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27冊目 サファイアとオニキス

更新予約ミスってました٩( 'ω' )و申し訳ない

本日分、慌てて更新しました


「――で、お嬢様。お食事のあとのお買い物ではなにを買ってもらったんです?」


 私の着替えを手伝いながらエフェがニヤニヤと訊ねてくる。


 ケルシルト様とのデートを終えて、家に帰ってくるなりこれだ。

 エフェは着替えを手伝いながら、その時の話をせびってくるので、根負けして話をしているのだけれど……。


「…………」

「お嬢さまぁ?」

「…………」


 他人事だと思って根掘り葉掘り聞こうとしてくるエフェがちょっと鬱陶しい。


 いつもの部屋着に着替えたあと、私はハンドバッグから魚の形をした首飾りを一つ取り出す。

 正確には、開いた本から飛び出したような、魚だ。


 小さなその本と魚は、銀細工とサファイアで作られたモノ。


「あら、素敵じゃないですか」

「……ついね。言っちゃったのよ」

「何をですか?」


 素敵な魚の銀細工を見ながら、お店でのやりとりを思い出す。


  ・

  ・

  ・


 宝石と銀細工のお店にて――


「キミが黒と赤を好むのはなんとなく分かるんだが、他に好きな色とかはないか?」

「黒と赤以外ですか?」

「そのキミのドレスに埋没してしまうようなモノは、なんとなく勿体ない」

「え? それって……」

「あー……せっかくだからな。男の甲斐性として、キミに何か贈りたいんだ」


 正直、そんなことを言われたのは初めてだ。

 初めてすぎて、なんと答えていいのか分からなかった。


 ただ、私を見つめるケルシルト様の瞳の色が、なんとなく『大図書館』を思い出させた。

 だからだろう。あまり意識していなかったのだが、ふと思い、口にしてしまったのだ――


「それなら、青……ケルスさんの瞳の色と同じような青が好きです」


 ――と。


 そういうモノに疎い私でさえ、うっかりしすぎだと思った。

 あなたの瞳の色と同じ装飾が欲しいとか、ちょっと踏み込み過ぎだと。

 恋人や婚約者ならいざ知らず、そういう関係でもない私が何を口にしているのか、と。


 だというのに、ケルシルト様はむしろ嬉しそうに訊ねてくるのだ。


「好きなモチーフはあるか? 花とか蝶とか」


 それを答えてしまえば、それを購入し、贈られることになるだろう。そのくらい私でも分かる。

 だけど、ここで答えないというのも、なんだか失礼な気がして……。


 店員さんが微笑ましいモノを見る目をこちらに向けているのを見ないフリしながら、私は必死に頭を巡らせた。


 そうして思い浮かんだのは、やっぱり『大図書館』だ。

 青いあの空間。海を思わせる雰囲気だけでなく、幻影の魚が泳ぎ、床から幻影の海藻が揺らめくあの空間。


「本と魚、ですかね?」


 青と銀を組み合わせるなら、あの『大図書館』らしいモチーフは悪くない。


「変わった取り合わせだ」

「海の中にある真っ青な図書館……我が家にはそういう伝承がありますので」

「見たコトは?」


 私は答えずに肩を竦める。

 少しばかり、口を滑らしすぎた気がする。


 だけどケルシルト様はそれ以上は踏み込んではこず、分かったとだけ一言口にして、お店の人のところへと向かう。


 その間、私は店内を少し見て回る。

 宝石や銀細工、それらが加工されたアクセサリ。


 自分には縁遠いモノだと思っていたけれど、こうやってお店の中を見ているだけで、不思議と心躍る自分がいる。


 意外と、こういうものにときめきを感じる乙女心が、自分の中でまだ息をしていたことに驚いた。


 ふと、オニキスが目に入る。

 美しい黒の宝石。


 ……いや、何を考えているんだ自分は……。

 さすがにそれは、本気で恋人や婚約者などがやる行いだぞ。


 とはいえ、自分だけが貰い続けるのもなんだか違う気がして……。


 チラリとケルシルト様の様子をうかがい、それから別の店員さんへと声を掛ける。


「あの……」

「どうなさいました」

「……あちらの男性に気づかれないようにちょっと」


 そう告げると、店員さんはすぐに理解してくれたのか、声を抑えてくれる。


「黒い宝石……オニキス辺りで何か作って貰えますか?」

「お支払いは大丈夫ですか?」

