6. 初めての飛行
「ええ、正確には微調整なので、極端に見え方が変わるわけではないのですけど」
僕の回答に女性の表情が期待に輝いた。
「その調整とやらは、どんな場所ならできるのだ?」
視力の測定にはいくつかの方法があり、それぞれ1メートル、3メートル、5メートルの距離を必要とする。
そのうち1メートルの方法は専用の機械が必要だが、3メートルと5メートルならば機械がなくても実施可能だ。
だから僕は
「そこそこの広さがある屋内なら大丈夫ですよ」
そう答えた。
すると女性は満面の笑みを浮かべて言った。
「よし、それならば我が家に招待しよう」
そう言うと、急に女性の姿が霞がかり、再び現れた。
その姿は妖艶さが増し、恐ろしくも美しい、思わず傅きたくなる魔女のような印象があった。
そして更に印象的だったことは、その背中に翼が生えていたことだ。
急激な変化に戸惑う僕に女性は言った。
「我が名はミーナ・サウスゲート。魔族の王国アークゲートの王族に連なる者」
補助スキルによると、魔族とは人族に近い存在で、天敵レベルで対立しているようなことはない。
実際、人族と魔族の混血人も大勢存在しているそうだ。
つまり、人族と魔族は仲良くも悪くも出来る存在だと言うことだ。
一応、人族に比べて魔法が得意と言う特徴があるようだ。
その補助スキルを介した知識があったので、僕は彼女の発言に驚きはしたが、恐れることはなかった。
姿もその得意な魔法で変装していたのだろう。
貴族の一人旅ともなれば、そのような対策が必要になってもおかしくはない。
それに、まだこの世界に来たばかりで、今夜の宿泊場所すら決まっていない僕にとって、ミーナのお誘いはは大変ありがたい話だった。
その容姿も僕のどストライクだし・・ゴホン。
「では行くぞ」
そう言うとミーナは僕を手招きをする。
すると僕の身体が浮かびあがり、ミーナの方に近づいていく。おそらくこれが魔法なのだろう。
そしてミーナの息が僕にかかる距離まで来ると、彼女は僕をお姫様抱っこして、空中に舞い上がった。
「さあ行くぞ。しっかり捕まっていなさい」
この喜ぶべきか否か、なんとも判断に困る状況で、僕は初めての空中移動を体験するのであった。