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1冊目 古の密約と賢者の家系

新作はじめました

異世界恋愛長編に再挑戦٩( 'ω' )وドキドキ


お読み頂いた方々が少しでも楽しんで頂ければ幸いです

よしなに!


「イスカナディア・ロム・ライブラリア。此度も苦労を掛けた」

「いえ。これも古来よりの密約による仕事ですので」


 王城にある執務室――のように見せかけた秘密の小部屋。

 その場所で、私ことイスカナディアは、陛下より受けた依頼の報告をしている。


「育てやすく味も良い故に、我が国でも栽培しようと思ったが、このような弱点があるとはな」

「はい。ですが、報告書にありますように輪作すれば問題ありません。

 すでに別の野菜で似たようなコトをやっている領地も併記しておきましたので、そちらより知恵を借りるのが良いかと思います」 


 新しく異国から仕入れた野菜。

 異国より教わった通りに育ててみたものの、三年目から不作になってきたそうで、その相談をされたのだ。


「ふむ。だが、この野菜の苗をくれた国ではそのようなコトはないようだが?」

「土壌――土の性質の差かと。

 調べたところ、この野菜は土の性質によって、少々育成の仕方を変える必要があるようです」


 調べ物はライブラリア家が得意とするところ。

 王が自ら調べても満足いく結果が得られなかった時などは、秘密の連絡法によって我が家へと依頼がくるのだ。


 調べ終えたなら王城のこの部屋にて密会をし、報告する。


「それで輪作か。畑にした土地ではそのように育てねばならぬワケだな」

「はい。輪作の際に育てる植物の一つとして、薬草の一種であるルオナ草を育てるのを勧めます。理由もそちらの報告書に」

「土壌の状況を回復させるだけでなく、傷薬の材料になるルオナ草を増やすか」


 報告書を見ながら、陛下は下顎を撫でて難しい顔をした。


「これはまだライブラリアに相談はしていなかった薬が高騰する兆しへの解決案か?」

「野菜の輪作向けの植物について調べていたらたまたまルオナ草が出てきましたので。

 解決するほどではないでしょうが、ちょうど良いタイミングかと思いまして、記載させて頂きました」

「いや助かる。いくつかの緩和策を並行していく予定だったのでな。それが一つ増えるだけでもありがたい」


 古い密約により、ライブラリア家はこの国の王家が困った時に知恵を貸すことになっている。これは(いにしえ)の時代より知恵を蓄えてきた――賢者の家系ライブラリアだからこそできることだ。


 王家はライブラリア家に土地を与え、ライブラリア家を守る。

 また調べ物の依頼をした際には相応の報酬を支払う。


 古き時代――相互にそういう約束をした両家は、今もなおその密約を守り、その関係を続けているのである。 


「うむ。此度も良き知恵を借りれたようだ。感謝する」


 調べてきた内容に、陛下も満足してくれたようでひと安心だ。


「しかし、イスカナディアよ。まだ表に出てこないつもりか?」


 ……と思ってたらこの話か。


「現状のライブラリア家当主は我が父ですので」

「その父は正当な当主ではなかろう? お前が成人するまでの中継ぎだったはずだが?」


 暗に――すでに成人してるのに、お前は当主にならんの?――と言われているのは理解する。


 ……事情や細かい話はすでに報告してあるんだけどな……。

 まぁそれだけ、とっとと当主になれって思われてるということだろう。


「ずいぶんとお待たせしてしまっており申し訳ありません。

 ですが思っていた以上に、問題が重なっておりまして。ある程度解消してから当主になりたいのです。

 当主になってからでは解決が難しい案件もいくつかあるものでして」


 嘘は言っていないんだけど、もうちょっと自由でいたいというのも本音だ。

 問題を解決したい一方で、解決しちゃうと当主ということで、もっと大変になるだろうしなぁ……。


 それに、今現状無理矢理に当主の座を奪うと、足を引っ張るのに余念のない人がイキイキとしちゃいそうってのもある……。


「ある程度聞き及んではいるが――深刻なようだな」

「ええ、はい」


 ううむ……と、陛下が眉間に皺を寄せる。


「こちらから出来るコトは少なそうではあるな」

「当家の問題ではありますので」


 お母様が急逝してお父様が当主代行を務めてはいるんだけど、お父様はあまりにも貴族家当主として正直無能すぎてなぁ……。

 母亡きあとに、父が即座に後妻として連れてきた女も素行に問題が多いときた。 


 挙げ句、ちょいちょい余計なことしてくれてるから、対処が大変なんだよね。


「分かっておる。しかしだなイスカナディア。

 余はお前を気に入っているし、ライブラリア家のこれまでの功績を理解している。

 だが、あまりにも表向きの顔に問題があるようでは、余とてかばいきれぬぞ?」


 まぁそうだよなー……。

 いくら密約によって優遇されている家とはいえ、陛下も表向きは、ウチを通常の伯爵家として扱っている以上、父が目に余り出すと陛下も困るわな。


「心得ております。密約が果たせぬような状況にだけは絶対にならぬよう誠心誠意やらせていただきます」


 丁寧に礼をして見せると、陛下は少し戯けた調子を見せる。


「そのような臣下の礼は、密約の場ではいらぬぞ?

 エントテイム王家、ライブラリア伯爵家……そしてティベリウム公爵家。我ら三家、密約の場においては対等よ」

「ですが、ライブラリアは表向き伯爵家。普段より態度を崩しては、臣下の礼が必要なところでボロを出してしまい兼ねませんのでご容赦を」

「まったく真面目よな。しかしだからこそ、信用に値するというものだ」


 嘆息か感心か。

 ともあれ、陛下の不興はかってないようだ。


「根回しや準備など、もうしばらくお時間を頂いてしまいますが、ご容赦を」

「分かっておる。本来、イスカナディアにそのような苦労は不要なのだがな……」

「それが必要となってしまっている以上は、乗り越えねばなりませんので」

「社交にも出る機会を失っているようだが……世継ぎに関しては大丈夫なのか?」

「本来は考えねばならないのでしょうが、このような状況です。まずは当主を継いでから考えたいと思っております」

「事情がある上に、ライブラリア家であるというアドバンテージがあれど、行き遅れは大変だぞ?」

「ご心配痛み入ります。そうならぬよう気をつけます」


 正直、今は結婚のこととか考えている余裕はあまりないからなー……。


「ああ、そうしてくれ。

 此度の報酬は現金で良かったな? いつもの方法で支払おう。必ず受け取るように」

「恐れ入ります。では失礼します」


 一礼して、私は陛下の執務室をあとにする。


 それから王家とライブラリア家の正当継承者しか知らない方法で、自分の領地へと帰還するのだった。


 密約やら、家やら、領地やらを守るのに必要なこととはいえ、やっぱ陛下とやりとりするのは私にはシンドイや。


 あー……肩凝った。



準備が出来次第、次話投稿します!

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