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8冊目 お嬢様と老齢の家令

本日2話目です٩( 'ω' )و


 毎週、風の日にハインゼルを借りられるようになったのは大きい。


 投げられてくる仕事をこなすのがラクになったのはもちろんだけど、一番大きいのは、父やフーシアに聞かれたくないような話をしやすくなったことだ。


 フーシアは自分に苦言を(てい)するメイドや使用人たちに暴力を振るったり、ヒステリックに当たったりして遠ざけていった。


 不当にクビを言い渡したりした人もいたようで。


 サラに協力してもらって、そういう理由で辞めた人や辞めたがる人には次の仕事を斡旋し、有能な人はサラ付きや領書邸勤めへと変えさせたりはしているのだけれど……。


 それでも本邸の有能だった使用人たちはかなりの数減ってしまった。


 その減った分はフーシアが見繕って連れてきているようだけど、誰も彼もロクでもない連中ばっかり。


 しかもあいつらはフーシアにベッタリだから、迂闊に話を聞かれてしまえば全部報告されるし、そもそも本邸ですれ違ったりすれば、先日のように平気で私を見下してくる。


 あまりにもナメ腐ってる時は、先日のように肉体言語で分からせたりはしてるけど……。


 ともあれ、私の居場所が本邸ないというのはそういうことだ。

 かつての私の私室は、掃除や点検の名目で荒らされてロクなことにならなくなっていた。

 そのことに危機感を覚えた私は領書邸へと逃げてきたワケである。


 まぁ今は本邸の自室が完全に物置化してるんで帰れないともいうけれど。


 もちろん家のメンテナンスがダメダメなだけではない。

 当然、客人のもてなしはもちろん、父やフーシアへの対応もひどすぎるそうで、サラは頭を抱えているらしい。


 そんなやつらばかりの中、サラはお気に入りの使用人以外は、自分にも部屋にも近づかせない態度を取っているので、何とかなっているようだけれど……。


 サラに取り入ろうと媚びへつらってくる連中に対して、サラはその使え無さを「クソを極めてもあそこまでクソにならない」と評していることから、推して知るべし。


 根本的に使用人としての基礎のキが無いようである。


 いやどんだけひどいのよ。

 まぁおかげで、本邸はだいぶ荒れている。当たり前なんだけどね。


 しかもフーシアはそんな家に客を招いてパーティとか開いているワケだから、当家の評判ダダ下がりである。


 もっとも、サラは社交界でまともに立ち回れるようになり、ちゃんとした従者を連れて行っている為、単純に評判が下がり続けているワケではなさそうだ。


 ともあれ、私の思惑というのは、そんなふうに内外ともにぐだぐだになっているライブラリア家を元に戻すことだ。


 ただ母が亡くなり、父が中継ぎをやっている間に、色々と酷くなりすぎていて、私が領主になり自由が効かなくなると逆に解決しづらそうなこともある。

 なので、まずはその辺りをどうにかしようというのが、今の私の状況なのだ。


 それに今の状態で領主になっても、恐らく父やフーシアが全力で足を引っ張ってくることだろう。


 強権を振りかざして無理矢理に是正しようとすると、なにをされるかわからない。


 特にフーシアは、図書館に火をつけるとか平気でやってきそうなので、完全に根回しと準備をした上で、スパっといかなければなるまい。


 エフェが時々提案してくる暗殺は大変魅力的なんだけど、死なれたら死なれたで面倒はありそうだからね。


 逆に言うと、その面倒が発生しない状況になったら考慮するべきだろうとは思っている。サラには悪いと思うけど、このままにしておくわけにはいかないのだ。


 そんなワケで、私は去年十七歳を迎え成人したものの、すぐに領主にならずに、甘んじて状況を受け入れている態度をとりながら、根回しと策略に奔走する日々である。


 サボって本を読んだり、司書仕事を楽しんだりしているんじゃないかって?

