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6冊目 父と娘

本日3話目٩( 'ω' )و


 ※ご注意※

 このエピソードは、モブ相手とはいえ暴力的な描写、痛い描写があります

 苦手な方はお気を付けください



=====



 領主邸、執務室。

 そこへ向かうべく廊下を歩いていると、バカ丸出しで品のない顔をした使用人たちが、露骨な視線を私へと向けてくる。


 ニヤニヤとしているような、見下しているような。

 こいつらが幅を利かせ出しているせいで、私は本邸の自室に帰れないのよね。


 サラの話じゃあ、私の私室は完全に物置にされているみたいだし。

 ほんと、私が図書館暮らしはじめてから、使用人たちの質が下がっていけないわ。


 そのうち一人がわかりやすく足をかけようとして来たので、私はそれを見据えて全体重をかけて踏みつけた。


 ゴギリという不快な感触と、足をかけようとしてきた使用人の悲鳴。


「ああああああ……ッッ!?」

「あら? 何かゴミでも踏み砕いたかしら?」


 それを見ていた一人が慌てて飛び出してくる。


「テメェ、何してやがるッ!?」


 なんて品のない言葉だ。

 私も人のことは言えない言葉遣いをする時はあるけど、少なくとも使用人が家主の長女へ向けて使う言葉じゃないのよね。


「アンタたちさ、私が反撃らしい反撃をして来なかったからって、ちょっと勘違いしてるみたいじゃない? だから、ここで言っておくわ。アンタたちにも理解できる言葉でね」


 そう告げて、私は足の痛みにうずくまっている使用人に追加で蹴りをくれてやってから、詰め寄ってきた馬鹿な使用人の胸ぐらを掴んで、顔を間近まで近づける。


 この質の悪い使用人をを雇い入れているのが、フーシアだ。

 あの女は本当に害悪すぎて頭が痛くなる。


「私は伯爵家の長女でテメェらは雇われの平民だかんな?

 仕事もロクにしねぇのに、いつまでも調子に乗ってられるなんて思うんじゃねぇぞ?」


 だいぶ汚い言葉遣いだけど、こいつらみたいなのは、綺麗な言葉や丁寧な態度をするとナメてくるからね。


 そもそも、敬語や丁寧語あるいはお上品な態度というモノを、格下が使うモノだと勘違いしているフシがあるくらいだ。

 だから、こいつらには、路地裏にたむろするチンピラみたいな言葉で言ってやった方が効果がある。


「そこらの深窓の令嬢と違って私は多少なりとも暴力の心得ってヤツがあるんだよ。

 限界を超えるようなバカをやらかすっていうなら、物理的に首を飛ばすぐらいはワケねぇの。そのコト、その中身が少なそうなスカスカの頭ン中の奥深くに刻み込んどけ」


 そう言って私は胸ぐらから手を離す。

 けれど、それをチャンスと見て殴ってこようと襲いかかってくるのを見据えながら、反撃がてらに顔面に拳を一発くれてやる。


 だいぶ手加減したからそれで目を回すことはなかったけど、さすがに殴られたことに腹は立つらしい。あまりに自分勝手だけどね。


「なにするのよ! ……ヒッ!?」


 頬を押さえて文句を言おうとするバカを、思い切り睨みつける。

 無意識に結構な殺意でも向けてたのか、頬を押さえながら睨んできた使用人は小さく息をのんで震え出す。


「どれだけ私が家族から冷遇されていようとも、テメェらが私を冷遇してよい理由にはならねぇんだよ、バカどもが。

 殺されたくなかったらとっとと辞表を書くか真面目に仕事するか選びな。どちらも選ばねぇ、態度も改めねぇって言うなら、次は拳じゃなくて剣か槍だ。刃物の頑固な脂汚れになりたくなきゃちゃんと選べよ」


 私はそう言い捨てるとその場を後にして、領主の執務室へと向かう。


 時々こうやってバカな使用人を分からせてあげると、何人かは辞めていくみたいなんだけど、結局フーシアが似たような人材を雇ってくるのでイタチゴッコ。


 最近はもう面倒くさすぎて、用がない限りは本邸に来ることがなくなってるんだけどね。

 それでも、時折まともな使用人が泣きついてくるので、そういう時は今日みたいなことをしてる。


 そして、私が今回のようにナメた使用人を暴力を振るっても、お父様はおろか、雇い主であるフーシアすら文句を言ってこない。マジでフーシアは何を思ってこんな連中を雇っているんだか。


