしまう。


 ここは何とか回避しなければ……!



「仮面の下? 何故私が貴様らに顔を見せなければならない?」



「最近になって魔王軍が軍事力強化に力を入れて始めているらしくてですね。侵入工作を仕掛けているのか、先日近隣の国で魔族が侵入するっていう大事件が起こったんですよ。その影響で門番にも特に力を入れるよう上から命令があったもんでですね。お嬢さんが魔族とは疑ってはいないんですけど、これも仕事なんですよ。……それとも何か見せられない理由でも、ありますか?」



 兵士が言っていることは、わざわざ隠している仮面の下の顔を確認しようとするのも無理ないほどに説得力のあるものだった。


 絶対的な力を持つ魔王が突然力を蓄え始めたら、緊張感が高まるのは当然のこと。しかも先日起こった魔族による侵入工作を踏まえたとしたなら尚更だ。私の仮面を引っペ剥がそうとするのも無理ない。


 だが……


 顔、顔かぁ……。仮に顔を見せたとしてもバレないなら良いんだが、異世界から来た人間となればその情報を他国の者が握っていたとしても違和感ない。


 どうすれば、顔を見せずに人間と判断して貰えるだろうか……



「……仮に私が顔を見せたとして、貴様らは魔族とやらと人間はどうやって見分けるつもりだ? 顔を見たがるということは見分けれられる自信があるのだろう?」



 私の問いかけに、兵士は少し考えたように間を置いて、魔族の顔の特徴を長々と語り出す。

 


「……そうですね。上からの報告書と数々の冒険者や街の人々の目撃情報を擦り合わせると、大体は分かります。まず目ですね。魔族さ人間と違って非常に鋭い目を持っています。鋭ければ鋭いほど、魔眼の適性が高まるのだとか。そして耳。魔族の持つ耳はどちからというとエルフに近いものです。人間と違い横に長く、先がとんがっています。そして一番特徴的なのはツノです。これは個体によって違うらしいのですが、1本でも2本でも3本でも、魔族は最低1本〜最大3本のツノを持っているらしいです。」



 兵士の話によると、意外と魔族の特徴は多いいらしい。


 

「目、耳、ツノ……これらの部位だけ見せれば人間と判断してくれるか?」



「……まぁ、そうですね。それらの部位が人間のモノだと判断出来れば、入国を許可しましょう」



「感謝する」



 兵士の入国OKの言質をとった私は、目元だけを見せるように狐の面を下にずらす。目元から下は仮面で隠した状態のまま、兵士に顔をじっくりと観察される。


 目、耳、頭の順でゆっくりと確認され、特に悪いこともしていないはずなのに無駄にドキドキしてしまった。


 

「……はい、確認できました。目元も耳も頭も問題ないです。ご協力ありがとうございました。それでは、入国してを許可しま」



 兵士が私に入国の許可を出そうとした瞬間だった。



「ダメだ!」



 兵士の声を遮るように野太い声が狭い取調室に響き渡る。


 突然の怒鳴り声に思わず肩を震わせ、仮面を再装着し、いつでも戦闘が行えるよう声のする方へと身構える。


 目線をあげるとそこには、先程の声の主であろう特徴的なちょび髭に、下っ腹の太った異世界での典型的な貴族のような中年のおっさんがいた。


 そのおっさんは取り調べをしていたのとは別の二人の兵士を背後の護衛につけ、私の方へとじっくり歩み寄ってくる。


 その顔面の迫力は、画面越しでも中々強烈だ。


 見るからに下卑た視線、油でテカテカに輝く肌、頭頂部から薄まっているチリチリの金髪、ベルトに乗っかっている下っ腹……


 もう人目見ただけでの悪役って分かるくらい典型的なおっさんだ。


 こいつの考えていることは真眼を使わずとも読み取れる。


 どうせ私が女だからスカートから見える太ももがどうとか首元から見える鎖骨などに興奮しているのだろう。


 どれどれ......? いっちょ鼻息の荒いおっさんの思考でも読み取ってみるか……『真眼』!


 

 <なんだこの狐面の怪しい娘は……奇々怪々な面に見たこともない格好、そして腕の包帯……怪しい、怪しすぎる! 先日の魔族騒動に続いてこの国にも来たか魔族め! ワシの国には一歩も入れさせてたまるか! 国民が安心して暮らせる国にするのがワシの役目なんじゃ!>



「………………」



 なんだろう。見た目で人を判断してはいけないとはよく言ったものだ。私は今、すごく恥ずかしい。現代日本で高等な倫理教育を施されてきた私が、見た目と不潔な雰囲気だけで人を判断してしまうとは。この人、見た目に反してすごく責任感のある人だ。



「フケツテッカー様、何故ダメだと仰るのでしょうか? お言葉ですが、私が調べた限りではこの娘には何の問題もございませんでしたが」



「いや、ダメじゃ。貴様、何故面をとらぬ?それに旅人だと? 笑わせるな。 この物騒な時代に貴様のような身元も保証されておらん、ましてや面も見せられぬ者を国に入れてたまるものか!」



