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5冊目 姉と妹

本日2話目٩( 'ω' )و


実はタイトルとあらすじがしっくりきてないので、ちまちまいじるかもしれません


「奥様の気配。完全に渡り廊下を渡りきりました。戻ってくる気配もありません」


 エフェがそう口にすると同時に、私はすぐにサラへと駆け寄った。


「サラ、頬を見せて」

「お姉さま……」


 呼びかけると、サラは涙の浮かんだ目をこちらに向ける。


「我が書よ、ここに」


 私は自分の左手に、本を呼び出す。

 青白く輝く表紙をした分厚い本。


 この国ではあまり使い手の多くない――魔法と呼ばれる力。


 創世の女神様より、地水火風といった自然の力を一つ与えてもらい、使えるようになると言われている異能だ。


 まぁ私のような自然の力の一部に含まれないような、『本』というチカラを授かったりもするんだけど。

 これは恐らくライブラリア家の血も影響しているんだと思う。

 一族の授かった魔法を見ると、わりと『記録』や『本』が関わる属性が多いみたいだし。


 ……まぁそういう話はさておいて、だ。


「今、治すから」


 呼び出した本のページがパラパラと勝手にめくられていく。

 そして治癒の魔法に関する記述があるページが開いたのを確認してから、私はサラの頬に右手をかざした。


「癒しの風よ」 

「お姉さまだって二度も叩かれて……」


 私の右手から広がる薄緑色の光が、サラの頬の痣を優しく包み込んでゆっくりと消していく。


「私は叩かれ馴れているからいいの」

「……叩かれ馴れるようなコトばかりする母ですみません……」

「具合は?」

「治りました。ありがとう、お姉さま」


 フーシアと一緒にいる時のサラは、基本的にフーシアに同調するように立ち回ってはいるけれど、本心や本質的なところではこっちが素だ。


「どうしいたしまして。でも最初はサラだってあんな感じだったじゃないの」

「お姉さま、黒歴史をいじるのは勘弁して」


 恥ずかしがる――というよりも本気で嫌がっているのだから、サラは自分の行いをちゃんと反省しているのだろう。


 最初に、貴族のことを勉強したいと図書館にあるこの部屋に飛び込んできた時は、なんだこの野郎――とは思ったけれど、教えているうちに(ほだ)されちゃったのか、今ではすっかり可愛い妹だ。


