9冊目 お嬢様とパーティ準備
評価、ブクマ、いいね ありがとうございます٩( 'ω' )و
さて、王家からの招待はお断りできないので、パーティドレスの準備をしなきゃいけないワケなんだけど。
正直――これに関しては何一つ問題はない。
本邸だろうと、領書邸だろうと、自室のどこかに置いておくといたずらされる不安があるから、人目に付かない部屋に隠してあるだけである。
図書館には魔心具で制御された隠し部屋以外にだって、色々仕掛けはあるからね。
そもそも、お父様には隠しているけど、ときどき国王陛下から呼び出されるてるのよ、私。ライブラリアの仕事は、王に知恵を貸すことも含まれる。なのでいつ呼び出されても良い準備はしてるってワケだ。
そして、そういう時の仕事着としてのドレスとか、今回のように出席を拒否できないパーティを想定したドレスとかは、常に用意してある。
そんなワケで、とりあえず有り合わせで何とかなりそうなのでひと安心――
「お嬢様。新しいドレスの手配をしてくださいね」
――かなぁ、と思ってたけれど、エフェには完全に読まれていたので、笑顔で圧を掛けられてしまった。
「わかったわよ。採寸の時には、いつものようにこっちからこっそり出向くわ。色は黒をベースにして。デザインはエフェとお店に任せる。手配しておいて」
「かしこまりました」
「それと……ドレス以上に重要な一件をお願いしたいんだけど」
私がそう付け加えると、エフェのにこやかな気配がピリリと引きしまる。
「それは?」
「馬車の手配」
「え? 当家の馬車じゃダメなんですか?」
「あの女が手配した馬車になんて乗りたくないわ。
あるいは、元々うちにあった馬や馬車に細工がされてないとも限らない」
「ああ――そうか。そうですよね。すみません、失念してました」
「いいのよ。気にしないで。こういうのを思考するのは主である私の勤め。エフェが気づかなかったコトに落ち度はないから」
でもただ手配するだけだと、余計なちょっかいがありそうなのよね。
フェイクの馬車を用意しても、そっちが襲撃とかされて、その馬車の御者や牽いてくれた馬が女神の元へと旅立ってしまったりしたら、少しばかり後味が悪い……。
あ。そうだ。
「エフェ。馬車の手配の仕方なんだけど――」
……これなら、フーシアや使用人たちが馬車に対してどんな手段の仕掛けをしてきても無視できちゃうはずである。
我ながら反則の一手だと思うけど。
・
・
・
パーティ一週間前。
うちの領都から王都まで、馬車でも結構かかる。
なので王都のイベントなどに参加する場合は、最低限前日の夜までには王都へ到着するように出発する。
そして王都にある別邸で一晩過ごしてからイベントへ出席するというのが、うちの家の基本スタイルである。
基本スタイルなんだけれど――
「なんであたしまで置いてきぼりなのよぉぉぉぉぉッ!!」
――サラのキレ散らかした声が、渡り廊下を越えて私の元へと聞こえてくる。
悪女ムーブとしての叫びなのか、本心なのかがちょっと読みづらいけれど。
ともあれ、サラは自分付きのまともな侍女やメイドなどを引き連れて、ドタバタと私の部屋へとやってきた。
「お姉さま!」
「聞こえてたわ。大声すぎてはしたないわよ」
「……ごめんなさーい……」
雨の日の捨て犬みたいな顔をしないで欲しいわ。
こっちが悪いみたいじゃないの……もう。
「エフェ」
「大丈夫です。この近辺に怪しい者はおりません。またこの場にいる者は全員信用できます」
エフェの言葉を受けて、サラの連れてきた人たちを見回すと、彼女たちは真面目な顔で私にうなずく。
「よし」
使えない使用人たちは、使えないだけでなく、余計なことをすることに余念がないからね。
それに加え、エフェにはフーシアの間諜が紛れ込んでないかも確認してもらった。
その上で、サラ付きのメイドであるミレーテがしっかりとした様子で告げる。
「ここの面々は私が見繕った者たちですので」
「そう。ミレーテが見繕ったのなら信用できそうね」
ミレーテはあまり表情が変わらない真面目で硬い感じの美人だ。
明るく楽しくふわふわしたエフェとは正反対よね。
だけどエフェと同じくらい信用のおけるメイドでもある。
だからこそ、彼女の言葉を信じて私はうなずいた。
そうして、間諜の有無を確認し終えた私は、サラに訊ねる。
「サラ。別の馬車はなかったの?」
「ない……いや、なくはないんだけど、整備されてなくて危険なの。誰がどうみても壊れかけ。馬も……怪我している子しかいなくて……」
違うな。
恐らくはわざと壊れかけにし、馬も怪我をさせた。
なるほど。
私を出席させない、あるいは遅刻させる算段か。
王家の招待に遅刻するなんて――みたいなことなんだろうけど。
「都合がいいわ。本当に都合がいい」
で・も・ね?
