表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/14

第11話 見ててください! 私の!

第11話 見ててください! 私の!



「フハ、フハハハハハハ! ようやく手応えのありそうな敵が出てきたではないか!」



 何日もかけて草原を駆け抜けてながら道中に湧いていたモンスターを駆逐していた途中、自分よりも数倍でかい体格をもつモンスターと対峙する。



 <あァ、トレインダンジョンじゃァお目にかかれなかったような強敵ばっかだぜェ>



 数十メートル先にいるのは豚の頭と人間の身体を併せ持つ青色の巨人で、『真眼』によると種族名にはオークと示されている。そしてその後ろにある崖には狼のような獣が十数匹、私たちの戦いの漁夫の利を狙っているのか、様子を伺っている。少し距離があって真眼をは使えないが、おそらく低レベルのワーウルフの群れだろう。


 どうやらこの世界のモンスターにはネームドは滅多に居ないらしく、今まで討伐してきたモンスター共にも種族名以外の名前は見当たらなかった。


 となると、トレインダンジョンで出会ったキールという悪魔族の一人は、結構レアキャラだったのだろうか。


 あの悪魔族とはいつかは決着をつけなければならない。

 

 この柳 ナグサの辞書には負けと敵前逃亡の文字はは載っていないのだ。


 そんなことを考えていると、ふとした疑問が頭をよぎる。

 


「そういえばなんでトレインダンジョンはなんで雑魚敵ばっかだったんだろ?」



 <……あァ? んなもんあのキールとかいう悪魔族の言動見てたら分かんだろ。アイツが強敵狩りまくってレベル上げしてたからだろうが>

 


「そうか、確かにモンスターが湧いたとかどうとか言ってたな」



 暗闇からいきなり襲いかかってきたキールの台詞が思い出される。


私のことをモンスターだと勘違して襲ってきたとかどうとか。対してカリスは遠い距離からでもキールのことを悪魔族だと見抜いていた。


……ひょっとしてカリスの索敵能力って凄いのか? それともキールの索敵能力が案外低いのだろうか。それとも私の[悪魔族耐性]のスキルの恩恵なのだろうか……

 


 <そんなことよりナグサ、もう1回アレやろうぜ>



 色々と考えを巡らせているとカリスがうきうきしたような声色で語りかけてくる。



「えぇ〜? アレかぁ、アレすると楽しいんだけど、存外疲れるんだよね」



 この数日間で野良モンスター相手に何回かこのスキルを使ってみたが、何せ私の身体をカリスに使わせるため体力の消耗が激しいのだ。

 


 <頼む! 久々に身体を自由に動かせるのが楽しくてしょうがねェんだよ! この通りだ!>



 見えなくても頭を下げているのが分かるような様子で語りかけてくるカリスに根負けした私は、左腕の包帯を解き、アレを使う準備をする。



「ブモオオオォォォォォォッ!!」



「鳴き声は牛なのね……」



 豚の頭なのに鳴き声はミノタウルスのような雄叫びをあげ、石製の斧を振り回しながら突進してくるオークが目と鼻の先にまで近づいて来た瞬間、私は幼い頃から焦がれてやまなかった覚醒の文言を口にする。



「封印解かれし時、貴様に審判を下す…………変!身!」



 スカートを右手で弾き靡かせ、ポケットから天秤を取り出す。この天秤は持ち手の部分が剣となっており、その柄の部分を引っ張た瞬間、淡い光が身を包みだし、私の身体はカリスの支配下に置かれる。


 攻撃が当たる寸前でオークは、私が変身した際の衝撃波で元いた位置にまでぶっ飛ばされ、仰向けになる。


 

「ふう、やっぱ生の身体は何回入ってもいいなァ。これぞ生きてるって感じだぜェ」



 意識ははっきりしているのに身体のコントーロール権がカリスに移っているため、金縛りのような感覚を覚え、なんだかむず痒い。


まぁ、取り返そうと思えばいつでも取り返せそうな感覚ではあるが、カリスが楽しそうなので無理やりひっぺがすのは止めている。



 <カリス、アレ言ってよ、アレ! >



「なあァ、アレ恥ずかしいからやめないか? 変身する前にお前が言ってるからわざわざ言わなくてもいいじゃん」



 コイツは何ワガママ言ってるんだ。変身した際の決め台詞はマストで必要なんだぞ。おばぁちゃんが言ってた。



 <アレ言わないならもう身体貸してあげないよ? >



「ぐッ……それを出すのはセコいだろ……分かった、分かったよ言えばいいんだろ言えば。……えー、時は満ちた……封印が解かれし今この瞬間、俺たちによりお前に下された罪は……」