 そう言われてしまうと返す言葉もないけれど、何事も息抜きってのは必要なのよ。


 息抜きの話はおいておくとして――

 私が成人してからは一年ほど。前当主で私の母であるシュッタイアが女神の御座(みざ)へと迎えられてからは五年くらい経っているので、我ながら我慢強いなと思わなくもない。


 その辺りは、エフェを筆頭に共有できそうな人にはしている。

 ハインゼルも薄々気づいていたようだけど、確信はなかったようだ。


 最近は週一度の仕事の時に、彼とそういうことをちゃんと話せるようになったのは大きいわ。味方になってくれるとこれほど頼れる人もいないしね。


 そうした日々の中、ハインゼルが手伝いに来てくれたとある風の日のこと。


「思惑はさておき、空いた時間に司書をしたり本を読んだりして過ごす日々そのものに満ち足りている面があるのではありませんか?」


 ……などと、ハインゼルに言われたのであった。

 正直、否定はできない。否定する要素がない。


 だから――というワケではないのだけど、私はこう答えた。


「そうね。なんだったらサラを領主にして、自分はずっとこうやって過ごしたいとすら思っているわ」

「サラお嬢様を……ですか?」

「あの子なら出来るわよ。勉強熱心だしなにより真面目よ。貴族にも平民にも理解があるというのは、大きなアドバンテージだと思うわ」

「そこは否定はしませんが……」


 難しい顔をするハインゼルに、私は笑いかける。

 ちょっとした保険の意味もあるし、ハインゼルの心落ち着ける時間を増やす意味も込めて、提案だ。


「領主教育という名目でさ、ゼル爺。

 貴方がサラに勉強を教える時間を作るのはどう? お父様やフーシアを相手にする時間が確実に減るわよ?」

「それはとても魅力的な提案ですな」


 ハインゼルがかなり真面目な顔をしてうなった。

 よっぽど父やフーシアを相手にするのが面倒なようである。


「実際問題。お父様がフーシアに権力を渡そうとしているのを阻止する手段の一つとして、代わりにサラに流れるようにするのはアリだと思うのよ。本当にサラに渡っちゃったとしても、私と貴方でフォローすれば、フーシアなんかよりも数億倍マシでしょ?」


 私の言葉に、ハインゼルが本気で悩み始める。

 本当に、父もフーシアも、ロクなことをしていないようだ。


 そしてハインゼルが答えを出す前に、部屋で控えていたエフェがピリっとした空気を纏って私たちを呼んだ。


「お嬢様、ハインゼルさん」

「どうしたの?」

「奥様が渡り廊下を渡ってくる気配があります。サラお嬢様も一緒のようです」

「今度はどんな厄介事かしらね。本はちゃんと渡したはずだけど」


 もちろん根回しをしてあったので、買い取り業者が適正価格で買い取ったあとで、私がそれを同じ価格プラスちょっと色付きで買い直したけどね。


 すぐに図書館に戻すのもアレなんで、隠し部屋に保管してある。


 ともあれ、私にも分かるくらいには足音が近づいてきて――


「いるわね、グズ!」


 ――大声を上げながら乱暴にドアを開けてきた。


「貴族になったのですからノックを覚えてください」

「相変わらず見てるだけで気分が暗くなる顔で、いちいち細かいコトを口にする女ね!」

「平民にもノックをするマナーは存在すると伺いましたが、貴方は平民の時からその態度だったので?」

「――ッ!!」


 あー……せっかくガーゼがとれたのに、また殴られた。

 いいんだけどさ。本当に、全部が終わった時、覚えてとけよ。

 

「腹の立つ目をしてッ!」

「あいにくと目つきの悪さは生まれつきのモノでして」


 見ているエフェとハインゼルのハラハラした気配を感じるけど、ここは我慢して欲しい。

 サラもそんな申し訳ない顔をしないの。ちゃんと悪役顔をしてなさい。


「……母さん、いちいち目くじらを立てていては話が進まないわ」

「ええ、そうね。でも面倒だからアンタが説明しておきなさい!」


 そう言ってフーシアは何かを床にたたきつけて大股で部屋を出て行こうとする。


 その背中に――


「なら最初からサラに持たせて届けさせれば、貴女(あなた)は不快にならなかったんじゃないの? それとも私と喧嘩したい理由でも?」


 ――思わず私がそう言葉を投げると、フーシアはすごい形相になってこちらを睨む。


 なんとなく読めた。

 どういう意図があるかはわからないけど、これ――私が手を出すのを待ってるな?


 戻ってきてもう一発くるかな?


