4. 初めての出会い
気づくと僕は草原に寝転がっていた。
服装も中世のヨーロッパ風のものに変わっていた。
おそらく、これがこの世界のスタンダードな服装なのだろう。
ああ、メガネだけは元々使っていたものだな。
これだけはないと困るので助かった。
僕は起き上がり周囲を見渡すと、あたり一面広い草原で、中央を一本の道が貫いていた。
その道の彼方に一筋の煙が見えた。
黒煙がもうもうと昇っているわけではないので、火事ではなく、料理や焚火の煙だろう。
つまりは人がいる可能性が高いということだ。
僕はそこを目指して歩き始めた。
焚き火の側には1人の女性がいた。
かなりの美人で、気の強そうな瞳が印象的だった。
この世界に来て初めての人との出会いだ。
彼女は無言で僕を睨み、剣を構える。
「貴方は誰?変な動きをすれば死ぬわよ」
一つ訂正。
「気の強そうな」どころではなかった。
はっきり言って滅茶苦茶怖い。
恐怖でどう答えるべきか頭が回らない。
しかし突然僕の口が開いた。
「驚かせて申し訳ない。私はマコト、さすらいの旅人です」
・・何その設定、僕は知らないぞ。
ああ、そうか、これが補助スキルの効果だな。
名前はあっているが、もしかすると苗字がない世界なのかな?
「この通り私は丸腰です。体を休めたいのでどこか近くの街に行きたいのですが、ここから近くにある街をご存知ないですか?」
補助スキルが喋り続ける。
女性は僕に向けていた剣を道の一方に向けて
「この方角に歩いて行け。そしてここから見える、あの大きな木のところで道が別れている。そこを右に進み、半日程の場所に小さな村がある」
そう教えてくれた。
物凄く分かりやすい。旅慣れているのだろうか?
「ありがとうございます」
僕は御礼を言うと、一つ気になったことを尋ねてみる。
「あの、もしかして目が悪いのでは?」
分かれ道の所の大木、ここからでも見えるくらい大きいのだが、結構遠くにある。
女性がその遠方にある大木を見る時、目を細めていたのに僕は気づいた。
その僕の質問に、女性は凄まじい殺気を僕に向ける。
・・え、この質問、地雷だったの?
「貴様、それ以上言ったら命はないぞ」
再び剣が僕に向けられる。
やばい、この世界に来た早々死んでしまうのか?
これじゃあまるでクソゲーRPGの世界だ。
「お気に触ったのであれば申し訳ありません。実は私は視界に関するスキルを持っているので、こういったことがわかるのです」
僕の2度目の危機を救ってくれたのはまたもや補助スキルだった。
「ですので、ある程度視界を改善することもできるのです。道を教えて頂いたお礼に、宜しければと思うのですが、いかがですか?」
女性は相変わらず剣を僕に突きつけたままだったが、いくらか殺気を減じさせ、不審そうに聞く。
「本当にそんなスキルがあるのか?」
「はい、実際、私も目が悪く、これを使って補助しています」
そう言って僕は使っている眼鏡を外して見せる。
「この通り、簡単に着脱出来る代物なので、呪いのアイテムなんてことはありません。貴方用にこれと似たものを作れますので、宜しければ差し上げますよ」
僕の説明に女性はじっと考えていた。
そして決心がついたようで、こう言った。
「ならばやってみろ。ただし、少しでも怪しいものだったら、どうなるかわかっているな!」