 もごもごしながらも長々としたセリフをきちんと全部いい終えようとするカリスは、うーんと少しの間考えた後、再び突進してくるオークに向かって



「"豚の頭のクセに鳴き声が牛罪"だァッ!」



 オークの巨体に向かって突撃し、それはそれは見事なまでのジャンプ、そして美しいフォームでのライダーキックをかましたのだった―――







「キャンッ!……クゥゥゥーン…………」



「ふぃー、これでいっちょ上がり、だな!」



 <まさかオーク倒した瞬間に一目散に逃げ出したワーウルフの群れを追いかけ回して一体も残らず殲滅するとは……カリスってもしかして戦闘狂?>



 数分に渡るオークとの戦闘を終え、魔石を回収し終わったカリスは、圧倒的実力差を見せつけられ逃げ出したワーウルフの群れをハンターの如く追跡し、バラバラに逃げ果せたはずのワーウルフを全て討伐してしまった。


 解散した群れを一匹残らず駆逐できるとか、コイツの嗅覚はどうなってるんだ。


 まぁ、おそらくこの[仮面戦士]のスキルによる恩恵もあるのだろうが、カリスが扱うものと私が扱うものとを比べるとカリスの方が素のスペックが高い上に、このスーツの能力を限界まで引き出せることが出来ていると感じる。



「やっぱり実際に身体を動かして闘うのは気持ちの良いもんだなァ! こんな雑魚ども相手じゃァ本気出すことは出来きねェが居ねェよりはマシだ」



 狩りを終え、魔石を回収し終わったカリスは変身を解くと、私の身体に憑依したまま背伸びをする。


 あのスピードとパワーでまだ本気じゃないとか、恐るべし古代の暴龍スタミナ……


 ていうかレベルもかなり上がったな。道中でモンスター倒していた分とさっき倒したオークとワーウルフを合わせて今やレベルは64。このペースでレベルが上がっていけばキールを倒すことが出来る日もそう遠くないだろう。


 どうせカリスが私の身体使ってて暇だし、アイテム整理でもするか……


 道中で新たに獲得した[スキル]:[アイテムボックス]の中に入れられたモンスターからドロップしたアイテムを整理し始める。


 昔からゲームをしている時にも手に入ったアイテムの整理が楽しくて何時間もかけて個数を合わせたり、並び順を小さい順や色順にしていたりしたのが懐かしく感じられる。



「……やっぱりドラゴンの身体よりニンゲンの方が小回りきいて動きやすいな、パワーは劣るがその分敏捷性がかなり高い……おい、ナグサ!」



 <ひゃっ……!? き、急に名前呼ぶなよびっくりしただろ!>



 夢中になってアイテム整理をしていると突然カリスに名前を呼ばれ、柄にもなく小さめの悲鳴を上げてしまう。



「わ、悪い、そんなに驚くとは……それよりナグサ! 俺は今、この瞬間からドラゴンとしての復活は諦めてニンゲンの形で復活することに決めたぞ!」



 <……は? 急に何言ってんの? >



 突然のカミングアウトに私が疑問を感じる暇もなく、私の身体が再び淡い光に包み込まれ始める。

 


 <ちょ、眩し……>



 一瞬にして光に包み込まれた全身から核のようなものが分裂していく感覚に襲われる。


 身体から何かがこぼれ落ちてしまいそうな、傾けたコップから水が滴り落ちてしまうような現実感のない感覚に、意識が朦朧とさせられる。


 やがて私を包み込んだ光が、私のすぐ隣にもう一つの人型の影を生み出し……



「ーッ!!......ッはあァぁぁ、はぁ、はぁ、ま、まだ力が足りなかったか……いけると思ったんだけどなァ、やはり依代がないと難しいか……」



 そのままの勢いでカリスが私の中から分裂して実体として現れるのかと思ったら、まだそれほどまでに力が蓄えれていなかったらしく、人型に象られた眩い影は再び私の内側へと帰ってくる。



 <ちょっと! いきなり何してんのさ、びっくりしちゃったでしょ!>



「はぁ、はぁ……あァ、すまん。……まァ、これで脱出石の時の貸しはチャラにしといてやるよ。それよりナグサ、アレ見てみろよ」



 私が怒りをぶつけるとカリスは上から目線で謝りがらも、ある一点を指さす。


 その目線と指の先には、私がこの世界に来て初めての感動的な光景が広がっていて……



「<街だ!>じゃねェか!」



 高く、数十メートルはある石造りの塀に囲まれた、城と見られるものや数々の家、彩り豊かな木々、そして川、立派な街道が通っている街に、とうとう辿り着くことが出来たのだった。

 



最後まで見て頂いてありがとうございます!(´▽`)

よろしければ☆やリアクションで応援してくれるととても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