「本当に鬱陶しいグズね! 自惚れないで!!」


 キンキン声でそう叫ぶと、フーシアは部屋を出ていった。

 

 ……この感じ、私が暴力で反撃するのをトリガーに発動する魔法とか、現代の常識や感覚から大きく逸脱した効果を持つ、古い時代の魔心具(ましんぐ)――アーティファクトの類とか保有していたりする可能性ない?


 その手のモノって発動条件が複雑なほど効果が高いと聞くし――


 でも、中央山脈を挟んだ反対側――東部諸国ならともかく、西部諸国(こっち)じゃあ魔法を習得するのはそう簡単じゃないはず。


 それなら古代魔心具(アーティファクト)かな? とも思うけど、それだって簡単に手に入るモノじゃあない。


 まぁ魔法云々は私の思いつきでしかないから、これをベースに考えるのはちょっと危険か。


 切り替え切り替え。


「それでサラ、何のようなのかしら?」


 まだ近くにフーシアの気配があるのだろう。

 エフェからの声が掛からないので、険悪モードのままサラに問いかけた。


 当然、サラも馴れたもの。

 悪役スマイルを浮かべつつも、面倒くさげな態度で、フーシアが投げた封筒らしきモノを拾った。


「これよこれ。アンタ宛の手紙だってさ」


 それを私に向かって放り投げる。

 私はサラが投げたものを受け取って、(いぶか)しむ。


「招待状? 私宛?」


 珍しいこともあるもんだ。

 母が亡くなってからこっち、こういうものは父やフーシアがシャットアウトしてるのか、全く私の元へと来なくなっていたのだが――


「良く知らないけど、ライブラリアの守護者ってやつを呼んでるんだって。

 お父様じゃないのって聞いたんだけど、この件はアンタを呼ぶしかないって言うのよ」


 ――なるほど。さすがにお父様もそこを偽れないか。

 フーシア辺りは調子に乗って名乗りそうだけれど。


「ふーん……で? あなたやフーシアはそう名乗るつもりはないの?」

「名乗れるなら名乗りたかったわ。でも黒髪黒目である必要があるってお父様が言うんだもの。アンタしか無理でしょ。

 それなら無視すればいいって母さんは言ってたけど、相手が王家だとそうもいかないって珍しくお父様が頑固だったわ」


 王家のパーティなんて面倒だけど……呼ばれたなら出るしかないわね。

 それと、お父様にしては珍しくがんばったんじゃないかしら。


 実際、その判断は正しいわよね。


 このままウチを乗っ取るにしても、まだ私を亡き者にしてない状態で、招待を断るなんて、悪手もいいところだもの。


「それで? 出ろっていうなら出るけど、ドレスは?」

「そんなものないわよ。自分で用意したら?」

「私の部屋をめちゃくちゃにした上、勝手にドレスを売っ払うような使用人たちを雇っておいて?」


 あ、サラがちょっと涙目になった。

 以前はともかく、仲良くなれば仲良くなるほど、サラが悪女ムーブできなくなっていくのどうかと思うのよね。


 調子に乗りやすいだけで、根が悪いことできないタイプだろうから、大変なのかもしれないけどさ。


「それは母さんに言ってちょうだい。あんな使えない使用人を大量に雇われてあたしだって迷惑してるんだから!」


 うん。それはサラの本音だね。

 エフェとハインゼルも同意しちゃってるの、ほんとどうかと思うんだけど。


 それにしても、王家からパーティの招待状ねぇ……。

 差出人を見ると、陛下ではなく、王太子殿下だ。


 もしかしたら、主催も殿下なのかもしれない。


 まぁどっちであれ、参加は必須。

 社交とか面倒だけど、名指しで呼ばれちゃったなら、出るしかないわよね。


 お父様やフーシアを放置していることへのお小言とかもあるのかなぁ……。

 やだなぁ……面倒くさいなぁ……お外に出たくないなぁ……。


 ずっと図書館で領主の書類仕事しながら、ずっと図書館で司書仕事だけしてたいなぁ……。


 それでずっと本だけ読んで過ごしたいんだけどなぁ……。


 ……それは無理だろって? それは私が一番知ってるわ……。


本日はここまで٩( 'ω' )و

明日も2話更新の予定です

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