 ともあれ、今日の目的はバカを殴ることではないので、本来の目的地へと向かう。




 領主執務室。

 ここに父がいるのを事前に把握済みなので、私はノックをせずに扉を開けて入っていく。


「失礼します」


 部屋の中にいるのは、現領主の父ヘンフォーン。

 一緒に家令であるハインゼルも中にいたので、仕事の話とかしていたのかもしれない。


「……イスカナディア、ノックくらいはしてくれないかな?」

「全く同じコトをフーシア様に言った上でちゃんと(しつけ)てくださるのでしたら、今後は気をつけます」

「…………」


 なんでそこで黙るんだよ。

 表面上だけでも分かったとか言って欲しいんだけど。

 もしかしなくても、お父様も無理とか思ってるワケ? それはそれでかなり無責任だと思うんだけど……。


「そもお父様とダラダラ問答をする気もないので」

「…………」


 今度は怯えたように沈黙する。

 中継ぎだというならまだ許されるかもしれないけど、領主代行とか領主そのものを名乗るなら、内心はともかく、表面くらいはもっとどっしりとしないとダメでしょ。


「ですがまぁ、本題もフーシア様のコトです。

 領書邸の本に手を着け始めました。どうにかしてくださいませ」


 お父様の死角で家令のハインゼルがすごい形相になったけど気にしない。光るメガネの下がどうなってるか気になるけど気にしない。

 老年であるこの家令は、代々うちの領主に使えてきた人だしね。お父様よりよっぽど領主っぽい人だ。


「いや、それは……」

「書類仕事は私や、家令であるゼル爺に丸投げしてくださっても構いません。ですが、領主を名乗るのであればその責務は果たしてください」


 その書類仕事も――ハインゼルを筆頭に文官仕事をしてる人たちは、一部に関してお父様を通さず直接私へと投げてくるモノがあるくらいなんだけどね。


 お父様は、それにも気づいてもいないんじゃないかな。


「ライブラリア家の領主である以上、図書館の維持とそこに収納された英知の管理は、建国の頃より王家と交わした密約による、当家の責務です」

「だが、そんな古い約束事など……」

「どれほど古い約束事だろうと、王家は今も古くに交わした密約を守っています。ならばこちらもそれを守らねば、歴代の王家の方々にも、今まで守ってきた先祖代々にも申し訳が立ちません」


 温い言葉ばっか重ねてまぁ……。


 その古い約束より生じる責務を果たす気がないなら、お前を領主の座から引きずりおろしてフーシア共々追い出してやる――というニュアンスを込めて睨む。


「お父様。事なかれ主義も結構ですが、限界が来ている現実から目を背けるのだけはお止めください。

 フーシア様の振る舞いは、すでにライブラリア家の外にまで波及(はきゅう)しているのですから」


 家の中だけの問題ならまだそれでよかったかもしれないけれど。

 いやまぁ私の部屋が本邸から無くなり、やむを得ず図書館暮らししていることを何にも言ってこない時点で、もう父には何の期待もできないんだけどさ。


 自称事なかれ主義も結構だけど、父のこれはただただ何もしてないだけなんだよねぇ……。


「それと、私へ丸投げする仕事の量が増えすぎです。手が足りなくなってきたのでゼル爺を貸してくださいませ」

「それは待ってくれ。ハインゼルがいなくなるとこちらの仕事も滞って……」

「あれだけの仕事を私に投げておいて、何が滞ると仰るのですか?」

「いやその、なんだ……えっと……」


 すでに女神の元へと旅立っている我が母シュッタイアよ――どうしてこんな男と結婚したんですか? 政略結婚だったとはいえ、さすがに事故物件がすぎませんか?


 ……あ。お母様に祈っておいてなんだけど、なんか明るく快活に笑うだけ笑って何も答えてくれない姿が容易に想像できた。


 お母様に対して、父のことを問いつめるのは、妄想だろうと現実だろうと無駄な気がしてくるな。


「ならば週に一度で結構。それすらダメだというのであれば、私に投げる仕事の量を半分にしてください」

「……わかった。週に一度だけなら、ハインゼルを貸そう……」

「では毎週、風の日にお借りします。よいですね?」

「あ、ああ……」

「というワケでゼル爺、よろしくお願いしますね」


 前半は父に、後半はハインゼルへ。


「かしこまりましたお嬢様」

「ではさっそく領書邸にある私の部屋へ来てもらえる?」

「ま、待ってくれ! 週に一度、風の日のみなのだろう……!?」


 父は大慌てした様子を見せるが、全く持って何を言っていることやら。


「来週からとは言っておりません。何より今日は風の日。ゼル爺を連れていくコトになんの問題がありまして?」


 魚のように口をパクパクさせて固まる父。

 それを横目に見ながら、ハインゼルは私の元へとやってくる。


「では参りましょうか、ゼル爺」

「はい。仰せのままに」


 きっと父にはしていないだろう大仰な礼をするハインゼル。

 そんな彼を連れて、私は自分の部屋へと戻るのだった。




本日はここまで!٩( 'ω' )و

明日はお昼と夜に更新したいと思います!


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