5. 初めてのスキル使用
僕は早速女性の診察に取り掛かる。
補助スキルのおかげか、スキルの使い方は頭に入っていた。
「スキル発動」
そう呟いて女性の目を見る。
そうすると女性の横の空間に数値が現れた。
それは僕にとっては見慣れた数値であった。
というのも、それは女性の視力に関するデータだったからだ。
現代の医療で説明すると、眼科に行った場合、高確率で行われる、気球が見える機械を覗く検査、といえばわかるだろうか?
これはオートレフという機械を用いて、その方のおおよその視力と角膜の形がわかるという、物凄く便利かつ重要な検査なのだ。
女性の隣に現れた数字はその機械を使用した場合にわかるデータだった。
・・ふむ、これじゃあ日常生活も大変だろうな。
それが数値を見た僕の感想だった。
女性の視力はおそらく裸眼で0.02くらい、コンタクトを使うとしたら-8.00くらいになると思われる強度近視だったからだ。
本来はこのデータを元に眼鏡やコンタクトの度数を調整するのだが、こんな場所ではできるわけがないので、とりあえず近似値の、仮のメガネを作成することにする。
「メガネ召喚」
僕が作成するメガネのデータを思い浮かべつつそう呟くと、僕の目の前にメガネケースが現れた。
・・まさかメガネケースに入っているとは
そう思いながらケースからメガネを取り出すと、レンズは薄型、フレームは若い女性向けの洒落たデザインと言うお値段高めのメガネだった。
・・神様、サービス満点のスキル、ありがとうございます。
「本当にこれで治るのか?」
女性はその眼鏡を受け取りつつ、不信7割、期待3割といった表情でそう言った。
「治るわけではありませんが、見え方は改善します。私がしているように装着してください」
普通に考えれば、会ったばかりの男から見たこともない物を渡されても不信感しかないだろう。
下手をすれば通報案件だ。
しかし、メガネやコンタクトがないこの世界において、視力の矯正ができるということは、恐ろしいまでに魅力的な出来事だ。
女性もその魅力には抗うことはできず、恐る恐るメガネをかけて周囲を見渡す。
「なんと・・、本当にこんなことが・・」
どうやら上手くいったらしい。
初めてスキルを使うのだから多少心配はあったのでホッとした。
なにしろこの女性には、下手をすれば殺されかねない迫力があったからね。
「凄い・・、空が、草原が、全てがはっきり、美しく見える・・」
女性の頬には一筋の涙が光っていた。
理論的に考えれば、この女性は、これまで手に入る情報の8割が不鮮明だったということになる。
その8割が一気に改善されたのだから、その感動は大きいだろう。
僕は改めてメガネという発明の偉大さを目の当たりにしたのだった。
その感動を邪魔するほど無粋ではないので、女性が落ち着くまで待ち、改めて声をかけた。
「本当はもう少し調整するのがいいのですけど、流石にここではできないですからね。その代わり、いつかまたお会いしたら無料で調整させていただきますよ」
その僕の発言に女性が反応した。
「え、もっとよく見えるようになるのか?」