 私の取調べをした兵士が強気に一歩前へと出る。


 対抗するようにフケツテッカーとかいうおっさんはダメの一点張り。しかもド正論でだ。


 どうやらこの兵士から、いやおそらく国民からもこのおっさんは見た目から舐められてしまっているのだろう。


 おっさんの性格的に、ムカつくヤツは制裁じゃ! みたいなことはしなさそうだし、結果として舐められてしまってるのなら少し同情する。


 私は無意識的にも日本でやられてきていた排外的な思考で他人を判断してしまっていた。


 ……私は私の嫌う人種と同じ生き物だったんだな。



「……いいだろう。仮面は外す。だが私の正体はどうか口外しないでほしい。……少し折行った事情があってな」



「ふん、最初からそうやってれば良いものの……どけ、ワシが直々に判断してくれる」



 フケツテッカーの国民を守ろうとする心意気に感銘を受け、狐の面を外すことを承諾すると、おっさんは取り調べをしていた兵士の前にずいっと出て私の顔を見下すように腕を組み、立つ。


 顔を見られたくらいで何だ。私が生きていることがバレることが何だ。


 私が魔族かもしれないのに、国民のため自ら赴いてくるフケツテッカーの覚悟に比べたら、私の秘密なんかちっぽけなモノだ。


 私ははぁーっと深呼吸し、間を置いてから右手で狐の面を正面から取り外すと……



「なんだ。本当に人間ではないか……これは失礼した。ワシはこの国において副騎士団長を務めているフケツテッカーと申す。この度の無礼、どうかこの国を守る騎士の正義感からなるものだと理解していただきたい」



「……へ?」



 そう言って先程までの猫背の姿勢から一変、姿勢を正し見事な敬礼をしてくるフケツテッカーのあまりの態度の変わり振りに拍子抜けした声が出る。


 というか、今副騎士団長って……


 私の理解が追いつかないままフケツテッカーは後ろの騎士に何やら指示を出すとその場をそそくさと後にした。



「こちらの要求に対する迅速な対応、感謝する。お嬢さんは人間だとフケツテッカー様もお認めになったからな、もう入国はしていいぞ。こっちだ」



「え? あ、どうも」



 耳打ちされていた護衛のうち一人が私の元へ近づいてきて取調室の裏口まで案内してくれる。

 

 その兵士は少し間を置くと、ずっと気になっていたのか、私を先導し前を向いたまま聞いてくる。



「先ほどから気になっていたのだが……貴様、人間なのに何故頑なに面を取らなかったのだ? 取調べの段階で面をとっておけばフケツテッカー様がわざわざいらっしゃることもなかったのに」



 その質問は当然のことだった。


 その質問に対して、正体がばれたらどうしようとかしょうもないことを理由に外せなかったなんて正直に白状するのは私のプライドが許すはずもなく



「……私にはメデューサの呪いがかけられていてな。この面は暴走するその呪いを抑えるためのアーティファクトだ」



「!? め、メデューサの呪いだと……?!」



 適当についた嘘にいい食いっぷりで護衛の人が食いつき、すごい勢いで私の方に振り返る。


 おいおい、本当に私がメデューサの呪い持ってたら普通目合わせに来ないだろ。この国の兵士は危機管理がなってないな……


 驚きを隠せていない兵士がブツブツと呟いている言葉を頑張って聞き取ってみるに、どうやらメデューサは賞金首レベルのビックなモンスターらしい。



 <おい、ナグサ。オマエ、メデューサとか嘘ついてんじゃァねェよ。俺が知ってる限りだとそのレベルのモンスターとまだやり合ってないだろ>



「しーっ、私は身バレしたくないから嘘でも信じて貰えた方が今後何かと動きやすいんだよ」



「……誰と話している?」


 

 念話で話しかけてくるカリスを宥めていると、先程までの柔らかな態度とは一変、警戒しているオーラをビンビンに放ちながら兵士が聞いてくる。


 そうか、念話だからカリスの声はコイツには聞こえないんだった。



「なんでもない、ただの独り言だ。それよりそんなに警戒しないでくれ。仮面をつけていれば力はある程度制御できる。勝手に呪いが発動することはない……それとも、私とやり合うか?」



「……いや、見たところお前は相当な手練のようだ。レベルもかなり高い方だったしな。無駄な争いはよそう」



 鞘に手をかけた兵士を軽く脅すと、思いのほかすんなりと引き下がってくれる。


 メデューサの呪いってのはそんなに強力なやつなのだろうか。いつか本体ごと討伐してみるのもいいな。



「ちなみに、最後に聞きたいことがあるんだが」



「……?」


 

 出口と見られる扉に手をかけた兵士に向かって私は、フケツテッカーに顔を晒された時から気にかかっていたことを問いかけ……



「私が誰なのか知っているか?」



「知らん」



「あ、はい」



 ......どうやらこの国で顔バレ身バレを懸念する必要はないようだ。

 


最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

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