「はい……今日は一括で払えるほど持ち合わせはありませんが、後日必ず支払います。必要であれば、連絡先や諸々のサインも」

「かしこまりました」

「モチーフなどのご希望は?」


 ……あー……そういうのよく分からないな。

 どうしよう……。思いつかないから、そうだな……。


「あちらと同じモチーフで……」


 店員さんはうなずき、チラっとケルシルト様の方へと視線を向ける。

 すると、ケルシルト様を対応していた店員さんとなんらかのアイコンタクトを取った。


「お名前と連絡先、連絡を方法を手早く」

「ありがとうございます」


 そうして、本名を記す。

 連絡先は王都の家ではなく、王立図書館の司書室宛てにする。


「……こ、これはお気づきになれず……」

「お忍びしているのはこちらですのでお気になさらず。どのくらいでできます?」

「これでしたら数時間ほどかと思います」

「わかりました。今日はもう取りにはこれませんし、取りに来るのは後日となり、遅くなるかもしれません。ですが、必ず自分で取りに来ますのでしばらく保管しておいて頂けると」

「かしこまりました」


 なんというか、やってしまた……と思わなくもない。

 絶対に、恋人とか婚約者であると誤解されたとは思う。


 だけど、自分も贈りたいと思ってしまったので仕方が無い。

 仕方がないのである。


 そのあと、しばらく別のお店をハシゴしながら買い物をして、最後に改めてこのお店へと立ち寄って、注文した品を受け取ったケルシルト様が、私にそれをプレゼントしてくれた――というのが流れである。


  ・

  ・

  ・


 ――という話をエフェにすると、エフェは大きく目を見開いた。


「お嬢様、ご自身でも理解しておられたようですけど……」

「分かってる。分かってるわ。今、冷静になったらちょっとお店での勝手が分からなかったとはいえ、どうかと思う注文の仕方したのは分かってるから」


 同じモチーフの色違い。

 しかも色は互いの瞳の色だなんて意味深がすぎる。

 我ながらなんて注文をしてしまったのだと、今ちょっと後悔している。


「元々肌が白いですから、朱が入ると大変目立ちますねお嬢様は」

「……エフェ!」


 クスクスとからかうように笑われて、思わず大きな声を出してしまう。


「でも、お嬢様のお気持ちは間違いなく恋じゃないですかねー」

「……恋……ねぇ? 私が?」

「男も女も貴族も平民も関係なく、恋というのはするモノですよ?」

「うーん……」


 自分ではよくわからない。

 だけど、だいぶやらかし気味なのは間違いない。


「後日、お店に行くけれど……買ったあとどうしよう、首飾り」

「え? 公爵閣下にお渡しするのでは?」

「…………いやまぁ、そーなんだけど……」


 急に気恥ずかしくなってきちゃったんだよね。


 ほんと、やらかした。

 気軽にプレゼントしづらいデザインにしちゃったのは、我ながら本当に抜けている……。


「勢いで注文するもんじゃないわね」

「今更ですので諦めて腹括ってプレゼントしちゃえばいいと思うんですけどねー」

「私とケルシルト様が平民だったら、それでも良かったかもだけどさぁ……」

「まぁ、そういう言い方をされてしまうと……そうですよね」


 エフェも貴族だ。私の言い分は理解できるだろう。


 貴族だからこそ、おそろいの色違いアクセとか誤解の元である。

 本当に、勢いだけでやらかしたなー……って感じ。


「でも、わたしとしましてはプレゼントするべきである――と、助言致します」

「……そうなの?」

「はい。公爵閣下はお喜びになるかと思いますし、分かっているのであれば、堂々と身につけたりはしないかと思います。

 注文の仕方に不慣れでこうなった……と、言い訳を添えればそこまで怒られませんよ。それどころか、絶対喜ばれると思います」

「そう、なのかな?」


 エフェは自信満々に言うけれど、私はちょっと分からない。不安の方が強いかな。


「もう少しお悩みなられても良いのではありませんか? 受け取りにいく日取りは決まってないのですから」

「そうだね。うん、そうする。もうちょっと悩むわ」


 そんなわけで、ケルシルト様とデートした日の夜は、こうして過ぎていくのだった。


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