ふふふ。うふふふふふ。あはははははは!
お父様もフーシアも留守ッ!
最高じゃないッ、このシチュエーションッッ!!
「お姉さまの方がよっぽど悪役似合う気がしてきた」
「なら、今日は一緒に悪役でもする?」
「え?」
「本邸で私と大喧嘩しましょうよ、サラ」
「ええっと……なんで?」
「そのとばっちりで邪魔な使用人たちを一掃する」
「あー……確かに母さんたちが留守なのを良いコトに、勝手に家のモノ漁ってそうだしなぁ……」
サラがぼやくと背後で、ミレーテを筆頭にサラが連れてきたメイドたちが深くうなずいている。
「前日に出発しても遅刻も欠席もしないで済む手段があるの。すでに手配も済んでいるわ。その為に必要なライブラリア家の秘密を一つ。サラにも教えてあげる」
「え? いいの?」
「最近ハインゼルから勉強を教えてもらってるでしょ?」
私が訊ねると、サラはうなずく。
「サラには申し訳ないんだけど、お父様がフーシアへ領主の座を明け渡すのを阻止する為の最終手段として貴方に当主になってもらおうかな、って」
「……ハインゼルさんから聞いたけど、二人とも本気なんだよね?」
「ええ、本気よ。もちろん最終手段。保険みたいなモノなんだけど。
そして正当な当主ないし、正当な当主候補には、ライブラリアの秘密が継承される」
「それって、お父様は知らないの?」
「そうよ。お父様とフーシアには絶対に教えるつもりはない」
エフェを筆頭に、周囲のメイドたちは、私がサラに秘密を伝えることに驚いているようだ。
それはそうだろう。
サラと私は血のつながりはない――あー、いや……確定じゃないんだけど、フーシアがお父様の愛人だったことを考えると、半分くらいは血が繋がってるかもしれないか。
まぁでもそれはライブラリアの血ではない。
ましてや、サラは平民の生まれであり、なんと言ってもあのフーシアの娘である。
サラに対する感情は良くとも、その一点がどうしても気に入らない者だっていることだろう。
だけど、私はあえてそういう反応の一切を無視する。
エフェが信用できると言った以上、個人の感情はさておいて、彼女たちが私の考えや判断に、異論を挟んでくることはないだろう。
「あたしにはちょっと荷が重いけど……」
「それでも貴族になった以上は背負ってもらうわ。貴方が望んだコトではなかったとしても。貴族社会に踏み込んでしまった以上、知らぬ存ぜぬは無理なのよ」
木っ端の男爵家とかならそれでも良かったかもしれない。
けれども、伯爵家――しかも王家との繋がりも強く、建国時に密約を交わし、今もそれを守ってきているライブラリア伯爵家となると、そうもいかないのだ。
でも、サラはそこをちゃんと理解している。
フーシアよりも、もしかしたらお父様よりも、しっかりと。
「わかってる……お姉さまの迷惑にはならないように、がんばる」
「ええ。お願いね。信用しているからこそ、重荷を背負わせてしまうのだけれど」
「秘密の継承は、信用の重さかぁ……そりゃあ重いよね」
苦笑しながらも、だけどそれなりの覚悟は抱いてくれたようだ。
サラにはちょっと申し訳ない気もするのだけれど。
「さて話がまとまったところで、さて皆の衆」
ニヤリと笑いながら、あまり使わない言葉で呼びかけた。
それに、即座に反応して背筋をただすのだから、みんな優秀な人たちだ。
「お昼頃に私とサラは本邸で大喧嘩をするわ。
そのとばっちりで使えない使用人やメイドの多くが、クビになったり怪我を負ったりするかもしれない。信用できる人には、それを伝えておいて」
「お姉さま……真っ先にクビにしたい奴がいるんですけど、なんか仕掛けてもいいですか?」
「もちろん。でも一人で実行しようとせずにここにいる面々とちゃんと相談しなさいね。
それと、エフェとミレーテはハインゼルと一緒に、新しい人材の手配を迅速に」
「かしこまりました」
彼女たちも心なしかちょっとソワソワしているのは、よっぽど溜まっているモノがあるからだろう。
「とりあえずサラ。この部屋から出ていく時にひと芝居お願いね。
置いてかれたから馬車の確認をしに私の部屋に来て、だけど馬車がどうにもならないと知って怒って自室に戻る。そういうお芝居」
「任せて! お昼頃にはロビーで暴れてるから、声を掛けてね」
「サラが暴れる理由や、喧嘩の理由とか、もう少し詰めておこうか」
……サラが帰ったら、ちょっと裏社会の方々にご挨拶をしておこうかしら。根回しをしにね。
世の中をナメすぎている連中には、少しばかりきっついお仕置き――必要だろうから。
あ、そうだ。
ケガさせられたっていう馬も見に行こうかな。
私の魔法で治せそうなら治してあげたいしね。
夜にもう1話更新予定です٩( 'ω' )و