「それじゃあ、とりあえず私の部屋に入ろうか」

「あの、お姉さまの顔は……」


 不安げに見上げてくるサラの頭を撫でて私は、左手の本を閉じた。

 閉じると同時に、本がその姿を消す。


「私の魔本に登録されている治癒の魔法は、自分に対しては効果がないの」

「そんな……」


 ショックを受けているところ申し訳ないが、そこは融通が利かないもので。

 この本は、様々な条件を満たした上で私が経験したことが登録され、それを呼び出して使用できるというモノなのだ。


 過去に私が経験した治癒魔法の性能が、他者に対して効果は高いが自分には効果がないというモノだったのだから仕方がない。


「お嬢様方、どうぞ」


 私たちのやりとりを見ていたエフェが扉をあける。


「ほら、サラ。入るよ」

「うん……」


 トボトボと部屋に入ってくるサラ。

 椅子をすすめるとしょんぼりとそこに腰を掛ける。


 その間に私はエフェに手当をしてもらう。

 手当が終わると、エフェはサラに向き直って微笑み掛ける。


「サラお嬢様。もう大丈夫ですよ」


 直後――


「うあああ~~……んんん!!」


 サラは私に飛びつくように抱きついてきた。


「お姉さまごめんなさいいぃぃ~~……」

「サラお嬢様がイスカお嬢様をいびったあと、こうやって泣きついてくる光景が、すっかりこの部屋の名物になりましたね」

「楽しんでるでしょ、エフェ」

「はい。とても楽しく微笑ましい光景かと。大好きです。眼福です」

「…………」


 いい性格してるわ、全く。

 私はサラの頭を撫でながら、エフェにジト目を向ける。もっとも、彼女にはそんなもの何の効果もないのだけれど。


「本……守れなくてごめんなさい……母さんを止めきれなくて、ごめんなさい……」


 めそめそしながらそう繰り返すサラを宥めるように、私は綺麗な赤い髪を()くように撫でる。


「勝手に持っていかずこっちで選別できるようにできただけで十分よ。良くやったわサラ」

「……うん……」


 サラは根が勤勉で良い子だ。

 連れてこられた当初はともかく、私やエフェから貴族教育を受けるようになってから、かなり貴族として振る舞えるようになってきている。


 そんなサラが、今もなお母親につきあってワガママ放題立ち回っている理由がこれだ。


 母親に同調するフリをして、思考や状況をサラの望む方向に向かせることで、被害を最小限にする。


 私やエフェと和解して以降、サラは誰に言われるワケでもなくそういう行いをしているのだ。


 それがどれだけ大変なのかはあの女を見ているだけで分かる。

 だから私は、サラが悪役をしている時は、それに乗っかり、台無しにしないように立ち回っているワケである。


「でも、そろそろ厳しくなってきた。

 最近の母さんは自分の望む方向に話が進まないと、それを遮る人全てが自分を邪魔する存在に見えるみたいで」

「増長も行きすぎるとここまで行くのかって感じね」


 ……しかし、ただの増長とは別の、余計な知恵を付けた言動も少しあったのが気になるのよね……。


 私はサラを撫でながら、エフェへと視線を向けた。


「エフェ」

「はい」

「本の売買に関する根回しは?」

「遅かれ早かれ発生するのは予測できておりましたのでしてあります」

「結構。なら別の諜報仕事をお願いしたいんだけど」

「かしこまりました。何についてお調べすれば?」

「フーシアの人間関係。特にうちへ嫁いで来て以降を」

「了解しました」

「急ぎじゃないから、すぐにやる必要はないわ。手が空いた時でいい」

「はい」


 エフェがうなずいた時、そのやりとりを聞いていたサラが私を見上げながら首を傾げる。


「母さんの人間関係がどうかしたの?」

「ちょっと、ね。普段通りのわがままなようで、気になる点があったから」


 私はあえてはぐらかす。

 サラに聞かせちゃうと、フーシアから無理に聞き出そうとして痛い目に遭わされちゃいそうだし。


「さてと」


 サラから手を離して、離れるように示す。

 それに従ってサラがどいたところで私は立ち上がった。


「お姉さま?」

「ちょっと出かけてくるわ。サラはこの部屋にいていいから」

「なら、ベッドを借りても?」

「いいけど、眠いの?」


 私がうなずくと、サラは嬉しそうにベッドへとダイブする。


「ちょっとお姉さまの匂いに包まれたくて」

「サラは何を言っているのッ!?」

「サラお嬢様ズルいです!」

「エフェも何を言っているのッ!?」

「まぁいいです。わたしはベッドメイクの時に堪能してますので」

「エフェ! あたしよりズルいじゃない!」

「二人ともズルいって何……?」

「ようするにお姉さまが好きですって話!」

「サラお嬢様の言う通り、イスカお嬢様大好きというお話です」

「意味が分からない」


 まったく、二人ともこんな目つきも態度も悪い根暗のどこがいいんだか。


「とりあえずお父様のところに顔を出してくるから。二人とも好きにしてて」

「でしたらお嬢様が戻ってくるまでの間、頼まれた調べモノをしてきますね」

「二人ともいなくなっちゃうんだ……」


 不安そうな顔をするサラに、私とエフェは笑いかける。


「すぐ戻ってくるから。戻ってきたら一緒に夕飯でも食べようか」

「ふふ。イスカお嬢様のベッドを独り占めするチャンスですよ」


 エフェのそれはどうかと思うけど。


「でも、戻らないと母さんが……」

「何を言ってるの。フーシアは本を貰うまで戻ってくるなって言ってたじゃない。私が本を用意できてないんだから、戻らない。それだけでしょう?」

「え?」


 目を瞬くサラに、私は意地の悪い笑みを浮かべながら、言い聞かせるように告げる。


「何度も教えているでしょう? 貴族の喧嘩(ケンカ)は殴る蹴るの暴力より、態度や言葉による間接的で歪曲的な、屁理屈と概念でのマウントの取り合いだって。

 他人を顎で使って詳細を詰める気がないんだから、指示の余白でいくらでも遊んでやりゃいいのよ」

「つまりイスカお嬢様が本を用意しないのであれば、百年でも二百年でも、帰る必要はないんです。だって本が用意されていないのですもの」

「うあー……貴族って怖い」


 割と本心で言ったっぽくてちょっと傷つくな。


 まぁともあれ、そういう屁理屈合戦の中を信念も理由もないワガママによる暴力だけで押し通ろうとすれば、絶対にどこかで潰されるワケなんだけど……。


 サラはともかく、あの女は本気それを分かってなさそうなところ、ちょっとどうかと思うのよね。


 あるいはそれでどうにでもなると思っているのか……。


「とりあえず、ちょっと行ってくるから」

「失礼しますね」

「二人ともいってらっしゃーい」


夜に次話を更新予定です٩( 'ω' )وそちらもよしなに!

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